欧州でのレース経験も豊富な笹原右京選手。しかし鈴鹿でのスーパーフォーミュラのウェットレースはさすがに堪えたようだ。ドライバーからすれば視界を水煙で奪われ、まさに職人芸とも言うべくスキルでコースを走りぬかなければいけない。
今回は雨量があったにもかかわらず通常スタートとなったことで、一部ドライバーからは「いくらなんでも危険だった」という声も聞こえてきた。鈴鹿ラウンドを終えた笹原右京選手から話を聞いた。
あの雨量の鈴鹿はマジで危険だった!! 走る身になって考えてほしい!! 水煙と戦うトップドライバーの葛藤
文/段純恵、写真/HONDA、TOYOTA GAZOO Racing
■「スーパーフォーミュラのレベルは高い」では済まされないリスキーな選択
ご覧の通り、セカンドロー以降は一寸先も見えない状態でのスタンディングスタートは奇跡的にノーアクシデントだった
最初の5周くらいは本当にほぼほぼ前が見えなくて、真っ白な壁に突っ込んで走ってるような感じでした。1コーナーの飛び込みも『100』の看板が見えたような気がしたからブレーキを踏むというかんじで、もうほんッッッとうに! よくこれでスタンディングスタートにしたなぁっていうくらい(笑)。
普段のレースが限界値の99%とか100%を越えたところで走っているとすれば、今回は50%とかヘタすれば30%くらいで、誰もが「いったいどこでブレーキを踏めばいいんだ?」「この先どうなってるんだ?」という不安や危機感を抱きながら相当のマージンを持って走ってたんじゃないかと思います。
僕自身、「え? こんなに!?」ってくらい見えないことに圧倒されてしまって、周りから15号車走ってるか? と思われるんじゃないかってくらい、そぉーーっと走ってました。ある程度前のクルマに接近したほうがレインランプが見えるので逆に安心と言えば安心なんです。
前のマシンがブレーキングポイントを見失ったら一緒にコースアウトする可能性はありますが、中途半端に離れて水が一番巻き上げられる距離にいるほうが本当に何も見えない。
ドライバー同士、信頼し合っていたから走れていたようなもので、結果的に何事も起きなかったから『SFのレベルは高い』とか『ドライバーの技量が素晴らしい』ということにはなったんですけど、安全面を強く意識するのなら、あの雨量でスタンディングスタートっていうのはけっこうリスキーな選択だったんじゃないかなって思います。
■全身をセンサーにして走る
このピットロードの写真を見れば、コースの状況がよく分かるだろう。実際に走った笹原右京によればコース内の至る所で「川」ができていたという
それでもレースだから、攻める時は攻めるわけです。はじめの5周も見えないなりに、前を走る相手が後ろの僕に気づかないことを逆手にとって、いま相手をこっちに追いやっておけば相手がそっちに行った瞬間にこっちから抜けるとか、そういうことを考えながらチャンスを伺ってました。
コース全域のすべてが見えないというわけではなくて、例えば1コーナーに進入して2コーナーを曲がる最中や、速度が遅くなるデグナーの二つ目やヘアピンで、前のクルマとの距離をなんとなく確認できる。
その感覚を元になんとなく近づいていって何かの拍子に追いついたら抜く。そうやってレース序盤に何台かオーバーテイクしました。『なんとなく』という言葉を使いましたが、そう表現するしかないですね(笑)。雨で視界がきかない時にどうやって走るのかを説明するって難しい(笑)。
勘ではないけれど、そろそろブレーキじゃないかとか、アクセル緩めないとぶつかるかもとか、視覚や聴覚だけでなく全身をセンサーにして走っている、としか言いようがないです。
10周目くらいには雨量も少なくなって視界は良くなったんですが、その時にはタイヤが終わってました。スタートから雨量がすごくて何も見えずプッシュできる状態でもなかったのに、3周終わった時点でアレ? なんかおかしい気がすると思ってフロントタイヤを見たら、もうボロボロでした。
もともと鈴鹿って『川』ができやすいコースなんです。実はSFの数日前にホンダのスポーツドライビングプログラムがあって、フィットで雨の鈴鹿を走りました。
同じ週末のSF決勝日に雨の予報が出ていたので、どこに川ができるか確認するのにちょうどいいと思ったんですが、実際、日曜日は雨にはなりましたけど、『あれ、こんなとこにも川あったっけ?』とか『こんなに幅広の川だっけ?』という具合に状況が変わってしまって、フィットでの予習はイマイチ役に立たなかったですね(笑)。
■タワーから見るのと実際に走るのとでは違う
どうにか無事に完走した笹原右京だが、ドライバーの視点から言うと「ちょっと危なすぎるんじゃないの?」というのが正直な感想のようだ(写真は富士での開幕戦)
そんなコントロールを失う確率が高い路面コンディションで、前後ともタイヤのグリップもなくなった状態で、自分も他のドライバーさんも本当によく最後まで走りきったなぁ、というか。
ドライバーが危険と感じる雨量や水量って、やはりどうしてもコントロール・タワーにいる競技長や審査委員の方々にはなかなか状況をつかめない部分があると思うんです。外からだと『見える』けれど、実際に走ってる僕らには『見えません』とか、認識の差はあると思います。
そこをドライバー側とレースの運営側でもっと摺り合わせていければいいのかなという思いはあります。
欧州でのレースディレクター(競技長)のイメージって、すべての権限を持っていて、SCの導入やペナルティを含むすべての判断をする人なんですけど、日本では競技長から審査委員に一回投げてとか、何かを判断して決定するのにちょっとラグが大きいというか、何に対してもひとつひとつに時間がかかり過ぎているというか。
合議制ってところが日本のレースらしいのかもしれないけど、今回のようにコンディションが悪かったり安全面に影響する場面では、やはり迅速で公平な判断がより求められると思うんです。
最近NEXT50とかいろいろやってるので、てっきりコンテンツ重視でスタンディングスタートにしたのかな、ショー的要素でやったのかなぁと勝手に思ってたんですけど(笑)、でもだとしても、あれはちょっと危なすぎるじゃないの? と思います。運営側の人たちは、もっといろんな意見に耳を傾けて、改革に取り組むことをやって欲しい。
見応えのあるレースを安全にという意味でも、何かもっとできることはあるんじゃないかなと思いますし、ドライバー側もフォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション(FRDA)から今回みたいなタイミングで働きかけられるといいのかなぁ、っていうのが今年から初めて入った僕の意見です(笑)。
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