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もとはV12エンジンのGPマシン! ドライエ・タイプ145 シャプロン・ボディのスーパークーペ(2)

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もとはV12エンジンのGPマシン! ドライエ・タイプ145 シャプロン・ボディのスーパークーペ(2)

1938年に始まった2台のクーペの開発

ドライエ・タイプ145は、グランプリマシンの2台を含む、計6台が製造されたようだ。現存は5台。今回の例と同様に、カリフォルニアのクラシックカー・コレクター、故ピーター・マリン氏が4台を所有していた時期がある。

【画像】フェラーリに8年先行したロードカー ドライエ・タイプ145 同時期のクラシックと比較 全151枚

ドライエを率いたチャールズ・ヴァイフェンバック氏は、タイプ145用シャシーを、親交の深かったコーチビルダー、シャプロン社へ提供。グランプリマシンにならなかった1台のタイプ145と併せて、1938年から2台のクーペの開発が始まった。

ところが、スタイリングの決定間際にナチス軍が侵攻。パリにあったシャプロン社の工場は閉鎖され、プロジェクトは棚上げに。デザイナーのアンリ・シャプロン氏はフランス中部のヌアンル・フュズリエに移り、ワークショップを立ち上げた。

終戦後、60歳を迎えたアンリは事業を再始動。シャプロン社は、シャシー番号48772のタイプ145をエキュリー・ブルー・レーシングチームから購入。グランプリマシンから美しい公道用クーペが作られた。

オーダーしたのはフランス・ヴォージュに住むロバート・キュニー氏。当初6か月後といわれていた納期は遅れたが、塗装や内装の仕上げの打ち合わせが時間を埋めた。最終的に、フランスらしいブルーに、グレーのプリーツ・レザーでコーディネートされた。

納車は翌1947年。意気揚々とV型12気筒エンジンを始動させたキュニーだったが、調子は芳しくなかった。専門家のフェルナン・ラクール氏のワークショップで、オーバーホールを受けている。

複雑で燃費の悪いV12は直6へ換装

調子を取り戻したタイプ145は、動力性能を発揮させるべく、ラリー・ド・ロレーヌというイベントへ参加。エレガントなシャプロン・ボディは、多くの称賛を集めたはず。

フランスの南東、アルザス地方で走りを堪能したであろうキュニーは、2年後に売却。パリでドライエのショールームを営んでいた、ジャン・ピエール ベルナール氏が買い取っている。

しかし、複雑で燃費の悪いV12エンジンは維持上での課題に。1950年代初頭に、タイプ135へ載っていた直列6気筒エンジンへ置換されたようだ。ボディも、グリーンへ塗り直されたらしい。

その後、レーシングドライバーのシュルンフ兄弟が購入。1967年には、エド・アンドリュース氏へオーナーが変わり、タイプ145はアメリカへ。彼は本来の仕様へ戻すことを決断し、オリジナル・エンジンを捜索した。

無事に発見されたV12エンジンも、シカゴへ。しかし、複雑な構造ゆえにリビルドもレストアも完了しなかった。

コーチビルド・ボディのドライエがアメリカに存在するという噂は広まり、失われた宝石として、カーコレクターの間で話題に。1980年代に入り行動へ移したのが、カリフォルニアのビル・ハインズ氏。友人のビル・ジェイコブス氏に調査を依頼した。

その日のうちに行方は判明。アンドリュースと連絡が付き、売却交渉へ。取引を終えたタイプ145は、西海岸へ移された。

真っ先に着手されたのが、V12エンジンの再生。購入したハインズは、クラシックカーへ詳しい専門家のアレック・ジャイモ氏へ作業を依頼する。

カーコレクター、ピーター・マリン氏のもとへ

彼が調べた結果、高回転用の特別なクランクシャフト・カウンターウェイトや多板クラッチ、トリプル・ゼニス・ストロンバーグ・キャブレターなどの特徴を発見。公道用にデチューンされた、レーシングユニットであることを突き止めた。

48772番のシャシーには、古いフェンダーとボディマウントの痕跡があり、フレンチブルーのグランプリマシン・カラー塗装が隠れていることも判明。リビルドを終えると、4000rpmまで回転し、187psと30.4kg-mを発揮することが確認された。

レストアでは、ボディサイドのクローム・モールとフェンダーラインを強調するため、ネイビーブルーとバーガンディという、ツートーンカラーで塗装。フランス製のクリアラッカーで仕上げられ、妖艶な姿が現代に蘇った。

レストアに投じられた期間は2年。お披露目の場に選ばれたのは、クラシックカー・イベントのブラックホーク・コンクールだった。

戦前のフランス車へ関心を持っていたカリフォルニア在住のカーコレクター、ピーター・マリン氏は、そのタイプ145へ注目。メルセデス・ベンツへ、1938年のポー・グランプリで勝利した過去が、強い動機を抱くきっかけになったという。

かくして2003年に入手するが、彼はディティールの仕上げに満足しなかった。インテリアとエンジンルームへ過剰に用いられた、クロームメッキやエンジンターン模様が気に入らなかったらしい。

完璧な仕上がりを求めたレストア

完璧な仕上がりを求めて、コロラド州のハイマウンテン・クラシックス社へレストアを依頼。ジム・ストランバーグ氏が率いる経験豊かなチームが、見事な仕事を施した。

彼らは、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスで優勝したブガッティ・タイプ57 SC アトランティックを仕上げた過去があった。同等の職人技が、丁寧に施されたことはいうまでもない。

レストア完了までの間に、マリンはドイツのカーコレクターへ連絡。シングルキャブレターが載ったエンジンとともに、別のタイプ145も購入した。

見た目はほぼ同じだが、ディティールには特徴的な違いがあった。ドイツから来たシャシー番号48773のボディでは、リアガラスは2枚に分割。ボンネットの側面には、メッシュのグリルが与えられていなかった。塗装はメタリックグレーだった。

この2台は、レストア後にペブルビーチ・コンクール・デレガンスへ出展。2010年からは、カリフォルニア州オックスナードに開館したマリンズ自動車博物館の目玉展示として、来場者を喜ばせててきた。

マリンは多数のコレクションの中で、アールデコ・スタイルの美しさを称える2台のドライエを、特に気に入っていたという。シャシー番号48772のタイプ145は、その筆頭だったとのこと。

2023年9月に、ピーターはこの世を去っている。彼が最後に申し出たのが、英国のハンプトンコート・コンクール・オブ・エレガンスに飾られる姿を、写真として残すこと。サイドビューという指定もあった。それは、生前の内に叶えられたそうだ。

協力:マール・マリン氏、ハドリー・グループ社、ピーター・リーブ氏、リチャード・アダット氏

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みんなのコメント

1件
  • wat********
    たしかにサイドビューきれいやけど
    自分は3枚目がたまらんね
    これはエロい
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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