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サンビーム 3リッター・スーパースポーツ 初代オーナーは地上最速の男 前編

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サンビーム 3リッター・スーパースポーツ 初代オーナーは地上最速の男 前編

地上最速記録を狙ったヘンリー・セグレイブ

執筆:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)

<span>【画像】サンビーム・スーパースポーツと同時期のサルムソン 後年のサンビーム・ロータスも 全52枚</span>

撮影:Max Edleston(マックス・エドレストン)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


今の時代、インターネットで検索すれば歴史的な映像や文章に触れることができる。足を伸ばして、歴史的な場所を巡ることもできる。しかし、地上最速記録を残した人物が乗っていたクルマを運転するという機会は、そう簡単に訪れるものではない。

筆者は自動車の歴史作家、シリル・ポストフムス氏が記した「ヘンリー・セグレイブ卿」という本を読んで以来、1920年代の伝説的レーシングドライバーと、彼が駆ったレコードブレーカーに強く惹かれてきた。

レーシングドライバーというより、チャレンジャーだったヘンリー・セグレイブ氏。彼は地上最速記録を3度も更新している。しかし、若くして亡くなった彼との結びつきが判明しているクルマは、殆ど残っていない。

そのなかでも、アイボリーとグリーンのツートンカラーが特徴的なサンビーム 3リッター・スーパースポーツは際立つ1台だといえる。通称ツインカムという呼び名が与えられている。

彼自身が所有していた期間は、1年にも満たなかった。陸上移動で200mph、321.8km/hを超えた初めての人間になることを追い求めたセグレイブと一緒に、アメリカへ渡ったクルマだ。

1927年3月29日、横風が吹く中で、彼はブレーキのない車重3tのストリームライナー、サンビーム1000hpを疾走させた。その様子は、今もユーチューブで見ることができる。

大西洋に面したフロリダの砂浜に、約3万人のアメリカ人が参集。高身長の英国人と、排気量45Lというツインエンジン・マシンとの勇敢な挑戦を目撃した。

先進的なドライサンプ・ツインカムエンジン

砂浜に停められた7000台というクルマのなかに、セグレイブが持ち込んだサンビーム・スーパースポーツもあった。今では見事に修復され、機能面も完璧な状態。セグレイブの輝きを、感じ取ることができるようだ。

鮮やかなグリーンに染められたレザーシートへ、助手席側から乗り込む。クルマの右サイドにはシフトレバーとハンドブレーキが付いていて、運転席側にはドアがない。

セグレイブがこのサンビームを注文したのは、1926年10月。特別に指定したという白いステアリングホイールを握ると、彼が命をかけて挑んだ記録が自然と頭に浮かんでくる。

1896年に生まれたセグレイブが、初めてクルマを運転したのは1906年。アイルランドのゴールウェーで、父が所有していた単気筒エンジンのローバーだったという。それから21年後、地上最速の男として名を刻んだ。

古いサンビームを運転できること自体が、特別な体験。しかも英国中部、ウルヴァハンプトンに創業したサンビームへ、栄冠を与えたセグレイブがオーナーだった1台だ。これ以上の体験はそうそうないだろう。

技術者のルイス・コータレン氏が手腕を振るったサンビームの中でも、3リッター・スーパースポーツは頂点を飾るフラッグシップ・モデル。独特の長いボディを持ち、スポーツカーではなくグランドツアラーのように見える。

長いボンネットの中には、1920年代のモデルとしては異例といえたユニットが収められている。先進的なドライサンプ・ツインカムを採用する、グランプリ・マシンと同じエンジンだ。

1925年のル・マン24時間レースで総合2位

鋳鉄製のモノブロックで、ロングストロークと半球型の燃焼室、角度の付けられたバルブ、ギア駆動のオーバーヘッドカムなどが特徴。クローデル・ホブソン社製のH42Aキャブレターを2基搭載し、最高出力91ps/3800rpmを発揮した。

1925年の発表時は、最高速度152km/hがうたわれていた。このサンビームでコータレンが目指したことは、1925年のル・マン24時間レースで競合のベントレーを破ること。

実際、2台の3リッター・スーパースポーツがサルテ・サーキットを周回。ジャン・シャサーニュ氏とサミー・デイビス氏がドライブした1台が生き残り、総合2位で目標を達成している。

1925年から1930年までの間に、サンビームが仕上げた3リッター・スーパースポーツは約300台。そのなかでもシャシー番号4001Gを持つ1926年式の1台は、セグレイブが乗っていたことで最も歴史的な価値が高いといえる。

シャシーはチャンネルセクション・フレーム。フロント・サスペンションは、当時としては一般的といえるビームアスクル式で、半楕円のリーフスプリングとハートフォード社製の調整式フリクション・ショックアブソーバーが組まれている。

リアは、先進的なトルクチューブを備えるリジットアクスル式。車軸前方に、片持ちタイプのリーフスプリングが備わる。

リアの長いスプリングは、レイアウト上での弱点。コーナリング時は、リアアスクルが過度に動くような印象を受ける。シャシーには走行時の負荷でヒビが入りやすく、4つのエンジンマウントも劣化していたが、専門家の手でレストア時に解決済みだ。

2kmも走らないうちにクルマと呼吸が合う

今回はこの3リッター・スーパースポーツで、ウィンダーミア湖へ立ち寄りたいと考えている。この湖は、水上最速記録に挑んだセグレイブが、33歳で命を落とした場所。人影の少ないサフォークの道路は、走行性能を確かめるのに理想的な環境にもなる。

3.0Lの直列6気筒エンジンは、当時としては非常にレスポンスが良い。軽快に吹け上がるだけでなく、低回転域でのトルクも充分。エグゾーストノートもたくましい。トランスミッションは、筆者が経験したビンテージカーとしては最高の1つ。

レバーはボディと太ももの間に伸び、コンパクトなHゲートを上下させる。動きは滑らかで、レシオも完璧。クラッチも楽しいほど扱いやすい。タブルクラッチのタイミングを掴みやすく、シンクロメッシュはいらないとすら思える。

ブレーキは四輪ともにドラムだが、制動力の立ち上がりには安心感がある。ウォーム・ナット式のステアリングラックは、大型バスのようにレシオがスロー。しかし感触はダイレクトで、コーナリングの自信は保たれる。

出発から2kmも走らないうちに、ビンテージ・サラブレットと呼吸が合うようになる。このクルマが過小評価されてきたと感じる。

ビンテージカーといえば、ベントレーがレジェンド級だが、サンビームも英国代表として多くの名声を残してきた。第一次から第二次大戦の間にも、英国勢として唯一グランプリレースへ出場した。その血統が、公道用モデルへ反映しているのだろう。

自動車初採用の美しいセルロース塗装

「品質や歴史を考えると、サンビームのツインカムはお手頃といえます」。と説明するのは、専門家のジョン・ポルソン氏。セグレイブの美しい3リッター・スーパースポーツを、オーナーの代理として17万5000ポンド(2712万円)で売りに出している。

この金額では、レストア費用を賄うことができないはず。「ビンテージカーへの造詣の深いエンスージァストによって、維持されてきました。現オーナーが高齢で運転できなくなり、新しいオーナーを探しているのです」

長めのツアラー・シャシーがデビューしたのは1926年。当初からスーパースポーツとして、アイボリーのボディとワイヤーホイールをまとう大胆なルックスを、グリーンのサイクルフェンダーとシャシーが引き立てていた。

ダッシュボードもアイボリー・レザーで仕立てられ、メーターは白い盤面で統一。シートは、フェンダーと同じグリーンでコーディネートしてある。

ニッケル・シルバーのトリムが眩しいが、特に注目を集めたのは自動車として初採用された、セルロース塗装だった。それまでブラシで塗られていたのに対し、スプレー塗装のため光沢は段違い。乾燥が速く、生産性も高めていた。

ボディスタイルは、独立したフェンダーと露出したシャシー、サイドのランニングボードが特徴。ドアは左右でずらされ、フロントシート用は左側に、広々としたリアシート用は右側に付いている。

この続きは後編にて。

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