現代に蘇ったポニーカー
1967年の初代フォード・マスタングを電動化したエレクトロモッド車両を製造・販売できるのは、ほぼ間違いなく英国だけだろう。
【画像】1960年代のファストバック風最新EV【エレクトリック・マスタングを写真で見る】 全23枚
チャージ・カーズ(Charge Cars)社のマスタングをエレクトロモッドと呼ぶのは少し控え目すぎるかもしれない。これは、1968年のスティーブ・マックイーン出演の映画『ブリット(原題:Bullitt)』で有名になった初代マスタングを、徹底的に再設計し、デザインを研ぎ澄まし、高級なEVにしたものだ。
米国から輸入したスチール製モノコック、英国製のカーボンファイバー製ボディパネルとインテリア、英国製の最新型クアッドモーター・パワートレイン、そして英国で設計・製造された新しいサスペンションを装備している。
このエレクトリック・マスタング(Electric Mustang)は、欧州連合(EU)の衝突試験や照明および視界に関する規制に準拠して開発されている。
「わたし達は常に最善の道を歩んできました」と、チャージ・カーズ社のチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)であるマーク・ロバーツは言う。
さまざまな規制、設計、エンジニアリング、コンポーネントを包含して1台のクルマを作るには、ソフトウェアやハードウェアだけでなく、現代の英国自動車産業が持つ総合的な技術が必要だ。実際、開発チームを率いるロバーツは、マクラーレンで30年のキャリアを積んだベテランである。
グループ会社で技術共有
チャージ・カーズ社のスタッフにはマクラーレン出身者が多く、F1や世界耐久選手権といったレースチームで活躍した人物もいる。
ロバーツはこの85人のチームのリーダーであり、会社を統括するCEOのヴァディム・シャガリエフは、音楽ストリーミング事業を立ち上げたロシアの起業家である。シャガリエフは英国のEVメーカー、アライバル・グループの創業者兼CEOであるデニス・スヴェルドロフとのつながりで、この国でチャージ・カーズ社を率いることになった。
アライバル・グループは、2015年に設立された新興企業で、電動の小型商用車やバン、バスなどを手掛けている。
1960年代のマッスルカーと宅配便のバンでは、ずいぶん違うように思えるかもしれないが、バッテリーセルやモーター、エンジニアリング制御、そしてBEV技術のブレークスルーを目指すという野心を共有している。
また、エレクトリック・マスタングと、配車サービス事業を行うウーバー社と開発中の自動運転タクシー「アライバル・カー」との間には、密接な関係がある。
「ハードウェアとソフトウェアはアライバルと非常によく似ていますが、チャージ・カーズは全く異なる独自の目標を持つ会社です」とロバーツは言う。「実際には、当社は彼らのために技術の一部をテストしており、いくつかの分野では我々の方が先行しています」
独立した4基のモーターを搭載
チャージ・カーズ社の本社は英国ミドルセックスのウェスト・ドレイトンという町にある。A408号線から少し入ったところにあり、モノトーンのインテリアはクールで、工業施設らしくないスタイリッシュな雰囲気がある。
エレクトリック・マスタングは、フロントとリアに2基ずつ配置された計4基のモーターで駆動する。モーターはそれぞれドライブシャフトを介して、各車輪に1つずつ連結されているのだ。
バッテリーパックは、アライバルの商用バンと同じLG化学のチューブ状セル2170個を使用。アライバル独自の204個のセル/モジュールのカーボンファイバー・ユニットに六角形にパッケージングされている。
合計17個のモジュールが搭載されており、そのうち9個はフロアマウントに、8個がリアシート部分にある。バッテリー容量は63kWh、航続距離は約320kmとされ、充電は交流で最大22kW、直流で最大50kWまで可能だ。
バッテリーパックの総重量は、ヒートシンクプレートと水/グリコールによる冷却システムを含め、305kgと比較的手頃な重さであり、特注のカーボンファイバーケースにパッケージされている。
もちろん、フォードの同意なしに、マスタングの象徴的なデザインを商用利用することはできない。チャージ・カーズ社は「多額」のライセンス料を支払ったため、フォードの商標は使用できないが、マスタングを名乗るクルマを売ることはできる。1台1台すべて車両に、フォードとのライセンス契約を示す認証プレートが取り付けられる。
フォードの承認を得たデザイン
光沢のあるブラックペイントで仕上げられたマーケティング用ショーカーは、本家と同じくとても美しい。1967年のマスタングのボディを細部にわたってアップデートしたことは驚くべきことだが、そのために多大なエンジニアリングと部品調達のコストがかかっている。
「ボディを一から作り直したんです」とロバーツ。「一見すると1967年のクルマのように見えるかもしれませんが、パネルもガラスもすべて独自のもので、フラッシュ式ドアハンドルや独自のスイッチ類も装備しているのです。新型車なんですよ」
独自のボディパネルは、どれもオリジナルの1967年型には合わないだろう。パネルの多くは、オリジナルを3Dスキャンして作成したパターンを使って、カーボンファイバーで完全に作り直したもの。より滑らかで洗練された外観にデザインし直し、新しいライト類にも対応させているのだ。
コンポジット製のクロージャーやフロントウイングも、同じように独自のものに仕上がっている。ボンネットは2ピースのカーボン・プリプレグ。重量は8kgで、スチール製のオリジナルより14kgも軽くなっている。
マッスルカーらしいダイナミクス
動力性能のチューニングも非常に重要だ。「ニュルブルクリンクで記録更新を目指すわけではありません」と、最高技術責任者(CTO)のマタス・シモナビシウスは語る。「それはマッスルカーらしくはないでしょう。ドライブをもっと楽しく、もっと日常的に使えるようなダイナミクスが欲しいのです」
マスタングのダイナミクスを特徴づけるのは、各モーターの個別制御によるトルクベクタリングで、理論上は逆回転させることも可能だ。このため、生産工場には、駆動特性の設定と微調整を行うための四輪ダイナモメーターを備えたテスト施設が設置されている。
前後重量配分は42:58と、マッスルカーとしては異例なほどバランスがとれている。これはメインバッテリーを中央に配置することで、デトロイト製V8エンジンのようにフロントアクスルに重量が集中するのではなく、クルマの中心に重量を集中させているため。
リアのサブフレームとモーターアッセンブリーの重量は298kgで、フロントよりやや重い。後方に配置されたセカンドバッテリーも合わせ、重量は後方に偏っている。
次の新モデルはどんなクルマに?
2023年の納車開始に向けて、エレクトリック・マスタングのプロジェクトはまだ立ち上げ段階だが、チャージ・カーズは次の新製品を考え始めている。
ロバーツは、「次のプロジェクトについては、毎日のように話し合っています」と語る。「また一から作り直すこともできるし、自分たちでデザインすることもできる。さすがにクルマ好きの会社だけあって、いろいろなアイデアが出てきますね」
おそらく、バッテリーやモーターは現行の改良型が採用されるだろう。しかし、どのようなクルマに搭載されるかは、社内でも熱い議論が繰り広げられているようだ。
ロバーツによると、英国製スポーツカーによく見られる「小型のオープンカー」などは、航続距離を稼ぐために必要な大型バッテリーに適合しないとして候補から除外されているという。しかし、「ある年代以上」のデザインでは、ライセンス契約なしで使用できるものがあるとのこと。
さらに、大型バッテリーを搭載したマスタングのロングレンジモデルや高性能モデル、限定モデルについても検討されている様子。とはいえ、最高出力543ps、最大トルク155kg-m、最高速度250km/h、0-97km/h加速3.9秒という性能は、すでに十分パワフルなものだ。
では、チャージ・カーズ社の作品を買うのはどんな人なのだろうか?驚くことではないかもしれないが、最も関心が高いのはマスタングの熱狂的なファンがいる米国で、顧客はガソリンエンジンのマスタングを少なくとも1台は所有していると思われる。また、英国、欧州、アジアからの需要もある。
ロバーツによれば、顧客の中にはすでに全額の35万ポンド(約5600万円)と税金を一括で支払った人もいるそうだ。また、5万ポンド(約800万円)の予約金で生産枠を確保した人もいる。もちろん、フランク・ブリット(映画『ブリット』でスティーブ・マックイーンが演じた主人公)のイメージカラーであるハイランド・グリーンの注文も入っている。
自身の富と環境への配慮を誇示すると同時に、クラシックなアメリカン・メタルへの情熱を示す。チャージ・カーズ社が1960年代のクラシックカーを電動化するロマンは、そこに集約されているのかもしれない。この組み合わせは、勝利の方程式と言えるだろう。
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みんなのコメント
5600万円もするなら、完璧にレストアしたオリジナル車両を買うなぁ。