高速な全天候型のクロスオーバー
text:Richard Lane(リチャード・レーン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ゴルフRで、4輪駆動の高性能ハッチバックを生み出す実力の高さを示す、フォルクスワーゲン。8代目へと代替わりをするにあたって、英国では7代目ゴルフRの販売が今年に入って終了してしまった。
そのかわりではないが、300psを獲得したTロックRが登場。この「R」が付くことで、自ずと極めて高速な、全天候型のクロスオーバーだということが想起できる。でも、ハッチバックのフォルクスワーゲンほど、万人に受け入れられるタイプでもない。
AUTOCARの読者の中には、SUVが好みではないという人もいるかもしれない。だが大方の場合、超高速で悪天候でも負けないフォルクスワーゲンは、歓迎される存在だろう。今流行のクロスオーバーのスタイリングと、ゴルフより少し余裕のあるインテリアが手に入るのだから。
フォルクスワーゲンのSUVにRが付くのは珍しい。過去に遡ると、スポーツモデルを手掛けるフォルクスワーゲンR GmbH社が手掛けた、2008年のトゥアレグR50というモデルがあった。今となっては隠しておきたい、5.0L V10のターボディーゼルを搭載していたクルマだ。
新しいTロックRでの注目ポイントは、ゴルフRよりも多くの台数が売れる可能性が高いということ。オーナーの志向や優先順位は、変化してきている。
TロックRの場合、価格はオプションを2つも選ぶと4万ポンド(572万円)を超えてしまう。なかなか受け入れがたい部分ではある。ゴルフRの5ドアの場合、英国では3万1000ポンド(443万円)だったのだから。
AUTOCARでは以前、天気の良い南フランスで試乗をしている。今回はジメジメに濡れた英国西部のウェールズ州での評価となる。
控え目ながら明確に主張するR
RとなったTロックは、見た目のアピールも忘れていない。特にリアデュフューザーとスカート、ホイールアーチに付くフェンダートリムが追加されている点がわかりやすい。フロントバンパーも専用デザインで、デイライトが灯る。
英国仕様車では19インチのアルミホイールが標準装備となり、車高は20mm低められている。マフラーは4本出しとなり、ゴルフRとのつながりを感じさせる。快音を鳴らすアクラポビッチ製のオプションを選ぶことも可能。
ルックスは、ゴルフRエステートほど鳴りを潜めているわけではないが、これ見よがしというわけでもない。特にブルーなど落ち着いたボディカラーでは。
インテリアはやや残念。アルカンターラ仕上げのシートは快適で乗り降りもしやすい。だが、腰より下に多用されている硬質なプラスティック製パーツの質感は、3万8450ポンド(549万円)という価格を正当化するには物足りない。
フォルクスワーゲンらしく、スイッチ類やインフォテインメント・システムの操作感はとてもいい。全体的に漂う質実的な雰囲気も、フォルクスワーゲンに共通するもの。
通常のTロックの場合、天井高が高くトランスミッション・トンネルが低めで、車内の居心地は高い。だが、少しRの雰囲気には合わない気もする。ステアリングホイールは適度にリムが細く、とても握りやすい。
スマートで魅力的に走り、乗り心地も良好
TロックRはとても良く走る。ホイールベースは短いのにも関わらず、ゴルフRのように魅力的でスマートに。加えて直近のライバルでもある、アウディSQ2やセアト・クプラ・アテカより、滑らかな乗り心地を得ている。
特に突出しているのが、足さばき。試乗車には695ポンド(10万円)のオプションとなるアダプティブ・ダンパーが装備されており、サスペンションのストロークはより大きく取れる点も有利に働いている。
高速で走行していても、荒れた路面に追従できなくなることは殆どない。ボディロールも最小限に抑えられている。まさにRらしい隠し技といったところ。
さらにTロックRの場合、コンフォートモードを選ぶと、ライバルモデルのユーザーが羨むような乗り心地も得られる。落ち着いて運転したい場面では、とてもありがたい。
ゴルフRにも多少当てはまる部分ながら、一体感は少し物足りない。ステアリングホイールの操舵感は正確でレシオの設定も良いが、フィーリングが薄い。
加えてゴルフRの方が、天候や道路に左右されることなく、アクセルペダルをより深く踏み、操る楽しさが味わえることも確かではある。低めのドライビング・ポジションが影響しているのだろう。もちろん、TロックRでもアクセルペダルを踏み込めるけれど。
搭載されるEA888型と呼ばれる2.0Lターボ・ガソリンエンジンが、回転数を問わずたくましいトルクを生み出す、優れたエンジンであることは承知済み。とてもスムーズでパワフルなユニットだ。
組み合わされるデュアルクラッチATも、現実的に走らせられる範囲で、不満を抱くことはほとんどない。レースモードを選ぶと、エグゾーストノートには破裂音も混ざるが、少々遊び過ぎに思えた。
ライバルモデルより頭ひとつ出た実力
4輪駆動システムはハルデックス製。マルチプレートクラッチを介し、最大で50%のトルクを後輪へと伝達できる。また可変スピードも従来以上に速められた。
クルマのグリップ限界を超えて楽しむタイプではないものの、トラクションも不足なし。そもそもスタビリティコントロールが常に姿勢を整え、自由に振り回すことはできない設定だ。アクセルペダルを踏み込んで攻め立てると、前輪駆動ベースであることを強く実感する。
フォルクスワーゲンTロックRを選ぶかどうかは、ドライバーの好みに大きく左右する。優れたドライビングフィールを重視し、やや安価な価格と広い荷室に惹かれるのなら、ゴルフRエステートを選んだ方が賢明だと思う。
背の高い子供がいるなら、Tロックの余裕のあるリアシートが活きてくる。それでもゴルフRエステートを超える魅力を、TロックRからは感じにくいかもしれない。
クロスオーバーにシンパシーを感じるドライバーなら、TロックRを日常の相棒として選ぶことに抵抗はないはず。主なライバルモデルより、本気を出した時の走行性能は明らかに高い。
セアト・クプラ・アテカやアウディSQ2はいくぶん硬すぎる。インテリアで勝るBMW X2 M35iが、フォルクスワーゲンTロックRといい勝負に思えるほど。
ライバルも含めて、どれか卓越した1台があるわけではない。しかし、季節や路面を選ばないホットハッチの素晴らしい記憶に紐付けられたTロックRは、頭ひとつ出たモデルだといえそうだ。
フォルクスワーゲンTロックRのスペック
価格:3万8450ポンド(549万円)
全長:4234mm
全幅:1819mm
全高:1573mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.8秒
燃費:11.5km/L
CO2排出量:176g/km
乾燥重量:1575kg
パワートレイン:直列4気筒1984ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/5300-6500rpm
最大トルク:40.7kg-m/2000-5200rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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