加速する自動車の電動化に向けて、BMWの電動ブランド「BMW i」の動きも活性化してきている。BMW i第2世代のフラッグシップとなるミッドサイズSUV「iX」に続き、4ドアクーペ「i4」の投入を発表。
その「i4」の欧州仕様のスペックが、2021年6月2日に発表された。最大の注目は、BMW i初となる「M」パフォーマンスモデルの投入である。
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つまりBMWのEVにMパフォーマンスモデルが投入されたのである。エンジン屋のBMW、そのトップグレードのMパフォーマンスモデルがEVに設定されたというのはビッグニュースだ。
もうBMWは超高回転型の素晴らしいエンジンを捨てたのか? モータージャーナリストの大音安弘氏が追う!
文/大音安弘
写真/BMW、ポルシェ、テスラ
【画像ギャラリー】これからBMW の「M」はどうなっていくのか!? 画像でもチェック!
■BMWの「M」がEVから初登場した意味
BEVモデルであるi4 eDrive40。1モーターで340hp/430Nmを誇る
新登場したBMW i40 M50。BEVモデルで初めてMパフォーマンスの名が冠されたモデルだ(M3やM4といったMハイパフォーマンスモデルではない)
BMW i4は、人気の4ドアクーペスタイルに仕立てられたミッドサイズEVだ。そのスタイルは、2021年6月9日にドイツで発表された新型4シリーズグランクーペにそっくり。
ボディサイズを比べてみると、ほぼ一致。ボディサイズで異なるのは、全高のみ。これは駆動バッテリー搭載の影響だろう。つまり、BMW i4と新4シリーズグランクーペはパワーユニット違いの姉妹車となるわけだ。
さてi4には、標準仕様となる「eDrive40」とMモデルとなる「M50」の2タイプを設定。4シリーズグランクーペ同様に、駆動方式とパワーユニット、駆動バッテリー容量の違いがある。下記に簡単なスペックをまとめてみた。
BMW i4などの基本スペック(※本国公表値)
510ps/66.3kgmを発生する、3L 直6ターボ搭載のM3/M4を凌駕する544hpという点に注目! 純エンジン車でいうところの最高峰のMモデルではなく、Mパフォーマンスにあたるモデルでこの数値は凄い!
基本的な性能だけを見てもi4の高性能ぶりは一目瞭然。標準車となる「eDrive40」でさえ、新型M440i xDriveグランクーペに迫る勢いだ。さらにM50については、すでにM4コンペティションの馬力とトルクともに大きく上回る。まさに新生代の「M」に相応しい内容だ。
そんなi4 M50は、BMW初となるBEVの高性能モデルであり、高出力モーターに加え、専用となるMアダプティブサスペンション、可変スポーツステアリング、Mスポーツブレーキシステムなどで性能をアップデートする。
さらにユニークな装備が、モデル別のドライブサウンドだ。アクセル操作や速度に応じて本格的なサウンドのフィードバックを実現したもので、特にM50では、非常にエネルギッシュなサウンドトラックが採用されているという。
さらにオプションで用意される「BMW IconicSounds Electric」は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などの映画音楽の作曲家として有名なハンス・ジマー氏とのコラボレーションで生まれた新サウンドも搭載可能だ。
■世界のEVスポーツカーと徹底比較
761ps/1050Nm、0-100km/h加速が2.8秒を誇るポルシェタイカンターボS
ご存じのように、すでに欧州では高性能EVが続々と発表されており、その代名詞が「ポルシェタイカン」だ。そして、高級EVの流れを推し進めた「テスラモデルS」にも高性能モデルは存在する。そんなライバルたちとの性能も比較してみよう。
航続距離は628km(推定)、0-100km/hは2.1秒、最高速度は322km/h、最大出力は1020psという驚くべき内容の新型テスラモデルSプレイド
BMWのEVとしては最も高性能なモデルだが、すでに世界では、より高性能なEVが続々と登場。特に、高性能EVバトルに油を注ぎそうなのが、2021年6月に発表されたテスラモデルSの高性能モデル「プレイド」だ。タイカンターボSさえ凌駕する、ズバ抜けたスペックを叩き出している。
BMW i4 M50を世界のEVのスポーツモデルと比較してみた(※ブースト機能値を含む)
■今後、BEVのM3、M4が登場する!?
2021年1月に日本導入された新型BMW M3/M4
直列6気筒2997ccターボエンジンを搭載。M3/M4の“Competition”では510ps/66.3kgmを発揮。トランスミッションは2ペダルの8速Mステップトロニックを組み合わせる
純エンジン車のM3/M4と、それを上回る性能で登場させたBEVモデルのi40 M50。同時期にデビューというのは凄い
BMW i4で注目すべきは、BMW i Mモデルの名称だ。BMW Mモデルは、現在、「Mパフォーマンスモデル」と「Mハイパフォーマンスモデル」のふたつに分類されている。Mの頂点であるMハイパフォーマンスモデルの名称は、「M+モデルレンジ」やSUVラインのような「モデル名+M」とされる。
一方、「Mパフォーマンスモデル」の名称は、M440iやM40iのように「M+グレード名」となるのが、パターンだ。この法則から読み解くと、「i4 M50」は、Mパフォーマンスモデルに相当すると考えるのが妥当だろう。
つまり、今後EVの純粋なMが登場する可能性も十分ある。ひょっとすると、i8のようなスーパーカーが、再び投入される可能性もあるかもしれない。
それはロータスの「エヴァイヤ」のようなEVハイパーカーの登場。そして、スポーツカーブランド「アルピーヌ」のEVブランドへのシフト宣言などの各ブランドの新たなスポーツカー戦略が挙げられる。
そして、BMW iに、これまでなかったMモデルラインが登場したことによる影響は大きいだろう。
最大のライバルであるメルセデスAMGは、マイルドハイブリッド仕様のみ。フルEVとなるメルセデスEQには、BMW Mのようなハイパフォーマンスモデルの設定がない。
ただし、その背景には、日常領域で求められる高性能は、EVの特徴である鋭い加速など標準モデルでも叶えられている現実がある。メルセデスとしてはクレバーな選択を貫くのも一つの選択だ。
ただ世界的なEVシフトの流れを考慮すれば、いずれスーパーなメルセデスEQを待ちわびる声も高まるはずだ。
しかし、主要モデルがEVやPHEVへとシフトが進むなか、付加価値の高い特別なモデルは、もう一世代マイルドハイブリッド仕様などのエンジン車が用意されるのではないかとも思える。
その理由には、ハイブリッド技術の進化によるエンジンとモーターのフュージョンにも心地よさが感じられるようになったことが挙げられる。
つまりエンジン車の効率を高めることで、もう一花咲かせるのではないかということだ。そのため、全て高性能モデルが、高性能EVへとシフトするのは、もう一世代後からが本格化となると予測する。
これは現実的な課題として、ハイパワーとロングドライブをEVで実現するためには、大容量バッテリーの搭載が必須であり、ボディサイズやスタイルの制約。そして何よりも重量の問題を抱えているからだ。
フレキシブルに使えるEVライトウエイトスポーツの登場には、まだまだ時間が必要なのだ。そして、トヨタのように、水素エンジンのような新しい技術的なアプローチも起きてくるだろう。
何より重要なのは、全てをいち早くEVにすることではなく、クルマが与える環境負荷を低減させることにある。
もちろん、CO2排出ゼロのためには、既存のエンジン車が生き残ることはできないが、代替燃料という手法も大きな可能性を秘めている。
ただEVの高性能化は、EV時代の競争領域であるため、今後、急激に加速していく。しかし、それは環境負荷という側面とは相反する。
そのため、過度な性能を持つ高性能EVに対する規制が提案されることも十分にあるだろう。そこで社会的な意味を考え、EVは、Mパフォーマンスモデルまでに留め、スーパーカーのような特別に限り、Mハイパフォーマンスモデルのような性能を与える量産車メーカーもでてくるのではないだろうか。
なにはともあれ、BMW iのMパフォーマンスモデル登場は、EVの可能性を広げるとともに、これからしばしの間、過去と未来の価値を持つハイパフォーマンスモデルが存在する時代の到来を意味する。それは将来振り返った時に、今の時代を生きる我々だけが味わえた贅沢なひと時になるかもしれない。
日本人としては、日本車のEVスポーツモデル、ホンダのE-TYPE R(仮称)の発売が待ち遠しい!
BMWのBEVブランド、iのラインナップ。左からi4 eDrive40、iX xDrive40、iX3、i3
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みんなのコメント
EVになっても変わらないのはどうなんだろう。