F1第13戦ハンガリーGP土曜日の予選でクラッシュした角田裕毅のマシンを見たRBのスタッフは、即座にモノコック交換を決断した。それはモノコックにダメージがある可能性があったからだけではなく、この後の作業を考えての判断だった。
チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルズはこう説明する。
角田裕毅、1ストップを唯一成功させ、9位入賞「クラッシュの埋め合わせができてほっとした」チームはタイヤ管理を絶賛
「今年から予選後のカーカバーズ・オンに関するルールが変わって、モノコックを変更する場合はカーカバーズ・オンのルールが適用されなくなったんだ」
カーカバーズ・オンとはマシンにカバーをかけることで、時間が決められており、カバーがかっている(カーカバーズ・オン)状況では、カーフュー適用外でもマシンを触って作業することが禁止されている。ハンガリーGPでは予選後の午後7時15分がそのタイミングだった。
しかし、それでは日曜日のレーススタートまでに修復が不可能だと判断したチームはモノコックを交換することで合法的に作業する道を選んだ。
こうしてRBは、クラッシュしたマシンにカバーをかけて、その裏でスペアのモノコックにユーズドのパワーユニットを搭載するというルールを破らない形でレースカーを仕上げる奥の手を使った。作業が終了したのは、土曜日の午後11時だった。
ただし、セットアップ作業は日曜日のスタート前までかかった。ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)はこう語る。
「通常、日曜日はカーカバーズ・オンが解除されるのが午前10時なので、午前9時から9時半ぐらいにサーキットに来ればいいんですが、今回は午前8時ごろにエンジニアたちは来ました。前夜メカニックが頑張って作業して完成したレースカーのセットアップを行うためです。カーカバーズ・オン状態の午前10時まではクルマに触れることはできないのですが、エンジニアリングルームでコンピュータで作業することは可能だからです」
午前10時を過ぎると、予選で走った状態と同じセットアップを、スペアのモノコックにユーズドのパワーユニットを搭載したレースカーに施していった。最終的に作業が終了したのは、フォーメーションラップがスタートされる1時間前の午後2時前だったという。
なぜ、同じセットアップにこだわったのか。エドルズはこう言う。
「パーツを変えたり、セッティングを変えれば、パルクフェルメを破ることになって、ピットレーンスタートとなるからだ。我々は10番手からどうしてもスタートしたかった。そのために、今回投入したアップグレードも新品のものに交換したんだ」
そのマシンに乗り込んだ角田。「少しお尻に痛みがあるくらいで、それ以外は問題ありませんでした」と、チームへの恩返しを誓った。
スタートでソフトタイヤ勢にポジションを奪われて12番手に後退するも、その後、前を走るマシンが続々と1回目のピットストップを行い、22周目には6番手まで浮上することに成功した。
「レース前のミーティングでも1ストップはそんなに考えていなくて、最初はセーフティカーが出るのを待っているだけなのかなと思っていた」という角田だったが、その後も順調に周回を重ね、「ペースがかなり良かったので、もしかしたら1ストップなのかな」と頭をよぎった29周目にピットインする。7周目に1回目のピットインをしていたチームメイトのダニエル・リカルドが角田のピットストップよりも前に2回目のピットストップを行っていたことからも、いかに角田がタイヤをうまくマネージメントしていたかがわかる。
それでも、角田はまだ1ストップで行く確信がなかったという。
「ピットインしてハードタイヤに履き替えてからも、まだ1ストップで行けるとは信じられない状況でした。レース中、エンジニアたちとうまくコミュニケーションを取って、1ストップを可能にしたレースマネージメントがよかったと思いますし、自信につながりました」
こうして角田はタイヤに厳しいハンガロリンクで20人中、ただひとり1ストップを成功させ、かつアストンマーティン勢を抑えて、9位でフィニッシュした。
「ここまでクルマを修復してくれたメカニックとエンジニアには本当に『大』感謝です。彼らの頑張りがなければ、今日のような走りと結果はなかった。素晴らしい仕事をやってくれました」
ピーター・バイエル(CEO)は言う。
「予選でのクラッシュはもう終わったこと。我々が求めていたのはいつものユウキの走り。それを今日見せてくれた。土曜日のミスを見事に取り返したスーパーリカバリーなレースだったよ」
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