運営元:旧車王
著者 :増田 真吾
プジョー 205GTI/CTIがホットハッチの名車に上り詰めた理由とは? 開発背景と独特の魅力を徹底考察
ヘッドライトの形状に合わせて盛り上がったフロントから、リアエンドにかけての流麗なラインが魅力の名車・フォルクスワーゲン カルマンギア。70年近く前の1955年に登場したクルマにもかかわらず、現在でも人気が高いうえ、中古車市場での流通台数もそれなりにある珍しい旧車です。
フォルクスワーゲン社が戦後のブランド地位確立を目指して開発した、カルマンギアの開発背景と魅力をたっぷりと紹介します。
フォルクスワーゲンのブランドイメージを高める1台フォルクスワーゲン社は、第2次世界大戦前に開発した「KdF Wagen」の車名を戦後「タイプ1」と改めて再生産します。「ビートル」の愛称で親しまれる、ヒット作を生み出すことに成功しました。
さらなるブランドイメージの向上を目指した経営陣は、新たに上級モデルのパーソナルカーの開発を考えます。当初は別のモデルが予定されていましたが、紆余曲折の末に生み出されたのがカルマンギアです。
カルマンギアの開発背景を振り返ってみましょう。
開発期間短縮のためにビートルをベースに開発カルマンギアが登場したのは1955年。ビートルの成功後、早い段階で上位のパーソナルカーを考えていたフォルクスワーゲンは、当初はビートルの2シーターモデルをそのポジションにおく予定でした。しかし、生産拠点の火災の影響などもあって、ブランドイメージを構築できないまま1953年には生産が頓挫しました。
そこで、フォルクスワーゲン社は、ビートルの派生ではなく新たなモデルの開発を決断します。しかし、上級モデルの立ち上げは、すでに当初の予定から遅れていたため、できるだけ開発期間を短くする必要がありました。そこで、開発期間とコストを抑えつつ新たな車種を生み出すためには、主要コンポーネントの多くをビートルと共通にせざるを得なかったのです。
車名の由来となった開発2社新たな車種の開発を決断するものの、残念ながらすんなりとは完成しません。カルマンギアの開発は、フォルクスワーゲンのカブリオレの生産を一手に引き受けていたカルマン社に依頼します。しかし、カルマン社のデザインしたプロトタイプは、フォルクスワーゲン首脳陣に採用されませんでした。
そこで、カルマン社はイタリアの代表的なボディデザイン会社、ギア社に相談を持ちかけます。ギア社の仕上げたプロトタイプは、左右が盛り上がったデザインのフロントノーズからルーフ、リアエンジンフードまで流れるような素晴らしいデザインでした。カルマン社のデザインに首を縦に振らなかったフォルクスワーゲン社の首脳陣は、感嘆とともにプロトタイプを承認。ボディ生産を担うカルマン社、車輌をデザインしたギア社の社名を合わせて、「カルマンギア」と名付けられました。
もし、当初提案したカルマン社のデザインが採用されていたら、車名は「カルマン」だったかもしれません。
ボディデザインの変更は失敗1955年に発表したカルマンギアは、フォルクスワーゲン社の狙い通り成功を収めます。さらなる地位の確立を目指して、より豪華で速いモデルを発売しました。
タイプ3をベースに開発した、通称タイプ34と呼ばれるカルマンギアを1961年にリリースします。アメリカ市場や近代化を意識して、直線的なボディデザインを採用しますが、変更したボディデザインが裏目に出て、ユーザーからの支持を得られませんでした。結局、タイプ1(通称:タイプ14)のカルマンギアが1973年まで生産されたのに対して、タイプ34の生産は1969年に打ち切られました。
意欲的に改良が続けられたカルマンギア市場に投入されたカルマンギアは、フォルクスワーゲン社経営陣の狙い通り販売台数を伸ばしていきます。しかし、販売台数と高まったブランドへの上昇機運をより高めるため、意欲的に開発を続けました。
1955年から1973年の18年間にも及ぶカルマンギアの生産期間中、性能の向上を図り続けたカルマンギアの歴史を振り返ってみましょう。
度重なる性能向上が図られたエンジンカルマンギアは、走る楽しさを追求したモデルだけに、エンジンの開発は精力的に行われました。カルマンギアに当初搭載されたエンジンは、1,192ccの水平対向4気筒OHVエンジンで、パワーは30hp。1961年には細かな仕様を見直し、同排気量ながら最高出力が34hpに引き上げられました。
さらに、1966年に排気量を1,285ccにアップし最高出力は40hpに向上、最高速度も128km/hを記録しました。1967年には、1,493ccにまで排気量が引き上げられると、最高出力は44hpで最高速度は136km/hに達します。
最終的には、1970年モデルで、排気量1,584cc、50hp、最高速度は実に140km/hにまで高められました。
市場ニーズを的確に取り入れた内外装カルマンギアの発売2年後の1957年には、カブリオレモデルを発表します。また、標準モデルを含めた内装も、専用ステアリングやサンバイザー、オルガンペダルの装着といった改良が加えられました。
1960年には大幅なマイナーチェンジが図られます。とくに外観面の変更は大掛かりなもので、フロントフェンダーの形状、ヘッドライト位置の変更やクロームメッキのグリルの装着、テールランプを角型から三日月型に変更と、従来のスタイリングを踏襲しつつ徹底的に全体の設計が見直されました。
また、運転席のアームレストや助手席のフットレスト、ウィンドウウォッシャーの装備など快適性を高める装備も時代に合わせて追加されていきます。さらに、エンジン性能の向上にともなって、トランスミッションのフルシンクロ化や1960年代後半にはフロントディスクブレーキの装備といった形で走行性能に関連する装備も次々にグレードアップされていきました。
ビートル以上に一部ファンから人気を集めるビートルは独特なスタイリングから、今でも人高い人気を誇っています。カルマンギアもビートルと同様に、今もなお根強いファンの支持を集めるクルマです。むしろクルマの特殊性から、ビートル以上に熱狂的なファンも多くいます。
販売台数は44万台あまりにのぼり、1973年に生産終了したクルマとしては比較的入手しやすいです。しかし、状態の良い個体は一般的な旧車に比べて少なく、なおかつ意欲的に年次改良が重ねられて年式ごとに仕様がバラバラであるために、目当ての1台を見つけるまでにはかなりの根気が必要でしょう。
また、年式によって細かな違いがあるために、一般的な買取業者だと正しく査定してもらえないかもしれません。売却の際には、カルマンギアをはじめとした旧車を専門に取り扱っている業者に査定を依頼しましょう。旧車の知識が豊富な業者なら、年式や仕様に応じた適切な価格を提示してもらえます。
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