ボディとホイールベースをストレッチしたBMWイセッタ
今やドイツを代表する世界的なトップメーカーとなったBMWですが、敗戦国として迎えた第2次世界大戦の終戦後は、それこそ鍋や釜を作りながら臥薪嘗胆の日々を送っていました。その頃のBMWを支えたモデルがイタリアのイソ社からライセンス供与を受けたイセッタでした。その愛らしいスタイルからバブルカーと呼ばれていましたが、エンジンメーカーから発展してきたBMWだけに本家とはまた違った発展を遂げていきました。
BMWを救った「イセッタ」はイタリア生まれだった! 冷蔵庫みたいな「バブルカー」が戦後ドイツで愛された理由
まずはオリジナルエンジンに換装! さらにはボディも手直し
BMWイセッタのオリジナルとなったのはイタリアのメーカー、イソ社のイセッタ(Isetta)でした。そもそもイセッタというのはメーカー名であるイソに、イタリア語で“小さな”を意味する接尾語が付いたもので、小さなイソ、とかイソの妹(あるいは弟)という意味合いがありました。
ただし、イソが製作した本家のイセッタは、フィアット500という語り継がれる傑作のコンパクトカーのおかげで、営業的には大ヒットとはいきませんでした。しかし海外メーカーにライセンスを供与して生産されたイセッタも数多く、中でもBMW版のイセッタはとりわけ大ヒットとなり、今ではBMWがイセッタの本家、と勘違いされているほどです。
それはともかく、BMWはイセッタを製作するにあたって、まずはオリジナル通りのモデルを製作。もともとエンジンメーカーとして創業しただけあって、エンジンに関しては妥協を許さないところがあったようです。
それでオリジナルのイセッタから、まずはエンジンを自製のものに交換することになりました。選ばれたのはBMWで戦後のごく初期に開発されたR25/3用の247cc(ボア×ストローク=68.0mmφ×68.0mm)の空冷プッシュロッド(OHV)単気筒エンジンで最高出力は12HPでした。
ちなみに、イソ製のオリジナルでは236ccで最高出力が9.5HPのスプリットシングル(2つのシリンダーが単一の燃焼室を共有する構造)の2サイクル・エンジンでしたから、パフォーマンス的にはもちろんですが、メカニズムのスペック的にも随分とモダナイズされた格好でした。
ドイツの経済状況が良くなり4人乗りが求められた
その一方でボディデザイン的にはイソ版のイセッタとよく似たものでした。フェンダーに半分埋め込まれていたヘッドライトが、大型のユニットに交換されて少し高い位置に独立して取り付けられて少しイメージチェンジしていました。バブルカーと呼ばれることになったシャボン玉のようなウィンドウ・グラフィックは共通で、また最大の特徴である右ヒンジで開くフロントの1枚ドアも共通していました。
しかしその後はエンジンだけでなくボディにも手が加えられ、BMWオリジナルのデザインへと移行していきました。エンジンに関してはドイツ国内の自動車関連規則や免許制度の変更に合わせて298cc(ボア×ストローク=72.0mmφ×73.0mm)に引き上げ、最高出力も13HPにパワーアップされています。一方のボディに関してはウィンドウ・グラフィックが変更されサイドにスライディング式のウィンドウが採用され、コンサバ・ルックに変わっていきました。
またシャシーに関しても手が加えられ、ごく初期には1輪式の後輪がトライされたこともありましたが、転倒の危険性があることからリヤは2輪のまま、というよりもむしろトレッドが広がり、左右の後輪は520mmのトレッドに設定されています。
これは、ディファレンシャルギアを必要としない最大限の数値だったのです。こうしてBMWイセッタは、バブルカーとしての完成形に近づいていきました。さらにドイツ(当時は西ドイツ)国内の経済状況が良くなってきて2人乗りだけでなく4人乗りが求められるようになってきました。そこでBMW600が登場します。
ストレッチしたイセッタには新たなメカニズムも盛り込まれた
BMW600は、一言でいうならボディとホイールベースをストレッチしたBMWイセッタでした。数字的には全長×全幅×全高とホイールベースがBMWイセッタ250/300では2285mm×1380mm×1340mmと1500mmだったものが、BMW600では2900mm×1400mm×1375mmと1700mmにサイズアップしています。
全幅と全高が事実上一緒なのに対して全長とホイールベースはそれぞれ615mmと200mm延長されていますが、全長の延長分は2列目シートのスペースに充てられ、ホイールベースを200mm延長したことでサイドドア=2枚目のドアを造りこむことが可能になりました。
またフロントのトレッドはBMWイセッタ250/300の1200mmと事実上一緒の1220mmでしたが、リヤのトレッドは520mmから1160mmに大きく拡大され“完全な4輪車”となっていました。搭載されるエンジンも一新され、BMWモーターサイクルのR67用をベースにした空冷の水平対向2気筒で排気量582cc(ボア×ストローク=74.0mmφ×68.0mm)、最高出力も19.5HPにまでパワーアップされていました。
車両重量も360kgから550kgまで約1.5倍重くなっていましたが、パワー的にも約1.5倍となっており、絶対的なパフォーマンスは引き上げられていました。シャシーも後半部分には大きく手が加えられ、サスペンションがリジッドからコイルで吊ったトレーリングアームに変更されていました。
トレーリングアームはBMW600で初めて採用
後継のBMW700からノイエクラッセを経て1990年代までBMWのリヤ・サスペンションとして重宝されるトレーリングアームは、BMW600で初めて採用されていたのです。その一方でフロント部分は、1枚ドアも含めてイセッタを踏襲していました。
そのフロントの1枚ドアに関して追記があります。BMWと同じドイツのオートバイメーカーだったツェンダップ(Zündapp)が1957年から1958年にかけて製造していたマイクロカー、ヤヌスについても触れておきましょう。
敗戦によって航空機製造を禁止されたドイツの航空機メーカー、ドルニエ・フルグゼウグヴェルケは自動車製造を手掛けるべくプロトタイプを製作し1955年のフランクフルトショーで発表しました。ただし自らで生産することは不可能で、ライセンス生産を行うメーカーを探していました。
これに応えたのが、当時2輪メーカーで4輪進出を探っていたツェンダップだったのです。フロントに1枚ドアを設けるのはイソやBMWのイセッタと同様ですが、こちらはさらにリヤにも1枚ドアを設け、室内には背中合わせの2列シートをマウント。その中間にエンジンを備えるという、いわばミッドエンジンで後輪を駆動するパッケージとなっていました。
またイセッタとは一味違ったフロントの1枚ドアのデザインでより“可愛らしさ”をアピールしていました。対衝突の法規制が厳しい現代では実現不可能なパッケージですが、今でも魅力的なクルマたちですね。
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何百万もする人間輸送車に1~2人しか載ってないのは無駄が多すぎる