ガヤルドと主要部分を共有するR8
2005年当時、アウディがポルシェ911に対峙できるミドシップ・スーパーカーを発売し、大成功すると聞いて、信じた人はどの程度いただろう。ハイパフォーマンス・モデル市場に与えるインパクトを、予想することは難しかった。
【画像】初代アウディR8と多くを共有したランボルギーニ・ガヤルド 現行の2代目も 全53枚
われわれの考えを良い意味で裏切ってくれたのが、初代アウディR8だ。スリリングなドライビング体験と、舌を巻くような普段使いのしやすさとが同居している。アウディのマスターピースといっても、過言ではない。
歴史あるドイツのフォーリングス・ブランドは、同じフォルクスワーゲン・グループの傘下になったイタリアン・ブランドから力を借りた。ご存知、ランボルギーニだ。
アルミニウム製のスペースフレーム構造は、基本的にガヤルドと同じもの。ガラス製エンジンカバーの内側には、こちらもガヤルドと主要部分を共有する、V型8気筒が誇らしげに姿を見せていた。
アウディとランボルギーニとで、明らかに差別化されていたのが販売価格。2007年のR8の英国価格は7万6825ポンドで、ガヤルドより約3万ポンドも安かった。
初代R8が初めに搭載したのは、自然吸気の4.2L V8エンジン。最高出力420psを発生し、レッドラインは8500rpmに設定された。
これはガヤルドだけでなく、同時代のアウディRS4にも搭載されたユニット。燃費は期待できなくても、回りたがりな性格とドライな咆哮で、ドライバーを満たした。トランスミッションは7速セミオートマティックに加えて、6速マニュアルも選択可能だった。
動的能力と乗りやすさとの高バランス
さらにもっと、を求めた市場へ応えるように、2009年に525psを発揮した5.2L V型10気筒エンジンが追加。これもガヤルドからの派生ユニットで、0-100km/h加速時間はV8の4.2秒から、3.9秒へと短縮している。
2013年には、550psを発揮するR8 V10プラスが登場。0-100km/hダッシュを3.5秒でこなす俊足を得た。このV10プラスでは、50kgの軽量化に加えて、専用のサスペンション・チューニングと、カーボンセラミック・ブレーキも獲得している。
スーパーカーは加速力だけでなく、シャープでコレクトな操縦性も重要。もちろん、R8はその点でも見事だった。
アウディらしく四輪駆動システムのクワトロを搭載していたが、リアタイヤ側へトルク配分の軸が置かれており、より自由度の高い操縦性が与えられていた。俊敏なだけでなく、バランスも秀逸だった。
油圧アシストのステアリングは、操る自信を沸き立たせてくれる重み付けで、感触も豊か。クルマとドライバーとの、理想的なコミュニケーション・デバイスといえた。
カーブの続く山岳地帯の道でも、サーキットでも、ステアリングホイールを握れば誰もが夢中になってしまう。それでいてアウディらしく、快適性や乗りやすさもクラスでは突出していた。走り一辺倒の、スパルタンなモデルとは違っていた。
インテリアは広々としていて、豪華な仕立てでありながら実用的。ダッシュボードのデザインも整然としており、派手すぎず使いやすい。
時間の経過とともに価格上昇の可能性も
アウディR8は、グランドツアラーとスーパーカーとを、高い次元で両立させていた。現在の中古車価格で並べる実力を持つモデルは、探してもほぼ見つからない。
運転の興奮度合いでは、ポルシェ911 ターボの方が上かもしれない。それでも、アウディのミドシップ・スーパーカーは、ブランドのフラッグシップにふさわしい完成度を備えていた。
英国市場には、充分に乗れる状態のR8が3万2000ポンド(約496万円)前後から流通している。スーパーカーとして考えれば、最もお手頃なモデルといって良い。現在の価格は低水準にあり、維持管理が良ければ、時間の経過とともに上昇していくだろう。
V8エンジンでもV10エンジンでも、R8の訴求力は変わらない。検討するなら、今がチャンスといえる。
新車時代のAUTOCARの評価は
ガラスカバーの内側にV8エンジンを宿す、ミドシップ・スーパーカーの基礎骨格を持ちながら、アウディR8の走りはより身近なスポーツカーに近い。
強大なコーナリング・グリップを備え、機敏に身をこなす。それでいながら、高速走行時の質感は印象的なほどで、快適とすら表現できる。グランドツアラーとしての素質にも優れている。
もし既にオーダー済みなら、素晴らしい判断だったといえる。アウディR8は、2007年のベスト・バイ・スーパーカーだ。 (2007年1月14日)
専門家の意見を聞いてみる
アレックス・グリーン氏:ファウンテン・モータース社代表
「アウディR8が英国へ上陸した2007年以来、販売やメンテナンスを手掛けてきました。それ以来、R8には魅了されっぱなしです」
「変化が激しい世界にあって、まだ登場から20年も経過していませんが、R8はネオクラシックとしての地位を築き始めています。そのことで、改めて好感を持つようにもなりました」
「一部の部品や作業は高額な場合もありますし、丁寧に定期的なメンテナンスをこなす必要があります。それでも、その投資に見合う固有の体験が得られます」
「走りが素晴らしいだけでなく、長時間鑑賞できる美しさも備えています。ベスト・コンディションなら、クラシックとして長く所有する価値は間違いなくあります。これまでのアウディで、最高のクルマといえるでしょうね」
知っておくべきこと
R8 V10プラスが登場する前に、アウディは限定仕様のGTを2011年に販売している。英国へ導入されたのは33台で、5.2L V型10気筒エンジンは560psという高い出力を発揮した。トランスミッションは、Rトロニックが組まれていた。
新車時の英国価格は14万2585ポンドだったが、現在はかなりお手頃に探せるようだ。さらに、GTスパイダーも2012年に限定生産されている。
2014年には、R8 LMXも登場している。限定99台で、アラ・ブルーという特別色で仕立てられていた。こちらは一層パワフルで、570psを発揮し、新車時の価格は16万25ポンド。量産車としては初めて、レーザー・ヘッドライトが標準装備されていた。
購入時に気をつけたいポイント
サスペンションとタイヤ
スチール製のボルトとナットが傷みやすく、リアロワー・ウイッシュボーンはダメージを受けがち。ウイッシュボーンの交換はアッセンブリーとなり、安くはない。
マグネティックライドと呼ばれたアダプティブ・ダンパーは、年式が古いほど故障も増える様子。交換するなら、高品質なコイルオーバー・キットをチョイスするのも手だ。
R8は、摩耗したタイヤやダンパー、ブッシュ類の影響を受けやすい。事前の試乗が可能なら、加減速時やコーナリング時に異音がないが、しっかり直進するかなどを確かめたい。
エンジン
基本的には堅牢ながら、V8エンジンの一部ではボトムエンド・ベアリングの劣化が確認されている。ゴロゴロと怪しい異音がないか、確かめたい。
車体後部左側の、オイルクーラーの配管が錆びることがある。点火コイルの劣化も想定の範囲。
トランスミッション
クラッチは3万2000kmほどは使える。セミオートマティックのRトロニックも、必ずしも信頼性が高いわけではない。
ブレーキ
R8のブレーキディスクは高い。ディスクの寿命を伸ばすため、ブレーキパッドは半分くらい減った時点で交換するのがベター。
ボディ
スチールとアルミニウムが接触する場所で発生する、ガルバニック腐食に注意したい。R8の場合はドアが長く、凹み傷も付きがち。パネルの交換は安くない。
英国ではいくら払うべき?
3万2000ポンド(約469万円)~3万4999ポンド(約541万円)
英国では、乗れる状態の下限の価格帯。走行距離が長く、多少の不具合も考えられるR8を探せる。
3万5000ポンド(約542万円)~4万1999ポンド(約650万円)
状態の良い初期のR8を英国では購入できる。走行距離は8万km以下が期待できる。
4万2000ポンド(約651万円)~4万9999ポンド(約774万円)
グッド・コンディションの初期のR8を探せる価格帯。走行距離も短め。2010年以降のR8も含まれる。
5万ポンド(約775万円)~5万9999ポンド(約929万円)
V型10気筒を載せたR8 V10を選べる価格帯。コンバーチブルのR8 スパイダーも英国ではこの辺りから狙える。
6万ポンド(約930万円)以上
2014年以降のモデルを英国では探せる。V10プラスや限定のGTも含まれる。走行距離は短く、状態の素晴らしい例が殆どなはず。
英国で掘り出し物を発見
アウディR8 4.2FSI クワトロ(英国仕様) 登録:2008年 走行距離:5万3100km 価格:4万2950ポンド(約665万円)
V8エンジンを搭載した初期のR8。6速MTだけでなく、理想的なオプションがふんだんに搭載されている。コンディションは良好といえ、メンテナンスの履歴にも不備はないようだ。
比較的手頃な価格で、走行距離も妥当な範囲。魅力的な1台といえるだろう。
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