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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】度重なる同士討ち。ニキータとミックの話し合いでチームオーダー発令を回避

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】度重なる同士討ち。ニキータとミックの話し合いでチームオーダー発令を回避

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の最後は、超高速サーキットであるモンツァが舞台のイタリアGPだ。ニキータ・マゼピンとミック・シューマッハーのふたりは、前戦オランダGPでの一件を経て、同士討ちを起こさないようにするために話し合いを行ったというが、モンツァでまたも接触してしまった。解決にはまだ時間がかかりそうだが、この2戦の間に行われた議論の内容と、現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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ハースF1代表、チームオーナーとともにマラネロのデザインオフィスを視察。組織編成など現状に満足

2021年F1第14戦イタリアGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/スプリント予選17番手/決勝リタイア
#47 ミック・シューマッハー 予選18番手/スプリント予選19番手/決勝15位

 今季2度目の3連戦が終わりました。前戦オランダGPの舞台となったザントフォールトはダウンフォースを最大限につけて走るサーキットですが、今回のモンツァでは直線スピードを稼ぐためにドラッグを削って低ダウンフォース仕様で走るので、クルマの感触がガラっと変わるのでふたりのドライバーがどのように対応できるかがひとつの焦点でした。

 結論から言えばニキータはこれに比較的うまく対応していたと思います。イギリスGPの時にニキータを担当しているエンジニアたちが少し方向性の違うセットアップでいいものを見つけ、これをもとにハンガリーGP以降は特性の異なるサーキットでも、安定してニキータに合うクルマを作ることができています。

 ニキータ自身もクルマの特性をよく把握できてきました。モンツァでもダウンフォースが効かないなか、自信を持ってブレーキングしていて、以前のように迷路にハマってしまうようなこともありませんでした。「このクルマの動き方はグリップが変わっても、基本的に前のレースと同じだ」という感覚が自信に繋がっていたのだと思います。

 だからこそ、予選でのミス(第2シケインで突っ込みすぎて大きくタイムロス)や決勝レースでミックと接触したのは残念でした。このふたつがなければ、週末を通してとてもよくやっていたと思います。フリー走行での速さを見ていると、予選でもミスをしなければミックより速かったはずですし、ウイリアムズにも近づけていたと思います。

 また、レースでは接触以外にもちょっとまずかったことがありました。ニキータはVSC後の再スタートでミックに抜かれ、第1スティントはずっとミックに引っかかる形になりました。そこで、彼はどうしても第2スティントで履くタイヤをミックと逆にしたかったのです。日曜のレースは暑くなったので、第2スティントはハードタイヤでいくという基本戦略を採っており、これはドライバーふたりにもしっかり事前に伝えていました。ミックと違うタイヤを履くということは第2スティントでソフトタイヤ履かなければいけません。あの路面温度ではどうみても厳しい選択です。しかし、それでもどうしても「ミックと逆の戦略でやらせてほしい」と言うので、あまり失うモノも大きくないし、そこまで言うならとやらせてみました。

 しかし、実際にタイヤ交換をしてピットアウトした後、これでは無理だと思ったのでしょう、なんと無線でチームに対して「俺に間違った戦略を与えた!」と言うのです。いくらレース中で感情が高まっているとは言え、これはまったく感心できません。ですからレース後に腹を割ってふたりだけでしっかりと話しました。これから彼がF1ドライバーとして成長していくのであれば、絶対にこんなことをしていてはだめです。次は彼の地元のロシアGPです。週末を通してしっかりとまとめなければいけませんね。

 一方のミックは僕が懸念していた通りブレーキングに自信を持てず、FP1から苦労していました。スプリント予選ではブレーキの踏み方があるべき姿からは程遠いモノでした。その後、データを見直してレースではよくなっていたものの、速さという面では、これまでのミックのレベルを考えると決して満足のいくものではありませんでした。振り返ってみればアゼルバイジャンGPでも同じようなことがあり、あの時も出だしからニキータの方が速かったです。バクーは市街地コースなので単純比較はできませんが、ダウンフォースを削ったクルマでブレーキを強く踏まないといけないコースにミックは弱いんだなという印象です。

 クルマのセットアップの方向性でも、ここのところミック側の方がちょっとふらふらとしています。ベルギーGPの時もそうで、あの時はFP1の後にミックとも話して、ニキータのセットアップを一部参考にしたらどうかと提案し、FP2で変更をかけたら状況はよくなりました。実はミックはクルマのセッティングの細かいことを言うので(このあたりは少しロマンに似ていますが、ロマンには経験がありました)、エンジニアリング側はその意見をしっかりとフィルターにかけられないと、ミックに振り回されてしまうことになります。この点の対応もチームとしての課題ですね。

■接触を繰り返したニキータとミック。一時はチームオーダー発令の危機に
 前戦オランダGPの予選でニキータとミックがアウトラップでポジションを争ったことと、決勝レースで接触した件について、イタリアGPの前に話し合いを行いました。

 ザントフォールトでの予選を振り返ると、ニキータよりも後にコースに出たミックは、タイヤを温めるためにアウトラップでスピードを上げて走る必要があったので、3コーナーでニキータを追い抜きました。その後ふたりは間隔を開けて走っていたので問題はなかったのですが、多くのクルマがアタックに向けてスローダウンしていた12コーナーで、ニキータがランド・ノリス(マクラーレン)を抜いたうえにミックも追い抜こうとしました。これがひとつの大きな間違いで、チームとしてもニキータがセクター3でああいうことをするとは思っていませんでした。

 これまで僕たちはニキータとミックを信用して、自由に戦わせてきました。ふたりのドライバーを見て、最大限のパフォーマンスを発揮するためにはどうすればいいのかを常に考えて判断を下していたのですが、今後もこのようなことがあるのであれば、もっと単純なチームオーダー(たとえば、アウトラップでの追い抜きはいかなる状況でも禁止)を出すことになると彼らに伝えました。

 オランダGPの状況に照らし合わせて考えれば、チームオーダーを出した場合はミックであれニキータであれ、アウトラップを速く走りたくても追い抜かせることはできません。そうすると、その後のアタックでそれぞれがタイヤの性能を最大限に引き出せなくなる可能性が増えます。イタリアGPで言えば、通常はチームメイト同士でスリップストリームを使えるようにするためにそれほど間隔を空けないでコースへ送り出しますが、アウトラップ中にドライバー間で変なことが起こるのを避けるために10秒ほど間隔を空けて送り出すことも可能なわけです。レースでも、DRSを使えるようになるまで追い抜きを禁止することになるかもしれません。

 もちろんこれはドライバーにとっても、そしてチームにとってもいいことではありません。状況を最大限に活用したパフォーマンスを発揮できないし、お互いが恩恵を得られなくなるので、なるべくこのようなことはしたくないです。だからニキータとミックには、2度とこういうことを起こさないためにもふたりでしっかりと話し合うようにと言ったんです。

 モンツァでは彼らが話し合いをしたというので、信頼して今まで通り戦わせました。予選とスプリント予選ではクリーンにやっていたので、少しは学んだのかなと思いましたが、レースではリスタート後に接触。ニキータは無線で「ミックが僕にターンインしてきた」と言いましたけど、あれはニキータが突っ込みすぎているだけです。レース後、僕とギュンター(・シュタイナー/チーム代表)、ニキータ、ミックの4人で話し合いをした時には、ニキータは完全に非を認めて謝っていました。オランダの時に問題だったのは、お互いが相手のせいにしていたこと。今回はニキータが非を認めたので、彼らの間でもきちんと解決できているのでしょうけれど、もうこういうことは起こらないと彼らを100%信用しているかというと、まだそうではありません。

 それから、オランダGPの予選でミックが速くアウトラップを走るためにニキータを抜くということを正確にニキータに伝えられなかったのは、僕のミスでした。ミックがアウトラップを速く走りたがっていたのは最後のアタックをする前からわかっていたことだったので、彼のエンジニアにはニキータと間隔を空けて出すようにと指示しました。ですがピットレーン出口では、前のクルマと距離を取るためにみんながほぼストップしている状態だったので、結局ニキータのすぐ後ろをミックが走るという状況になってしまいました。残り時間もなかったので、ミックをすぐにピットから出さざるを得なかったのです。

 失敗したなと思ったのは、僕がニキータのエンジニアに「3コーナー出口でミックがニキータを抜く」と伝えた際に、その理由まできちんと説明しなかったことです。オランダではニキータが先にコースへ出るという取り決めだったので、追い抜かれたニキータが「何があったの?」と聞いてもエンジニアは「あとで話すから」としか言えず、彼は不信感を抱くことになったのです。

 これもグランプリの後に話し合って、今後こういうことがあったら、両エンジニアに同じことを同じタイミングで言うようにすると伝えました。両方が聞けるインターコムで話すとノイズが増えるので、お互いに関係することではない限りはそのチャンネルを使わないように気をつけていたのですが、あの時はそれが間違っていました。同じことを同時に伝えていれば、もうちょっとうまくコミュニケーションを取れたと思っています。

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