小道具以上の存在感があった『もう一度君に、プロポーズ』のカワサキZ1-R
映画やドラマに登場するバイクから、憧れを募らせることがある。
とはいえ、すでに四半世紀近くライダーのキャリアを積んでいる筆者の場合(要はスレてしまったということだ)、改めてそんな感情が生まれるとは思いもしなかった。
【関連写真7点】超貴重なZ1-R! 発売前の1977年東京モーターショー展示車を見る
やや大げさな物言いではあるけれど、2012年にTBSで放映されたテレビドラマ『もう一度君に、プロポーズ』で、主演の竹野内 豊が乗る愛車の設定で登場したカワサキZ1-Rを見て、ひさびさに「カッコいいな」という言葉が素直にこぼれた。
通常日本の映画やドラマで登場するバイクというのは、あくまで小道具であり、安易な場合はスポンサー企業の意向などが加味されて、雰囲気云々以前の「忖度」で現行販売車が使われたりする。多くの場合は端役以下の扱いだ。
それゆえ、登場する場面に気を配られることは少ない。4スト車なのに2ストエンジンの音を平気で被せて使ったり、暴走族の集団走行にオフロード車が使われていたりするなど、昭和の映画・ドラマの中には、バイクの登場によって逆に白けてしまうシーンもあった。
ところが『もう一度君に、プロポーズ』のZ1-Rは、ちょっとどころかかなり違っていた。まるで準主役的にあちこちのシーンで登場するのだ。
竹野内 豊演じる主人公の宮本波留は、自動車工場に勤める30代半ばの男。妻の可南子(和久井映見)が、ある日くも膜下出血で倒れたところからドラマが始まる。
幸い一命を取り留め意識を回復したが、過去の記憶が一部消去されていた。いわば、夫の波留と出会い、結婚を経たこれまでの生活の記憶がなくなっていたのだ。そこからこれまでの生活を取り戻そうとする波留が、少しずつ可南子の記憶を埋めようと接していくのだが……。
そんな物語の合間に、Z1-Rは日々波留の足として走り続ける。
別居生活の合間の通勤と日々の買い出し、可南子の実家までの移動で、彼女との記憶を辿る場所への足として、Z1-Rは都内を泳ぐ。ただし、Z1-Rは過激な走りで鬱憤を晴らす手段でもなく、現実逃避のツーリングの道具でもない。あくまで生活の一部に溶け込んでいる相棒であり、必要以上に出しゃばるわけではない。
ただ、そこにある。その立ち位置がいい。都内を走り過ぎる光景と空冷Zのサウンド、家の脇に置かれたZ1-R、自然な空気感が格好いいのだ。
オリジナルZ1-Rの造形を維持するライトカスタムもセンスがよかった
主人公の愛車は竹野内 豊自身が気に入ってZ1Rが選ばれたようで、車両協力をおこなったのは空冷Z系のカスタムなどを手がけるPAMS(パムス)だという。
作品を見た感じでは前後ショックの換装、ダイマグ風のホイールに、リヤはフェンダーレス仕様。エキゾーストは4into1の集合と言った一見ライトカスタムだが、これもオリジナルの雰囲気をキープしていて好印象だった。やはり往年のZはこれくらいのチューンが程よい気がする。
ただし、どんなバイクであろうと、その露出の仕方や立ち位置で良くも悪くも見えてしまうもの。
その点、本ドラマの演出家の方か大道具係の方なのかは分からないが、バイクの「出し方」に好き者が深く関わっていたのではないかと思わせるものがある。
ほかにも、修理工場勤めの波留が、客が持ち込んだ初代カローラー・スプリンターのレストアに挑むシーンも差し込まれたり、工場のトラックにトヨタ・ミニエースが使われていたりなど、4輪旧車好きの心をくすぐる演出も印象的だった。
(なお『もう一度君に、プロポーズ』は動画配信サービスなどで視聴可能)
カワサキZ1-Rとはどんなバイクか?
ここでカワサキZ1-Rのプロフィールを少々紹介しておこう。
大ヒットしたカワサキZ1(1973年登場)を源流にする同車は、当時の世界的なカフェレーサーブームに乗り企画されたモデルとして1978年に登場。
国内上限排気量が「ナナハン」だった時代のこと、当然「輸出専用車」である。
日本車初のビキニカウル採用、角型の造形や水平ラインのフォルム、メタリックシルバーのカラーリングなど、新時代の空冷Zを体現した意欲作だった。
……とはいえ、当時の新車開発には試行錯誤も付き物で、高速走行時のウォブル(従来19インチフロント主体だった車体に18インチを採用したのが原因とも言われる)が取り沙汰されたり、すっきりとした角型燃料タンクの容量が13Lと少ないことが不評だったりで、欧米での販売が成功したとは言えないモデルだった。
実際、国内での数少ない雑誌試乗記(当時、輸出向け車両の試乗機会は希少だった)にも、ハイスピードでの横揺れ挙動が記述されている。
そのため、翌1979年にこれを解消したZ1-R IIが早速登場したものの、同シリーズは短命に終わり、Z1000MkII、次いでZ1000JやZ1000Rなどの後期空冷Zへと繋がり、Z系の歴史的にはやや埋もれたモデルなのだが──。
しかし、希少なものほど高値になりがりなのは世の常、バイク業界の常で、今やZ1-RはZ1と同様に「ちょっと乗ってみたいなぁ」と軽く入手できる市場価格ではないのが残念なところ(300万円~400万円が価格帯が主流のようだ)。
ゆえに、当方の場合もまた憧れは憧れのまま、今に至っている次第だ。
レポート●阪本一史(元・別冊モータサイクリスト編集長) 写真●八重洲出版 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
やっぱ18インチだわね。
小柄な人だと、ヘルメットの大きさが目立ってつま先ツンツンでバイクの格好良さが半減する。