この記事をまとめると
■タクシーを題材にしたサスペンスドラマは意外と現実に近い内容だ
「釣りはいらねぇ」「あのクルマ追って」「東京から四国まで」は本当にあった! タクシードライバーが遭遇したドラマみたいなホントの話
■長距離客や尾行というケースも実際に存在している
■働き方改革や各種ハラスメント問題などで「お仕事系ドラマ」が減っている
タクシードラマは意外とリアル
過去に「2時間ドラマ」が隆盛を極めていたころ、いくつかのテレビ局の2時間ドラマではそれぞれタクシー運転士が事件を解決するというシリーズが存在していた。
「刑事ドラマがテレビ向けにエンタテインメント的要素を加味し、実際の刑事の捜査活動と『似て非なるもの』となっているのは多くの人がご存じの話。タクシー運転士が事件を解決するドラマも基本的には刑事ドラマとノリは変わらないのですが、細かい部分では事前にタクシー運転士の日常業務を取材して再現しているなぁと感じる部分も多いです」とは事情通。
事情通は、タクシー会社の事務所での主人公やそれを取り巻く同僚運転士や運行管理者とのやりとりは、「よく調べてドラマに採り入れているなぁ」と感心しながらドラマを見ている(いまもCS放送では過去のタクシー運転士ものが放送されている)とのこと。
「あくまで私見ですが、2時間ドラマでのタクシー運転士ものの『二大ドラマ』は、渡瀬恒彦氏主演の『タクシードライバーの推理日誌』と、余貴美子氏主演の『女タクシードライバーの事件日誌』を挙げることができます。どちらも入念にタクシーという仕事がどういうもので、どのような流れで日々行われているのか事前取材に余念がない様子がうかがえました。ちなみにこれはあくまで私見ですが、『女タクシードライバーの事件日誌』のほうが、タクシー事務所での点呼や運行管理者や同僚運転士のやりとりなど、日々のルーティンワークのシーンはよりリアリティを感じて見ていました(事情通)」。
「事件もの」ではないのだが、連続ドラマだけではなく、劇場映画も製作された「ねこタクシー」もタクシー業界を舞台にしたドラマとなる。こちらは、カンニング竹山氏扮する元中学校教師でタクシー運転士の主人公が、ひょんなことから出会った三毛猫の「御子神さん」をタクシーに乗せて営業を行い、そこで出会う人たちと織りなすストーリーが毎回展開されるドラマとなる。
「三毛猫を乗せてタクシー営業」ということ自体がすでにありえないのだが、やはりタクシー会社の車庫や事務所で同僚や運行管理者とのやりとりはかなりリアルに描かれていて、「単にネコ好きなので見始めたが丁寧にタクシーという仕事を描いていたので驚いた」とは、これまた事情通。日常業務がリアルに描かれる背景には、いずれのドラマでも実在するタクシー会社が車庫や事務所、車両なども含めて撮影に全面協力していることが大きいことは間違いない。
「タクシードライバーの推理日誌」では、毎回都心でタクシーに乗り日本海沿岸部など驚くべき長距離の目的地を犯人役の俳優(女性)が指示するシーンがあるのだが……、筆者も過去に仕事が長引き終電を逃したタイミングで都心から40kmほど離れた自宅までタクシーで帰ることがたまにあった。たいていの運転士は「万収(万円単位の料金)」確実の「ロング(長距離利用客)」を乗せたとして上機嫌で運転しているので、ここを逃すなとばかりに業界のことをいろいろと聞いて取材するのだが、あるとき「テレビドラマみたいに、とんでもない長距離利用客なんていないですよね」と聞くと、「お客さん、それが意外に結構いるんですよ」と話してくれたことをいまも覚えている。
そして、「同僚から聞いたのですが、あるとき若い男性が真夜中にタクシーに乗ってきたそうです。目的地を聞くと都心から静岡県の沼津市内ということでした。旅客輸送を請け負う前にその運転士が『お金はあるのか』と聞くと、『目的地は実家なのでそこで払う』と答えたそうです。運転士は、それが嘘だったらと警戒して、さらに確認するために実家の電話番号を聞いて携帯電話で実家に連絡したそうです。するとその若者は、実家を10年ほど前に家出して音信不通だ……というのです。とはいえ、電話に出た親御さんいわく『料金は必ず払いますので絶対に乗せてきてください』とのことになったので、ちゃんと沼津まで送り届けたそうです(事情通)」。
ドラマ内の演出は意外とリアルでも発生する
また、「ドラマではよく『前のクルマを追ってください』というシーンがありますが……」と聞くと、「これもねえ、意外に多いんですよ。我われはお客さまの事情について深追いするのはタブー視されているので詳しい事情はあえて聞きませんが、探偵事務所などによる浮気などの素行調査などを行っていて『前のタクシーを追う』というケースが意外と多いようです」と話してくれた。日々の生活に疲れて運転士に相談事をしたり、人情話をしたいというだけでタクシーに乗る人も結構いるようである。
いまどきはキャッシュレス決済が多くなってきているが、これも劇中で『お釣りは結構です』といって降りるシーンもよくあるのだが……、「日本ではチップという文化はありませんが、これも『お釣りはいらない』というパターンで多いのですが、1回の乗務で意外なほどチップが貯まることもあった様子(いまではスマホの配車アプリでチップを払うかどうかのメニューが設定されている)。ちなみに、過去にたまに長距離利用していた筆者は、降りるときに「帰りにお茶でも飲んでください」と、コーヒー1杯程度のチップを渡すようにしていた。
いまでは4年制大学を卒業し、そのままタクシー運転士になるというパターンもあるようだが、それでも「異業種から転職する中高年」がタクシー運転士の経歴としてもっとも多い。転職してくる理由はさまざまであるものの、訳ありなケースも多く「タクシー業界は日本社会の縮図(事情通)」ともいわれている。寡黙な運転士の場合は無理に話しかけないが、話好きな運転士のタクシーに乗ったときには、業界事情を探りながら積極的に話すことを筆者は心がけている。
単なる「推理もの」というだけではなく、多くの人が慣れ親しむ公共交通機関であり、そこには意外なほどさまざまなドラマがタクシーに存在する。「タクシー運転士の推理もの」はそこがうまく合わさり人気シリーズとなっていったものと考えている。
ただ、最近はタクシー業界を舞台にしたドラマというものを見かけない。働き方改革や各種ハラスメント問題などもあり、タクシーだけではなく、職場を舞台にした「お仕事ものドラマ」は作りにくくなったとも耳に入っており、世知辛い世のなかになったなぁ……ともつぐづく感じている。
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みんなのコメント
今時のタクシー運転手なんてカツカツなんで
グルメな店に行く余裕なんてありませんヨ
だからこれ聞かれるとホント困るんですわ(某氏談)