フェラーリに乗るようになって驚いたのが水温である。フツウに50km/h以上で幹線道路や高速道路を走っているかぎり、針は70~80℃をさしているものの、30~40km/hでの一般道走行時や渋滞にハマってしまったときなどは、針はすぐに100℃付近をさしてしまう。
レッドゾーンこそ120℃以上であるものの、100℃といったら一般的なクルマではオーバーヒート寸前ではないか! 気が気ではない。しかし、いったん100℃に到達した後は、ノロノロ走ったとしても針は動かないので、「もしかしたら、フェラーリの水温は100℃でも問題ないかもしれない……?」と、都合よく解釈していた。
とはいえ、不安な日々は続く。“100℃”が怖いゆえ、低速で極力走らないよう努めていた。が、先日、運悪く東名高速道路の渋滞に遭遇してしまった。針はみるみる右へふれていき、100℃に到達。そこから動かない水温計に対し、「これ以上、頼むから右へふれないでくれ!」と、ひたすら祈るばかりだった。
その甲斐あってか(?)、100℃をキープしたまま約16kmの渋滞をなにごともなく通過した。その後、ペースをあげて走行すると、みるみるうちに針は80℃付近に戻る。ひとがあれほど心配したにもかかわらず……まったく世話の焼けるクルマである。
ただし、いちど100℃に達したエンジンはとんでもなく熱い。渋滞通過後、パーキングエリアへ立ち寄ったとき、恐る恐るリアのグリルに手を伸ばしたが、途方もない熱さで、直接さわれなかった。エンジン・フード付近もおなじである。まるで、エンジンが溶けてしまいそうな(実際には溶けないが)熱さだ。
「燃えてしまったらどうしよう……」と、テレビのニュース番組に己が映る映像を想像し、焦るばかりだった。
そんな矢先、ボクは『フェラーリ・メカニカル・バイブル』(平澤雅信著/講談社)という本を入手した。なんと、ボクの連載を読んでくださっているという、見ず知らずの講談社の人が、「参考になれば」と、わざわざ送本してくれたのだ。それだけでも感動だったのに、丁寧な手紙まで同封されていた。「頑張って360モデナを維持せねば!」と、あらためて思う。
早速、厚いバイブルをめくると、「フェラーリは冷却水の標準温度が高い」と、しっかり記載があるではないか! さらに「360モデナ以降のモデルになると、水温の設定値(標準水温)は100℃前後になる」と、記されている。
どうやら、ボクのフェラーリは“異常”ではなく“正常”のようだ。とはいえ、100℃だ。いくら正常とはいえ、高すぎないか?
読み進めると「エンジン熱効率を高めるため」と、記されている。燃焼したガソリンの熱が高いほど、ピストンをより強く押し下げられるので、大パワーを得られるそうだ。それゆえ、熱をあまり冷やさないので標準水温が高いのである。なお、F1マシンの標準水温は120~130℃というからさらにすごい。
それゆえ熱量もハンパない。にもかかわらず、エンジンルーム内の冷却性能はあまり高くない。走行風による冷却も、一定以上のスピードでないと効果が出ない。したがって、熱によるゴム製品の劣化も気になるところだ。
そこで現在は、走行ルートを事前にシミュレーションしたうえで乗っている。水温100℃は標準かもしれないが、熱害のリスクを考えると、極力長引くことは避けたい。
カーナビが発達した今となっては、バカバカしい作業かもしれないが、案外それも面白かったりする。こんな面倒なクルマ、ボクはうまれて初めてだ。しかし、面倒になればなるほど愛着も湧いてくる。水温計とにらめっこしていると、まるでクルマと話しているかのようだ。
とはいえ、すこしワガママすぎる気がしなくもない。なぜなら、とんでもない頻度で食べ物(ガソリン)を要求してくるのだ! というわけで、次回はフェラーリの燃費について報告しようと思う。
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