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【1年違いのラリーチャンプ】タルボ・サンビーム・ロータスとアウディ・クワトロ 前編

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【1年違いのラリーチャンプ】タルボ・サンビーム・ロータスとアウディ・クワトロ 前編

二輪駆動の時代は終わったと感じた瞬間

執筆:Ben Barry(ベン・バリー)

【画像】ラリーチャンプ タルボ・サンビーム・ロータスとアウディUrクワトロ ランチア・デルタも 全72枚

撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


タルボ・チームのワークスドライバーだったギ・フレクランは、RACラリー、現在のウェールズ・ラリーGBで、初参戦3位入賞を果たした。

彼がドライブしたのが、タルボ・サンビーム・ロータス。1981年、タルボは世界ラリー選手権のマニュファクチャラーズ・タイトルも獲得している。だが彼は、それが最後の活躍になると感じたことを、鮮明に覚えているという。

「グラベルのラリーステージのスタートライン。フランスの女性ドライバー、ミシェル・ムートンが目の前でスタートした時です。その瞬間、二輪駆動の時代は終わったと感じたんです」。1981年のラリー・アルゼンチン勝者が振り返る。

ムートンが発進させたのは、アウディ・クワトロ。強力な5気筒ターボエンジンと、サンビームが滑るような路面も意に介さない、四輪駆動を搭載していた。翌1982年、アウディがマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得した伝説のマシンだ。

今回ご紹介するホモロゲーション・マシンは、後輪駆動から四輪駆動へとラリー界が変化した狭間を生きた2台といえる。見た目や走りから、2台の活躍が1年違いだと感じ取ることは、難しいのではないだろうか。

サンビームは小さなラリーチームだからこそ可能だった、小回りの良い決断が強みの1つだった。ベース車となるサンビームの開発は、当時タルボを傘下に収めていたルーツグループの親会社、クライスラー・ヨーロッパの手で1976年に始まっている。

ロータスの協力を仰いだタルボ・サンビーム

競合メーカーが前輪駆動のハッチバックを開発し、好調に販売を伸ばすのをよそ目に、タルボが採用した基礎構造は後輪駆動のヒルマン・アベンジャー。着想から19か月という短期間で、量産へ結びつけた。

狙ったかのように、同時期にマイク・キンバリーがロータス・カーズのディレクターへ就任。サンビームは勢いづく。ロータスによる、技術的な支援が計画されたのだ。

「クライスラーUKでコンペティション部門のマネージャーだった、ウィン・ミッチェルから電話が。彼は大学時代の友人で、ラリーカーへのエンジン提供に興味がないか尋ねる内容でした」。当時をキンバリーが回想する。

クライスラー・ヨーロッパでモータースポーツ部門のディレクターを努めていたデス・オデルも加わり、ロータスとの契約が結ばれた。「オデルは2種類のエンジンを望んでいました。1つは2.0Lの157ps仕様。タイプ907と呼ばれる16バルブです」

「もう1つは、パワーとトルクを高めたラリー仕様。243psを発揮する2.2L タイプ911エンジンの開発は、6週間で終えています。オデルたちが激しくテスト走行を重ね、ホモロゲーション獲得に向けた量産が決定したんです」

70psの1.6L 4気筒を積む多くのサンビームと同じように、サンビーム・ロータスのベースもグラスゴー郊外の工場で製造。そこからロータス本社があるヘセルまで、仮のタイヤで運ばれた。

到着すると、ロータスの技術者がタイプ911エンジンとZF社製の5速MTを結合。13インチのアルミホイールに、専用サスペンションとエグゾーストが組み付けられた。

オリジナル状態の2トーン・ボディ

今回ご紹介するサンビーム・ロータスは、1979年生産された初期の50台の1台。1987年からケビン・マルコムが大切に所有している。それ以前は友人がヒルクライムを楽しんでいたが、購入時はコースアウトし破損した状態だったという。

クライスラーの星型ロゴ、ペンスターがフロントグリルに収まっている。だが1979年夏にタルボはグループPSAへ買収され、タルボ・サンビーム・ロータスとして記憶されることになる。

しばらく通勤で乗った後、1996年にオリジナル状態へ戻すべくエンバシー・ブラックで塗装。シルバーのストライプで仕上げた。以降は場面を限定して乗っているという。おかげで走行距離は12万km程度と、比較的短い。

インテリアも新鮮な状態。サンビーム・ロータス・オーナーズクラブが準備した、新しいファブリックで仕立て直してある。車内は実務的なグレーとクロのモノトーンだ。

サイドウインドウのワインダーとヒーターのスライダー、ラジオなどが簡素に付く。スポンジのように柔らかい、ベロア張りのシートに座ると着座位置が高い。ステアリングホイールは大きく、膝を開かないと当たってしまう。

視界は全方向で良好。ダッシュボードはシンプルで、フロントガラスは緩やかにカーブを描く。

傾斜して搭載された2.2Lツインカムの4気筒エンジンは、アイドリング時は少し不機嫌そう。1速が飛び出したドッグレッグ・パターンのレバーを動かし、クラッチをつなぐ。シフトレバーのストロークは長く、ギア比はショートだ。

高回転がお好みのタイプ911エンジン

ギアは常に1段上を選んでしまう。960kgしかないから、軽快に滑らかに走る。最高出力は152psだが、第一印象でエネルギッシュなクルマだと理解できる。

スピードが増すと、サスペンションの動きもスムーズになる。アシストの付かないステアリングは、低速では重い。直進状態からの切り始めは曖昧ながら、ボディは軽く扱いやすい。ステアリングでのライン修正は難しくない。

サンビーム・ロータスと少し打ち解けたところで、ペースを速める。アクセルペダルの角度へ即座に反応する。

デロルト・キャブレターが2基載り、心地良い吸気ノイズが聞こえてくる。タコメーターの針の回転に合わせて、パワーも上昇。タイプ911エンジンは高回転がお好み。最高出力が発揮される5750rpm付近でも、息苦しさはない。

英国人にとっては、エスコートRSに載るBDAユニットと同じくらい特別なエンジンだ。開発者のキンバリーは試験データを今も保管しているが、サンビーム・ロータスは0-97km/h加速を6.6秒でこなしたという。エスコートより2秒近く速い。

交差点からの加速では、2速でも小ぶりの13インチ・タイヤは滑りたがる。低速や中速コーナーでの喜びはひとしお。フロントタイヤのグリップを追求しつつ、短いホイールベースを活かし、アクセルペダルを戻すとリアタイヤが外へ流れる。

ワークスドライバーを努めたフレクランですら、サンビーム・ロータスには驚かされたという。「かなり運転しやすく感じました。機敏で、エンジンも素晴らしい。シャシーが追い付いていませんでしたね」

交代するように登場したアウディ・クワトロ

「トラクションが明らかに不足していましたよ」。実際、サンビーム・ロータスは世界ラリー選手権のラウンドで2度しか優勝していない。ヘンリ・トイヴォネンによる1980年のラリーGBと、フレクランによる1981年のアルゼンチンだ。

それでも1981年には入賞を重ね、タルボはマニュファクチャラーズ・タイトルを掴んだ。だが翌1982年、親会社のグループPSAはサンビームの引退を決定。グループBの、プジョー205 ターボ16に注力する。

市販のタルボ・サンビーム・ロータスも、1982年に生産が終了。述べ2308台で幕を閉じた。

交代するように姿を表したのが、Urクワトロだ。アウディの技術力を世界中に誇示するべく、技術者のフェルディナント・ピエヒが、ポルシェ917やブガッティ・ベイロンなどに準じるプロジェクトとして推し進めたものだった。

その起源は、ドイツ政府軍からの依頼によるオフローダー、イルティス。アウディの技術者を務めた、ローランド・グンペルトへ以前インタビューした内容を振り返ってみよう。

「スカンジナビアでのテスト走行に、前輪駆動のアウディを30台ほど持ち込んでいました。わたしは屋根のないオフローダーに乗っていましたが、直線では遅いものの、カーブの連続する区間では簡単に追い回せたんです」

「上司のイェルク・ベンシンガーへ、四輪駆動の量産車を作るべきだと提案しました。その間にイルティスの開発が完了し、わたしは量産に向けた準備へ。以降はウォルター・トレーサーがクワトロの開発を引き継いでいます」

この続きは後編にて。

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みんなのコメント

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  • クライスラーUKはFWD用に生産ラインを一新する予算の都合がつかず、やむなく後輪駆動のアベンジャー・ベースで新型車を造らざるを得なかった。だからサンビームとシムカ・オリゾンはワールドカーという概念上は兄弟車なんだけど、実際は全然違う車でサンビームの方が1ランク下に置かれている。

    イギリス本国では歌手のペトゥラ・クラークがコマーシャルに出て話題になった。当時のイギリスで自動車のコマーシャルに芸能人が出ることはほとんどなかったのだが、クライスラーUKはその地味さを振り払おうと、彼女や現地で有名なクイズ番組の司会者(本業はコメディアン)をコマーシャルに起用していた。でもYoutubeでペトゥラの出るサンビームのCMを観ると、最後に大幅値引きのテロップが入る。これが現実だった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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