モータースポーツはお金がかかるんです!
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「モータースポーツの費用」についてです。華やかなレースの世界は、莫大な予算が投じられています。タイヤ代金だけでもかなりな額になり、1日で多額のお金が使われるのです。驚きの内訳とは?
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スーパーGTのGT300クラスでタイヤは4本1セット約50万円!
モーターレーシングには多額の資金が動くことは有名ですよね。毎週末どこかで行われているサンデーレースだって、ちょっとクラッシュしようものなら数十万円単位の札束が消えていく。そんなのはまだ序の口で、F1になると、たった2台のマシンを走らせるのに、年間で数百億円が必要だといいます。
ドライバーの契約金だけでも数十億円です。スタッフは数千人、そして世界を転戦します。マシン代金は、とてもお金に換算できません。天文学的なお金が動くのです。世界で最も金のかかるスポーツかもしれませんね。
ですが、長いことレース界に浸かっていると、金銭感覚が狂ってきます。F1マシンがクラッシュすればその瞬間に数億円が羽ばたいて消えていくというのに、ドライバーはそれほどの深刻な表情を浮かべていませんよね。
僕らも同様に、多少の接触などを気にすることはありません。マイカーはほんのちょっと擦っただけで深刻になるのに、バトル中の接触などにはまったく無頓着なのですから感覚が狂っています。本当に金銭感覚が麻痺しているとしか言いようがありません。
あるレーシングチームに尋ねたところ、とんでもない数字であることが判明しました。スーパーGTのGT300クラスで1年間を戦うのに、約2億3000万円が必要だというのです。揃いのユニフォームからピットの華やかな設えなど、マシンを走らせる以外の予算も含めてのことだそうですが、それにしてもとんでもない数字ですよね。
とくに驚かされるのは、タイヤの金額です。ミシュランがレーシングタイヤの価格表を公表しました。スーパーGT300マシンが履くGT3用タイヤの価格を確認すると、腰を抜かしかけます。
■スリックタイヤ:3450ドル(1セット)=約53万円 ■ウエットタイヤ:2880ドル(1セット)=約44万円 (1ドル154円で換算)
スーパーGTは規則で、1レースに持ち込めるタイヤはドライ4セット、ウエット5セットに制限されています。カーボンニュートラルへの配慮とチームのコスト抑制のために、年を追うごとに持ち込みタイヤの数を減らしていますが、現在でもドライウエット含めて9セット。36本。ドライタイヤが212万円。ウエットタイヤで220万円が必要なのです。
バブル時代はどうだった?
バブル時代には、タイヤ本数制限などはまったくなく、しかも、今のように走行が土曜日と日曜日の2日間ではなく、ワークスチームは火曜日から走行を繰り返していました。一体どれほどの金額だったのでしょう。それすらも知らずに走っているのですから、やはり狂っているとしか言いようがありませんね。
あいにくタイヤは、新品の状態がもっとも性能が高い。1周走っただけでポイっと捨てて、また新品タイヤを履いて1周で廃棄……、というようなことを繰り返しています。10tトレーラーの荷台に満載したタイヤがみるみる減っていく様子には圧倒されます。
有名なニュルブルクリンク24時間レースは1日約1600万円!
仮にニュルブルクリンク24時間レースに参戦するとなると、GT3マシンは約1時間ごとに給油とタイヤ交換を繰り返しますから、単純計算で24セットを消費します。練習走行や予選を考えれば、30セットは準備しておかねばなりません。10万3500ドル=約1600万円が必要なのです。
繰り返しになりますが、1日で約1600万円です。驚くほどの世界ですよね。タイヤが無償供給されているチームや、あるいは割引されているチームもあるのでしょうが、GT3マシンを走らせる多くのプライベートチームが約1600万円を支払っていることを思うと考えさせられるものがありますね。
僕が今年参戦しているニュルブルクリンク24時間には、トーヨータイヤは500本のレーシングタイヤを準備します。晴れ用のスリックタイヤが250本。雨用のウエットタイヤが250本。トーヨータイヤの仙台工場で製造され、はるばるドイツまで運ばれます。天気は晴れか雨かのどちらですから、スリックタイヤかウエットタイヤは不要となります。
トーヨータイヤの製品はCO2由来のブタジエンゴを配合していますし、転がり抵抗が少ないので環境には貢献しています。とはいえ、驚くほどのタイヤが消耗されていくことには違いはありません。
チーム運営のコストはタイヤの消耗だけではなく、消耗パーツなどを含めると驚くほどの数字になります。ガソリン代とて決して無視できない金額に。ですが、そこを妥協するチームはほとんどありません。というほどに金銭感覚が麻痺してしまうのです。
ただ、そんな華やかな世界だからそこ、多くのファンの方々の熱狂を誘うのかもしれませんね。
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