新たなるデザインツールを開発
新型コロナウイルス(COVID-19)の収束がまだ見通せないまま、2020年5月4日に独フォルクスワーゲングループのデザインを統括するクラウス・ビショフ氏が「デザインの今」を語ってくれた。
「出口戦略はデザインにあり」フォルクスワーゲンのヘッド・オブ・デザインは語る
世界中のジャーナリストを招いてのスカイプ形式でのユニークなプレゼンテーション。テーマは、フォルクスワーゲングループのデザイン戦略だ。ブガッティ、ランボルギーニ、ベントレーといったこのサイトの読者におなじみのブランドも含まれる。
「フォルクスワーゲングループでは新しいデジタルによるデザインツールを開発。(発表されたばかりの)新型GTIを含めたゴルフ8やBEV(バッテリー駆動EV)のID.シリーズで本格的に活用しはじめています」
ビショフ氏が紹介してくれたのは、同グループが時間をかけて開発したアプリケーション。内外装のデザインのみならず、エンジニアリングの面でも役に立つという。
「運転支援システムや衝突安全など設計の要件がますます複雑化するいっぽう、開発時間の短縮や人件費の節約などが生き残りに関して重要となってきています」
デザイナーがコンピューター内で2Dのデータでデザインしたものを、3Dモデラーなる人たちが、3D(三次元的)に見える画像データとして作る。かつ、先の言葉にあったような衝突安全性やドライブトレインや足まわりやダクティングなどの要件もクリアできるという。
わずか1年半で完成するデザイン
ビショフ氏によると、デザインが完成するのに要する時間は約1年半。驚異的な短時間だ。風洞にモデルをもちこまなくても空力の計測はかなり正確にシミュレーションが可能に。さらに、複雑なディテールもその時間内で処理できる。たとえば、ゴルフGTIなら、アンダーグリルのハニカムパターン。
従来なら比率の異なるハニカムのパターンをボディの曲面に合わせて立体的に作り込む必要があった。コンピューターで計算しても時間のかかる作業だったという。それが今回のデザインツールなら数秒から数分で処理できるのは驚きである。
「このデザインツールは、ゴルフ6や7から部分的に使ってきたもので、ゴルフ8でかなり進みました。ここにきて開発の速度を速めたのは、COVID-19で(独と米と中国といった)デザインセンターの人的交流に制限が出てきたことが大きな理由です」
デザインのデータが共用できるうえ、実車のように見える精度の向上ぶりには目をみはるものがある。そこで各デザインセンターやマーケティング担当部門などが実車なしでもある程度、高度な判断を下せるのは大きなメリット、とビショフ氏。
「もうひとつは、省力化です」
市場の変化に迅速に対応するための策
現在、フォルクスワーゲンがもつスタジオでは400人を超えるエンジニアと1万人のエンジニアがスタジオで働いているそうだ。このデザインツールによって、開発の速度が速まるばかりか、携わる人数の削減も可能になってくる。
「このデザインツールは、グループ内企業で共用します。フォルクスワーゲン車を例にとると、今はSUVがブームですが、燃費などの面で、EVへのシフトが起こることだってありえます。市場の変化はさまざまな面で起きると思います」
市場の変化に迅速に対応する。これこそ自動車メーカーにとっての大きな課題なのだ。
2019年から顕著になった中国市場の失速をはじめ、世界の大きな市場は、COVID-19より前から不透明さを増していた。そこにあって、従来のような“重厚長大”な体質では生き残りで不利になる。それがフォルスクワーゲングループ経営陣の考えだ。
新しいデザインツールは、フォルクスワーゲングループにとって、ポストCOVID-19の重要な出口戦略になりうる。もちろん、私たちが望んでいるのは魅力的なプロダクトである。
それについてビショフ氏は「ヘリテージも大事にするし、ID.シリーズのような魅力的なまったく新しい分野のプロダクトにも期待してもらいたいです」と応じてくれた。
「ランボルギーニだってブガッティだって、EV化を視野に入れています」。これからは停滞の時代ではないかもしれない。すごい勢いで変化が起きる時代になるかもしれない。それに対応できる企業が生き残れるのだ。
REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)
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