スイスのビジネススクール、IMDによる「未来準備指標」で2023年の自動車業界ランキング1位は米テスラで5年連続でナンバーワンに。IMDはソフトウェア開発がより重視されるようになっていると指摘するが、テスラの成功によって勢力図が塗り替えられている現状を緻密に分析してみた。
文/鈴木直也、写真/ベストカー編集部、テスラ
テスラの成功に世界中が惑わされた!? EV大狂想曲時代の勝者となるのは果たしてどこなのか?
■モデルSの成功で浮き上がったのが「先読み」?
テスラモデルS。その加速力は超強力だった!
テスラについて、ボクは前回「その光と陰」についてのコラムを書いた。
※前回のコラム。
ほぼゼロからEVベンチャーを立ち上げ、実質10年ちょっとで生産台数約137万台、売上高10兆5000億円、純利益1兆6000円まで駆け上がったテスラ。その成長物語はどんな基準をもってしても驚異的で「アンビリーバブル!!」としか言いようがない。
では、なぜかくも多くの人々がテスラに魅了されたのか。今回はそのことについて考えてみよう。
■まずは何といっても「イーロン・マスク」?
テスラといえばこの人、イーロン・マスク氏。カリスマ経営者の彼の「読み」に魅入られたユーザーは多いと筆者は指摘する
言うまでもなく、まず最初のキーワードは「イーロン・マスク」だ。
ご存じのとおり、EVメーカーとしてテスラは2003年に創立されているが、そのビジネスが実質的に立ち上がるのは2012年にモデルSが発売されてからだ。
つまり、モデルSこそテスラを発射台から打ち上げた第1弾ロケットであり、このクルマなしにテスラの成功はあり得なかった。前回のコラムでも触れたが、モデルSの商品企画にあたり、イーロン・マスクの「先読み」が抜群にシャープだったことが、テスラを成功に導いた最大の要因と言っていい。
テスラ最初の製品はロータス・エリーゼベースのEVスポーツカーだったが、イーロン・マスクは早々とこれに見切りをつけ、狙いを高級サルーンにシフトする。
結果がわかっている今なら簡単に言えるが、この決断はすごかったと思う。
■富裕層向けのプレミアムカーをEVにしたテスラ
富裕層向けのプレミアムカーとして販売したテスラ。そのマーケティング手法がまさにズバリと当たった
テスラが創業した2000年代、現在とは比較にならないほどバッテリーコストが高かった。そのため、EVはシティコミュータから普及が始まると予想する人が多数派で、三菱のi-MiEVをはじめ、トヨタはiQ、ベンツはスマートをEV化し、その延長に日産のリーフが登場してくる。
従来どおりコストの積み上げでマーケティングを考えると、どうやってもこのへんに商品としての価格限界がある。既存の自動車メーカーで商品開発を担当している人たちは、その既成概念から一歩踏み出すことができなかった。
一方、既存の自動車業界に何のしがらみもないイーロン・マスクは、EVをビジネスとして軌道に乗せるには富裕層向けプレミアムカーしかないと考えた。
マーケティング手法は真逆で、富裕層が満足するEVとは? を先に定義し、その要求を満たす性能/装備からコストを決定するという発想だ。当時としては圧倒的に大容量の電池、目ざましい動力性能、斬新なIT機能、そしてスーパーチャージャー充電網……。
ライバルが持っていない数々の魅力が満載で、これが新し物好きで環境意識の高い富裕層に「刺さった」わけだ。
■イーロン・マスクのカリスマ性にユーザーはおカネを払うのか?
テスラというブランドは、カリスマ経営者イーロン・マスクと一心同体。筆者はそう指摘している
ただし、考えてみればわかるとおり、こんな贅沢にアレもコレも盛り込んだクルマを開発したら、資金がいくらあったって足りない。前回のコラムでも書いたが、自身も個人資産から1億ドル近くを出資するなど、資金調達についてはイーロン・マスクの超人的な活躍抜きに現在のテスラは存在し得ない。
斬新なアイデアだけなら「誰にでも」とは言わないまでも出せる人はいる。しかし、それを事業化するにあたって必要な資金を用意できる人は圧倒的に希少。その両方を用意できる天才的な経営者を擁したからこそ、テスラだけが驚異的な成功を収めることができたワケだ。
かつてのアップルでスティーブ・ジョブスが神話的アイコンだったのと同様、テスラを買う人はイーロン・マスクの掲げる理想にお金を払っているという要素が多分にある。
先進的なBEV体験をいち早く体験した彼らの多くは、熱烈なファンとなって周囲の友人にその魅力を説き、その口コミによってまたユーザーが増えてゆく。こういう現象が起きるのは、ユーザーがテスラの作るクルマを通じてイーロン・マスクの理念に共鳴しているからで、初期のアップル・マッキントシュが、“エヴァンジェリスト”と言われる伝道師によってファンを広げていったエピソードを思い起こさせる。
BEVであるなしを問わず、自動車業界でそんなムーブメントを巻き起こしたのは後にも先にもテスラだけ。まさに、テスラというブランドは、カリスマ経営者イーロン・マスクと一心同体といえるわけだ。
■モノより体験、これこそがテスラだ!
テスラモデル3の15インチタッチスクリーン
もうひとつ、テスラの特徴としてボクが挙げたいのは「モノより体験」というキーワードだ。
どういう意味かというと、「自動車としての機能部分がそれほど優秀なワケじゃないが、テスラならではのユーザー体験の数かずは新鮮で面白い」ということ。
ボクが初めてテスラモデルSに試乗したのは、2013年の東京モーターショーでのこと。この年は会場裏手の駐車場に各社のニューモデルを集め、一般入場者のお客さん向けの体験試乗会を開催。そこに日本に導入されたばかりのモデルSが持ち込まれ、ボクは同乗試乗会のドライバーとしてお客さんを乗せてコースをぐるぐる周回したのだ。
そこで印象的だったのは、我々(自動車業界関係者)と一般のお客さんでは、ウケる部分がかなり違っていたということ。
例えば、モーターで自動的にせり出すドアハンドル。キーONという概念がなく、ドライバーが乗車すると自動的にスタンバイするシステム。巨大モニターが中央に位置する以外はシンプルなインパネ。EVならではの静粛で力強い加速感などなど……。とにかく「これまでのクルマと違う!」という部分に、一般のお客さんがすごく反応して喜んでくれる。
我々から見ると、テスラのユーザーインターフェイスは「アイデアはともかく使い勝手が……」と感じる部分も多いのだが、そんなことより「今までのクルマとはぜんぜん違う!」というサプライズが重要。
新鮮な「テスラ体験」のほうを意図的に重視したクルマ作りに徹しているし、それがユーザーに喜ばれているのを強く感じたのだった。
■オートパイロットとスーパーチャージャー充電網に感心
このモデルSからテスラの自動車ビジネスが本格的に始まった
その後、広報車を一般公道で試乗するなど、ボク個人も「テスラ体験」を積み重ねていったのだが、そのなかで「これぞキラーコンテンツ!」と感心したのが、オートパイロットによる(擬似)自動運転と、スーパーチャージャー充電網の便利さだ。
オートパイロットはご存知のとおり自動運転という意味ではレベル2の機能要件しか満たしていないADASで、ユーザーがそれを勝手に拡張利用しているのが実態。これを「なんちゃって自動運転」と揶揄する人も多い。ボクも同感で、安全に関わる部分までベンチャー気質丸出しでは困ると批判的に見ている。
しかし、数年前にロスアンゼルスでテスラに試乗した際、正直いってこの信念がちょっと揺らいだ。LAのフリーウェイでオートパイロットを試すのは初めてだったのだが、流入ランプから走行車線に合流した段階でオートパイロットをONにすると、ナビに導かれて目的の出口ランプまでクルマ任せであっさり移動してしまったのだ。これにはけっこう驚いた。
横に座るオーナーに聞くと「フリーウェイでは通勤などでみんな普通に使ってるよ」という。
■オートパイロットが次代のデファクトスタンダードに?
最新モデルのモデルY。ボディサイズは全長4751×全幅1921(ミラー含まず)×全高1624mm
こういう「既成事実」は侮りがたいと思う。アメリカのITベンチャー企業には、最初は違法でも「既成事実を積み上げて新しい常識を作れば勝ち」という文化がある。その典型例がYouTubeで、もとは著作権無視の海賊版動画アップロードサイトだったのに、今や新しいメディアプラットフォームとして隆盛を極めている。音楽配信やライドシェアなど、そういう例がいくつもあるのだ。
実際、テスラのオートパイロットは自動運転レベル3として脱法利用するからいろいろ問題が起きるワケで、素直にレベル2として使ってもその利便性は充分に魅力的。レベル3と誤解させるようなネーミングでユーザーを煽るようなことをせず、正しい使い方を啓蒙すればいいのにと強く思う。
しかし、ひょっとするとイーロン・マスクはもっと壮大なことを考えていて、例えばテスラのオートパイロットを自動運転ソフトのデファクトスタンダードにするとか、そういう途轍もない野望があるのかもしれない。
例えば、インターネットの通信プロトコル(TCP-IP)のように、自動運転ソフトウェア(少なくともそのプラットフォーム)を統一し、「車車間通信」によって相互に安全を確保するようなシステムが構築できれば、人間の運転手をコンピュータに置き換える発想よりソフトウェア処理はずっと楽になるし、ひいてはコストも削減できる。
■自動運転の勝者はどこになるのか?
グローバルのなかでも特に中国市場でも引っ張りだことなっている人気モデルのセダン、モデル3
そういえば、ごく最近のニュースで、アメリカのEV充電規格でテスラの「NACS」が米国標準の座を勝ち取ったというニュースが流れた。これは、典型的な「先にデファクトスタンダードになった者が勝つ」というパターン。自動運転の開発競争でも同じことが起きる可能性は高い。
だからこそ、各方面からの批判を物ともせず、イーロン・マスクはオートパイロットとその発展版である「フル・セルフ・ドライビング」(FSD)の拡販にこだわっている。そういうヨミもできるんじゃないかと思う。
さてさて、テスラのことを書いているとあっという間に字数が膨らんできて、すでに依頼の倍近い文字数4000文字に達しようとしている。
インターネットはあまり長い原稿は読まれないという説もあるので、とりあえずいったんこの辺で一段落。続きはまた後ほどということでよろしくお願いいたします。
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