馬が引く客車から大型バスへ
半世紀ほど前の大型バスやサンビームにご関心がなければ、恐らくハリントンという名前には耳馴染みがないだろう。映画俳優やプロゴルファーのことではない。
【画像】大型バスからトライアンフまで ハリントン コーチビルダー・ボディの英国クラシックたち サンビーム・タイガーも 全133枚
グレートブリテン島の南端、ホブという街に拠点をおいたコーチビルダーで、様々な乗り物に美しいボディを与えてきた。その作品たちは今でも多くの英国人を魅了し、ハリントン・ギャザリングというオーナーズミーティングが5年毎に開かれている。
2023年5月の会場になったのは、グレートブリテン島中部、バーミンガム郊外にあるワイソール交通博物館。前回同様、様々なクルマが一堂に会することとなった。
正式名称はトーマス・ハリントン&サンズ社で、創業は1897年。馬に引かれる客車の製造でスタートし、自動車の普及とともに20世紀初頭から事業をシフト。1930年にアールデコ調の新工場を竣工させ、以降は大型バスなど商用車を中心に手掛けた。
同社のデザインで特徴といえたのが、リアのルーフ部分に垂直尾翼のようなフィンが付いた流線形ボディ。これもまた、アールデコ様式の1つといえた。
1961年からスポーツカーにも事業を拡大
「そのようなデザインテーマは、1940年代から1960年代にかけて、ハリントンの特徴として受け継がれました。最後に作られたボディに至るまで」。と説明するのは、ウスターシャー州の博物館で学芸員を務めるデニス・チック氏だ。
「同じデザインが最後まで貫かれました。素晴らしい機械たちですね」
ハリントン社は収益源の多様化と、作業の高効率化を求めて、1961年からスポーツカーにも事業を広げた。その代表作といえるのが、サンビーム・アルパインをベースとしたクーペ。また、トライアンフTR4のクローズドボディも、忘れられない1台だろう。
しかし経営を立て直すのに充分な結果は得られず、1966年に廃業。ホブのワークショップも、既に跡形はない。今回は同社の功績を、7台のクルマとともに振り返ってみよう。
レイランド・チーター・ハリントン(1939年式)
オーナー:フレイザー・クレイトン氏
トーマス・ハリントン&サンズ社の代表作といえるのが、1930年代に製造されたテールフィン付きの大型バス。残存数は極めて少ないが、フレイザー・クレイトン氏が所有するレイランド・チーター・ハリントンは、その1台に該当する。
彼のバスは、1939年式のLZ5と呼ばれるモデル。ブルー・モーターズ社が運行し、週末の団体旅行で活躍したようだ。動力源はガソリンエンジンで、ルーフは巻取り式のカンバストップ。ブルーの塗装は、当時のものを再現してある。
「1991年に購入しました。わたしが所有しなければ、と強く感じた1台でした。ハリントンのボディはどれも素晴らしい。生まれた時代が違っていれば、もっと間近に見れたのに、と時々思います」。フレイザーが笑う。
「海岸に面したコーンウォールの町で、サマーハウス代わりに使われていたようです。購入した時は、ボロボロの状態でした」。と当時を振り返る彼は、レストアに9年を費やしたという。
ボディの下半分は大幅に作り直す必要があったそうだが、構造が複雑なグラスエリアやルーフ部分は、幸運にも無傷に近い状態が保たれていた。インテリアは、内装パネルの裏側に残っていたモケット生地を発見し、布地を復刻して張り直されている。
乗客用のシートは、現代的なハリントン社製のものが並ぶが、復刻した生地で仕立ててある。「イベントへ参加するのがメインです。今回は5時間かけて、サセックスから自走してきました。前入りでね」
サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式)
オーナー:ジュリア・イェーツ氏、アンドリュー・イェーツ氏
ハリントン家は、英国の自動車メーカー、ルーツ・グループの子会社を経営しており、1961年からグループ傘下にあったサンビームのモデルへ独自ボディを与えた。その初作が、2ドアスポーツのアルパイン・シリーズIIをベースにしたファストバックだ。
設計は若干ぎこちなかったのの、完成度は低くなかった。1年足らずで約110台が売れ、新事業へ期待を抱かせることになった。
その後に提供されたのが、このサンビーム・ハリントン・ル・マン。リアまわりを新たに作り変え、美しいハッチバックを備えたルーフラインを実現させた。
イェーツ夫妻のクルマは、発売間もない1961年式。「記録を辿ると、17番目に完成したル・マンのようです。後年のクルマと異なる部分が多く、初期のボディであることは間違いないでしょう」
「ハッチバックの開閉機構やシートのスライド部分、アームレスト、センターコンソールなどが、多くのル・マンと違うんです。初期のクルマは、かなり技術的な手間を投じて作られたようですね」。とアンドリューが説明する。
彼は、オリジナルのサンビーム・タイガーも所有するマニア。以前のオーナーが手放すことを決断するまで、3年も説得し続けたらしい。
アンドリューが購入後は、活発なオーナーズクラブが存在するアメリカから部品を取り寄せ、レストアへ着手。「ハリントン・タイガーを作ろうかとも思いましたが、貴重なクルマなので、オリジナル状態を尊重しました」
「正しく復元するため、慎重に調べています。卵型のフロントグリルと、丸いヘッドライトが特徴です」
サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1962年式)
オーナー:デレク・ヒューイットソン氏
ハリントン・ル・マンでアルパインのリアまわりを手掛けた同社は、製造の効率性を保ちつつ、より優れたリアハッチになるよう開口部を再設計。ハリントン・アルパイン・シリーズCを完成させた。
「これは、現在残っているアルパイン・シリーズCのなかで最初期のクルマだと考えられています」。と説明するのは、オーナーのデレク・ヒューイットソン氏。
「初代オーナーは、強引な女性だったようです。1962年のロンドン・モーターショーで、展示車両が欲しいと要求したらしいのですが、ハリントン側は同意しませんでした。しかしその後、まったく同じクルマを彼女へ製作しています」
「つまり、モーターショーに展示された完璧なコピーがこれです」。と笑みを浮かべるデレクは、1984年から40年近く大切に維持してきた。もともとは、状態の良いボルボP1800を探していたという。
「初めは、このクルマが何なのかわかりませんでした。それでも好きになって、購入後に調べてみたら貴重さに気付いたんです」。1987年にレストアへ着手し、かなりの費用を投じたそうだ。現在も、仕上がった時の状態が保たれている。
メカニズムは、基本的にサンビーム・アルパインと同じ。メンテナンスはさほど難しくないというが、珍しいクルマだけに問題はゼロではない。
「オーバードライブ・スイッチは、30年近く探し続けています。オプションだったブレーキサーボ・ユニットが装備されていましたが、交換用のシール部品がなく、現在はガーリング社製の別ユニットを組んでいます」
この続きは後編にて。
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