南米大陸を代表する“ティントップ”カテゴリー、2022年SCBストックカー・ブラジル“プロシリーズ”第8戦は、隣国より急きょ参戦のスーパーTC2000レギュラー、ジュリアン・サンテロ(フルタイム・スポーツ/トヨタ・カローラ)がFP2でいきなりの最速タイムを記録し、予選で最前列を獲得したブルーノ・バブティスタとリカルド・ゾンタのRCMモータースポーツ陣営トヨタ・カローラが、再車検で失格裁定を受けるなど波乱尽くしの展開に。
そんな荒れた週末で輝きを見せたのがFP1で最速、レース1でもセカンドロウ3番グリッドからスタートしたフェリペ・ラピーニャ(ホットカー・コンペティソイス/シボレー・クルーズ)で、2020年に急逝したチーム創設者アマデウ・ロドリゲスに捧げるドラマティックな初優勝を達成。亡き父の遺志を継ぎ代表に就任した娘のバーバラ"バビ"ロドリゲスは、南米モータースポーツの主要カテゴリーで実に43年ぶりとなる、女性代表が率いるチームでの勝利記録を樹立した。
初見参『トヨタ・カローラGRS TCR』は一時5番手浮上も無念。グエリエリ組が制覇/TCRサウスアメリカ第6戦
9月3~4日の週末にブラジル・サンパウロ州の山間部、モジ=グァスーに位置するアウトドローモ・ヴェロチッタで迎えた第8戦は、最初のセッションから3連覇王者ダニエル・セラ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)や昨季のヴェロチッタ勝者ギリェルメ・サラス(KTFスポーツ/シボレー・クルーズ)らを従え、ラピーニャが幸先よくトップタイムを記録する。
前戦インテルラゴスで予選最速をマークしながら、ピットレーン速度違反で3グリッドダウンを課された男が、シボレー勢のトップ3を牽引する失地挽回の滑り出しを見せた。
「僕らは非常に競争力のあるクルマを持っているようだ。小さい規模のチームだし、そのことを正しく理解してから長い時間が経ってしまったね。この週末も順調にスタートを切れたが、まだやるべきことが山ほどある。今こそ素晴らしい仕事を続けようと努力するときであり、ポールポジション獲得を狙うのが責務だ」と、早くもFP1終了後に宣言していたラピーニャ。
参戦22台中19台が秒差圏内にひしめくセッションを経て、続くFP2ではこれがストックカー・デビューとなったアルゼンチン出身のサンテロが、FP1の5番手に続いて68号車のカローラでいきなりの首位に立ち、パドックから「彼はもう何年もこのカテゴリーにいたようだ」と驚きの声が挙がる結果に。
今季すでに2勝を挙げ“越境参戦の成功者”としての地位を確立したTOYOTA GAZOO Racingブラジルの先輩マティアス・ロッシ(A.マティス・フォーゲル/トヨタ・カローラ)に続き、地元ではハイテクFFツーリングカー(トヨタ・カローラSTC2000)をドライブするサンテロが「まだリヤ駆動の大きなマシンに慣れている段階で、ドライブは難しけど楽しいよ」と語り、FP1とは一転して2番手セザール・ラモス(イピランガ・レーシング/トヨタ・カローラ)、3番手ゾンタのトヨタ陣営を牽引するスピードを披露した。
その流れを経て迎えた予選は、上位3台の差がわずか0.005秒という予測どおりの激しいセッションとなり、バブティスタとゾンタのRCMモータースポーツがフロントロウを独占する。しかし予選後の再車検でトヨタ・カローラにバンパーの技術的不具合が発覚し、予選タイム抹消の裁定が降ることに。
バプティスタにとっては、自身初の3位表彰台かと思われた前戦インテルラゴスで車両最低重量違反が発覚し、まさかの失格処分となった失意がふたたび繰り返される悪夢の展開となり、セカンドロウ3番手に留まっていたラピーニャが繰り上げのポールポジションを獲得する結果となった。
「僕らのチームは素晴らしいファイターだ! 戦うためにファミリーでトラックに向かい、それがすべての違いを生み出しているんだ。本当に小さなチームだが、その熱意、仕事、心は非常に大きい。直接的でないにせよ、2戦連続のポールがそれを証明している。なんて素晴らしい瞬間なんだ!」と予選後に喜びを語ったラピーニャ。
しかし明けた日曜午後13時10分開始のレース1を前に、ブラジルのスポーツ司法裁判所に異議申し立てを行っていたRCMモータースポーツは、そのアピールが認められ1夜にしてフロントロウを取り戻すことに成功。バプティスタとゾンタは並んでターン1へ突入していったが、ここで諦めなかったのが背後にいた70号車ラピーニャだった。
この立ち上がりでアウト側を回っていたホットカー・シボレーはゾンタを仕留めて2番手に進出すると、首位バプティスタに再三のプレッシャーを掛けていく。すると9周目のホームストレートで背後からプッシュ・トゥ・パスを活用して鮮やかなオーバーテイクに成功し、そのまま30分+1ラップのスプリントを制覇。ラピーニャ自身はキャリア初優勝を飾るとともに、チームとしても創設者アマデウが率いた2014年9月以来の2勝目、娘の現代表バーバラにとっても初のポディウム頂点となった。
■浮き沈みの激しいレースウイークとなったサンテロ
「ストックカーにとっても僕らにとっても幸せな日だ! 僕はバビに『このトラックで勝利を目指す』と宣言していたんだ」と、ドラマティックな展開を制したラピーニャ。
「僕はそれを得るためにすべてを注いでドライブしたし、今は本当に幸せだ。チームは週末を通して素晴らしい仕事をしてくれたし、彼らが僕に与えてくれたクルマに感謝したい。ここで勝つのは非常に難しいし、今はただ祝うだけさ。なんて日だ!」
一方、チームマネージャーから昇格して父の仕事を引き継いできたバーバラは、この勝利を「もちろん父に捧げる」と自身の代表初勝利を噛み締めた。
「私がこの役割を担当して以来、このカテゴリーで刻んできた各ステップは、本当に簡単なものではありませんでした。でもチームの競争力は素晴らしく、非常にプロフェッショナル。そこにサインインし、良い結果に向け短くてもしっかりとした一歩を踏み出すことに専念してきた。何事も偶然はなく、この結果も運ではありません」と続けたバーバラ代表。
「私の周囲には同じ目的で団結している信じられないほどの専門家がいるし、フェリペは長年この部門に所属し、すべてのステップを学び吸収してきました。本当におめでとう! 父を称える最善の方法は、このクルマをサーキットで走らせ、彼を誇りに思い続けること。彼も天国で大きく手を振って喜んでいると確信しているわ」
2位バブティスタ、3位チアゴ・カミーロ(イピランガ・レーシング/トヨタ・カローラ)の表彰台に続き、4位のアラム・コデア(ブラウ・モータースポーツ/シボレー・クルーズ)を挟んでロッシがトップ5を獲得。このポジションでは初参戦サンテロが奮闘していたものの、王者ガブリエル・カサグランデ(A.マティス・フォーゲル/シボレー・クルーズ)とのアクシデントによりレースタイムに5秒が加算され、さらに自身のジャンプスタートにより20秒も追加され14位に沈む結果となった。
しかしこの結果が続くドラマを巻き起こし、フレッシュタイヤを装着したサンテロは早めのピット作業で“サブマリン作戦”を遂行し、レース2の18周目まで首位を快走する。ただ、同じ戦略で19番手からの挽回を狙っていたシリーズ3冠のリカルド・マウリシオ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)が、ピットアウト直後に背後へ迫るとストレートエンドでの首位奪取に成功。
その後も喰い下がったサンテロだったが、2位チェッカー後にふたたび「ジャンプスタート」裁定を受け9位へと降格し、鮮烈な印象を残した浮き沈み満載のレースウイークが終了。結果、2位ゾンタ、3位にガエターノ・ディ・マウロ(KTF Sports/シボレー・クルーズ)の表彰台となった。
続くSCB第9戦は、9月23~25日の週末にリオグランデ・ド・スル州中心部に位置するサンタクルス・ド・スル国際サーキットで争われる。
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