NISSAN LEAF NISMO RC
ニッサン リーフ NISMO RC
GRスープラ 全グレードをテスト! それぞれ明確に異なるフィーリングで魅せる
リーフをベースにしたEVレーサーの二代目
特設コースをたった2周という短い時間だったが、それは胸高鳴る試乗だった。
「ニッサン リーフNISMO RC」をご存じだろうか? これはニッサンのレーシングワークス、NISMO(ニッサン モータースポーツインターナショナル)が作り上げたEVレーサーである。
リーフNISMO RCのコンセプトは、市販車であるリーフのドライブトレインと主要パーツを使うこと。よってニッサン リーフが二代目へとフルモデルチェンジしたことに合わせて、レーシング・リーフも「RC_01」から「RC_02」へと進化を果たしている。
その進化を順に追っていくと、まずRC_02はそのバッテリー容量が初代01の24kWhから62kWhへと、約2.4倍に引き上げられた。これによって最高出力は100kWから240kW、最大トルクも280Nmから640Nmと大幅な出力向上を果たしている。
さらにこの高出力を受ける駆動方式は、初代の1モーターミッドシップから2モーターの4WDに。前輪と後輪をそれぞれのモーターが受け持ち、その駆動力配分はVCM(ビークル・コントロール・モジュール)によって可変制御されるようになった。
換算すると筑波サーキットを1分フラットの実力
その結果0ー100km/h加速は、6.9秒から3.4秒へと一気に短縮。最高速度は150km/hから、なんと220km/hにまで上がった。
袖ヶ浦フォレストレースウェイで記録されたラップタイムは、1分15秒86から1分10秒34まで向上した。しかもワークスドライバーである松田次生選手によれば「計測時はまだセットアップも完全ではなく、さらにタイムを詰める余裕がある」とのことだった。
一般的に袖ヶ浦フォレストレースウェイのラップタイムは筑波サーキットの10秒落ちと言われている。タイヤがミシュラン パイロットスポーツ カップ2だったとはいえ、RC_02は筑波を1分フラットで回る実力を持つEVレーシングカーということになる。
CFRP製サブフレームは前後共通パーツを反転使用
現行リーフのLEDヘッドライトを装着したボディは、RC_01から全長を100mm、ホイールベースを150mmストレッチ。中央のカーボンモノコックをベースにフロアが敷かれ、前後にやはりカーボン製のカウルが取り付けられる3ピース構造となっている。
サブフレームは前後共通の反転利用で、材質もスチール製(35kg)からカーボン製(26kg)に改められた。また、その先端にはクラッシャブルストラクチャー(衝撃吸収構造)が取り付けられた。そしてこのサブフレームには、現行リーフのモーターが組み込まれている。サスペンションの形式はダブルウィッシュボーンで、タイヤからの入力はプッシュロッドによって伝えられる。
まさに最新のレーシングカーといえる造りは、コクピットからも感じられた。太いサイドシルをまたいでバケットシートに滑り込むと、小さなステアリングが目の前に現れる。4つのメインダイヤルのうち、ふたつは予備。ひとつが駆動伝達をニュートラル/ドライブ/リバースと切り替えるダイヤルで、もうひとつは4段階のパワーダイヤルとなっていた。
その周りには左右ウインカー、エアコン、ワイパースイッチが備わっている。中央に備わるタブレットは開発途中で、現在はイベントなどで使うために操作マニュアルがインストールされている。またピットとドライバーがスマホのように文字通信できるという。ラインで「リーフのコクピットなう」という感じだ。
加速の鋭さはフォーミュラ4に匹敵
コースは大磯プリンスホテルの駐車場を利用した平易なレイアウトだったから、コーナリング特性を細かく言及することはできない。しかし印象として語れば、それは“プチGT500”といえる見た目のカッコ良さからは想像もつかないほど“優しいレーシングカー”だと言える。
ステアリングレスポンスは決して過敏ではない。短いストローク量ながらも穏やかなピッチングとロール特性を持っているのは、プッシュロッドを介してサスペンションがきちんと伸縮するからだろう。タイヤも慣れ親しんだミシュラン パイロットスポーツ カップ2の素直なグリップ感だ。
それでも試乗開始早々いきなり始まったスラロームで、RC_02は機敏に反応した。ワイドなトレッドによって素直にノーズを入れ、バッテリーを床下に納める低重心さと長いホイールベースが安定性を発揮してくれる。
大きなカーブを回り込んだら、ブレーキングポイントまで全開。エネルギー効率99%以上、トルクがすぐさま立ち上がる加速は、本当にラグがない。
パワーはバッテリーのセーブとセーフティマージンを考え、4段階中もっとも出力が絞られた常態。「加速はそうですね・・・F4(フォーミュラ4)くらいだと思ってくれたらよいですよ」と、高星明誠(たかぼし・みつのり)選手が緊張を和らげてくれた通り、その走りには過激さよりも気持ちよさが際立った。
ギヤチェンジのない、そして“キューン!”と、どこまでも伸び続けるモーターの作動音は未知の体験。近未来感溢れる世界観には、やはり興奮する。
ブレーキングで左足をやや強めに踏み込むと、減速感が途切れてタイヤは“ふわっ!”とスモークを上げた。このとき頭と身体が瞬間的にロックを感じ取り、自然に素早く反応してブレーキペダルをリリースできたのは、操作系がプロユースだからだ。よいレーシングカーというのは、乗りやすい乗りものなのである。
緩いシケインを抜けると再び大きめな左カーブ。ここで減速をしてターンインしたときの挙動は、かなり落ち着いていた。不特定多数のジャーナリストに周回させることもありセッティングは弱アンダーステア傾向だった。アクセルを緩めてターンしてもリヤが追従して向きを変えるような動きはない。
前後のトルク配分も50:50だから、コーナーの出口からアクセルを踏み込んでもリヤがスライドするようなこともない。むしろ、その前輪トルクに注意し、アンダーステアを出さないようにしながら、クリップからは再びあのジェット機のような加速サウンドを楽しんだ。
たった2周の走行は、アッという間に終わってしまった。そして当然ながら「もっと走りたい」「もっとセッティングを深めてみたい」と思えた。冒頭で記した通り、それは最高のデートだった。
ゴールに向かうストレートでアクセルを緩めると、モーターも同様に金属音を段階的に緩めていく。仮設テントのピットにマシンを納めるとそこにエンジンのアイドリング音はなく、しんとした静けさが訪れる。この違和感というよりも新鮮な感覚が、かえって興奮をかき立てた。そう、ジェットコースターを降りたときのような気分と似ている。
EVレースの未来を見据えJAF規定に準拠
リーフNISMO RC_02は、出場するレースのカテゴリーはないという。しかしそのアーキテクチャーは、カーボンを巻いたスチール製ロールケージなどを見ても分かる通り、FIA規定に習い造られている。
ワンオフのレーサーから想像するコストは意外なほどに常識的で、開発コストを除けば1台あたり3000万円程度で製作することが可能だという。
速さや刺激という点ではFIA-GT3の方が簡単に得られるけれど、インテリジェントスポーツを先物買いするというリッチな嗜好を持つことができれば、これは裕福層にとってかなりお洒落なレーシングカーだと言える。
もっと言えば、カーボンパーツに量産性はないが、それでも台数を稼いだり、カウルをFRP化したりすれば、さらにコストは低くできるのではないか? その素直な操縦性やちょうどよい加速の刺激から考えても、これでワンメイクレースをやったら、とても素敵だと思えた。
ちなみにNISMOは現在これを6台所有しており、今回参加した2台以外に4台が世界中のイベントで活躍しているという。
ニッサン リーフは、ピュアEVにして実に自然な操作フィールを実現し、未だ内燃機関が主流となる現在の交通事情に、見事なまでに溶け込んでいる。対してそのコンポーネンツを使って造られたリーフNISMO RC_02は、そのベクトルを「運転する喜び」へと転換し、EVスポーツの可能性を高く示した。ここがリーフNISMO RC_02において、最も大きく評価できるポイントだ。
EVに走りの愉しさをキャラクタライズする先達としては、BMW i8やジャガー I-PACEが挙げられる。リーフNISMO RC_02はピュアEVレーサーだけにこれらと直接比較することはできないが、その走りの純度と、それがもたらす楽しさにおいては、決してひけを取らないどころか一枚上手を行く本格派である。
EVスポーツカーの可能性がここにある
そしてこの体験を通して筆者は、EVスポーツカーの可能性を見た。EVといえば現状はエミッション性能を基軸とした環境コンシャスな性能ばかりが注目されているが、スポーツカーとしての未来はむしろさらに拡大していく気がする。
電子制御の緻密さ、自由度の高さをもってEVには、素晴らしいスポーツカーを誕生させる予感がある。バッテリーの小型化や高出力化と共に、急速な進化を遂げるはずである。近い将来その時期が来ることを考えると、NISMOがリーフNISMO RC_02を形にした先見の明、そのアドバンテージは大きい。これを失うことなく、ニッサンには未来のEVスポーツカーへの扉を開いて欲しいと切に願う。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
【SPECIFACATIONS】
ニッサン リーフ NISMO RC
ボディサイズ:全長4546 全幅1942 全高1212mm
ホイールベース:2750mm
トレッド:前1723 後1714mm
車両重量:1220kg
モーター:EM57×2
最高出力:240kW(120kW×2)
最大トルク:640Nm
駆動方式:AWD
バッテリー:リチウムイオン
容量:62kWh
0 ‐ 100km/h加速:3.4 秒
最高速度:220km/h
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