価格が急騰する前に手に入れておきたい「964」との付き合い方とは
世界的なクラシックカー人気に後押しされる形で空冷ポルシェ911の取引価格も高騰。いまでも1000万円前後の軍資金を用意しないと、良質車をゲットできない状況が続いている。 なかでも人気なのが1989年に新世代モデルとして登場したタイプ964のポルシェ911だ。930シリーズの生産終了と同時に導入された964は、85%のパーツが新しく設計され、まず4輪駆動仕様の911カレラ4がデビューした。
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911カレラ4は4WD機構を初めて採用した911で、搭載された電子制御式フルタイム4WDシステムは、通常はフロントアクスルに31%、リヤアクスルに69%の比率でトルクを伝達し、走行状況に応じてトルク配分を変化させた。リヤエンドに積まれた排気量3.6リッターの空冷水平対向6気筒SOHCエンジンの最高出力は250psを発揮する。 ボディは伝統的なフォルムを継承しつつ、エアロダイナミクスを最適化。これはフロントおよびリヤセクションの丸みのある流麗なラインと、可変リヤスポイラーの採用によって実現していた。
ボディタイプはクーペ、タルガ、カブリオレがラインアップされ、1990年型から後輪駆動モデルで一番最初のティプトロニック搭載車である911カレラ2が登場。さらに1991年型からはターボモデルもラインアップに加わり、ボディが補強され、軽量化が図られたカレラRSが1992年にリリースされた。
あのポルシェの乗り味を気軽に体感できるティプトロニックを初搭載
964の魅力は、なんといっても930シリーズっぽいスタイリングを愉しめる点で、それをティプトロニックと呼ばれるATでドライブできるのだからウレシイ。筆者の友人がアマゾングリーンのティプトロニック仕様の964に乗っており、22年ぐらい前に結構な距離を走らせてもらったが、快適かつ速すぎて、運転しながら笑ってしまったことを憶えている。
日本国内にあった個体の多くが外国人勢の買い攻勢に圧倒されたことにより、ここ最近は964のユーズドカーは流通数は少なく、700~1700万円といった相場が形成されている。2000年代はそれなりにキレイな個体が250万円ぐらいだったので、ただただ驚くばかりだ。正規ディーラーから販売された964の約60%がティプトロニックだったといわれているが、その数字は現在の中古車市場にも反映されている。
高価だからといって購入後に安心して乗れるかといえばそんなこともないのが中古車の宿命だが、いまでも部品が揃うのでポルシェの正規ディーラーがメンテナンスや修理を引き受けている。オーダーするとポルシェクラシックワークショップのスペシャリストたちが作業を担当してくれるのは心強い。
また、ポルシェに強いスペシャルショップもたくさん存在しており、そちらでも純正パーツを使った入念な整備を実施してくれる。 びっくりするようなイニシャルコストがかかるが、ランニングコストのほうは恐れるほどではないので、手に入れて損しない空冷ポルシェの雄だといっていい。964は930シリーズ以上に実用車として使えるので、ティプトロニック仕様一台ですべてのことをこなしてもカッコイイだろう。
空冷ポルシェを味わい尽くすための964のメンテナンスポイントとは
【エンジンまわりのメンテナンスポイント】
最後に、購入前・購入後の参考となるように、964ならではの注意点を列記しておこう。 まずはエンジンまわりから。1992年式以降の個体は対策済みだと言われているが、M64型エンジンはシリンダーヘッドとシリンダーのつなぎ目からのオイル漏れが持病であった。スルーボルトのOリングからのオイル漏れも多くみられるようになったが、この問題はオイルがボタボタ出始める前に解決しておきたい。
エンジンオイルは、遅くても5000km走行時までには交換すべきだ。 ちなみに、以前ポルシェ専門の修理工場を取材した際に遭遇した964は、ガソリンが入った状態で約20年間保管されていたらしく、燃料タンクのフィルター、レベルゲージセンサー、ポンプ、リレー、ホースなどがヒドイ状態になっていた。長期保管車の再始動時はプロに相談するのが得策だ。
クーリングファンベルトおよびエアコンファンベルトは、日頃から飛ばす人はつねにチェックしたい。オルタネーターや点火コイルも「そろそろ交換した方がいい時期かな?」と、常時考えておく方がいいだろう。また944系の物が使われているDMEリレーは、993品番の物に交換することをオススメする。
続いてクラッチまわり。964になってからフライホイール側に振動吸収のためのシリコンの緩衝材を挟み込んだダブルマスフライホイールを採用するようになった。これは初期ロットの物に限り、トラブルが頻発したと言われているが、その後問題点は改善され、993になってからも各モデル(一部を除く)に採用されている。
このダブルマスフライホイールは、緩衝材の寿命がみえたところで交換となるが、その際にクラッチディスクをRS用に取り替えてしまうのもアリだ。クラッチのマスターシリンダーおよびレリーズシリンダーのOリングは、ペダルの動きが渋くなったら消耗している証拠なので、迷わず交換ということになる。
【トランスミッション・デフのメンテナンスポイント】
次はトランスミッションだ。ポルシェがA50型と呼んでいるティプトロニックは、ケースおよび中身の材質がほかのメーカー用の物とは違うらしいが、ZF製の4HP22HLというミッションであった。そのため、通常のZF製オートマチックトランスミッション同様に丈夫で、なおかつ、同じメンテナンス方法で維持することができる。とはいえ、やはりスポーティなドライビングをする機会が多いポルシェの場合、オイルの交換時期が自ずと早まってくるといえるだろう。
具体的には、3万kmごとぐらいのペースで交換した方がよさそうで、そうすることにより寿命がかなり延びるはずだ。一方、マニュアルミッション仕様はどのようなペースでオイル交換を実施すべきかというと、社外のLSDが入っている場合は5~6000km毎ぐらいがベスト。純正LSDの場合も2万km走行時までには交換したい。もしもオイル漏れを起こした場合は、シール交換で対策するのがセオリーだ。
【インテリアのメンテナンスポイント】
続いてインテリアは、ドアの内張り自体は比較的丈夫だが、使用頻度が高いパワーウインドウのスイッチが破損もしくは接触不良を起こしてしまうケースがある。パーツの値段はそれほど高くないが、日頃からスイッチ類を丁寧に扱うことで防げるトラブルなので気をつけたい。ウェザーストリップは紫外線に弱く、気温差が激しい日本ではとくに劣化するのが早いと言える。これは消耗部品だとあきらめ、ドアを閉めたときのキッチリ感が失われた時点で交換してしまうのがベターだ。
雨天走行時や洗車時などにリヤウインドウ周辺から水が入ってきたら、こちらもすぐさま交換することをオススメする。まだウェザーストリップも流通しているので、パーツの入手に関して心配する必要はない。経年変化によってエアコンもダメになるが、一度に修理すると物凄い金額になるので、ひと夏ごとに点検して、少しずつ直していくのが得策だろう。さらに、パワーステアリングは重くなったと感じたら、まずはオイルラインからの液漏れを疑ってみるべきだ。
【足まわり・ブレーキのメンテナンスポイント】
次は足まわりだ。964が新車当時に持っていた走りのフィーリングを味わいたければ、すべてのラバーブッシュを新品に交換してしまうといいだろう。もしも、それが大変だというのであれば、Aアームとスタビライザー部分だけでも交換することをオススメする。足まわりのわずか1mmの違いを計算し尽くしたポルシェならではのシビアなセッティングは、すべての要素が整ったときにこそ本領を発揮する。そういった観点からさまざまな部位を見ていくと、まず、アライメントの狂いはスポーティな走りをスポイルするので、車高調整時やフロントのダンパー交換時などには必ずチェック(修正)しておきたい。
また、車高調整ダンパーは、964の新車当時にポルシェが提示していた基本セッティングを知り、その数値をベースとしつつ、適切な調整を行いたい。ドライブシャフトブーツの状態は、エンジンオイル交換時などにショップでチェックしてもらうといいだろう。
続いてブレーキは、964が採用したABSはボッシュ製であったが、これがまたトラブル知らずの丈夫な逸品で、20万kmを突破しても本来の性能を失っていない物すらあるという。パッドは警告灯が点灯したら交換し、キャリパーはオーバーホールすることも可能だ。ローターは一定の厚さまでなら研磨できることを知っておきたい。 ブレーキホースおよびマスターシリンダーは車検ごとに点検。走行中に少しでも普段とは異なるフィーリングを感じたら、すぐさま整備工場へ直行してほしい。パーキングブレーキは最後の最後まで引くぐらいの感じでOK。カレラ4でブレーキの警告灯が点灯してしまうのは、プレッシャースイッチがダメになって起こる場合がほとんどだ。
しっかりとメンテナンスした上で乗り続ければスタイルがよく、トラブルシューティングも終わっており、パーツが揃う964は今後の価格高騰の可能性や、クラシックポルシェを味わい尽くせることを考えると最新型の992よりも絶対に買いと言える。軍資金がある空冷ポルシェ好きは、こぞって早めにゲットしていただきたい。
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みんなのコメント
同じ年式のカレラとカレラSならカレラSが良い、とかなら分かるけどさ