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2018年11月に開催されたロサンゼルスモーターショーショー2018で、マツダは次世代商品群の先頭に立つ「マツダ3」のワールドプレミアを行なった。そこでは、セダンとハッチバックの量産向けデザインが明らかになったが、一方で詳細な諸元などは公表されなかった。
搭載エンジンはグローバルで、新たに冷却水制御、気筒休止システムを導入した「SKYACTIV-G 1.5」、「SKYACTIV-G 2.0」、「SKYACTIV-G 2.5」、「SKYACTIV-D 1.8」、そして新たに開発した「SKYACTIV-X」がラインアップされることが発表されたが、ボンネットが開けられることはなかった。
スカイアクティブ-Gシリーズは、今後、気筒休止システム、冷却水制御を採用することでより燃費性能を高め、これらの精密な制御は、いわばスカイアクティブ-Gの正常進化のための技術ともいえる。
一方、マツダの独自技術スカイアクティブ-Xに関してはまだまだ明らかになっていない部分が多い。これまで様々なイベントで展示、個々の技術要素に関する取材などを通し、いよいよ開発の終了時期を迎えるスカイアクティブ-Xエンジンの実像に迫ってみることにした。
「スカイアクティブ-X」の基本原理
スカイアクティブ-Xエンジンは、SPARK CONTROLLED COMPRESSION IGNITION(SPCCI:火花点火制御圧縮着火)として発表された。長い間研究されている、理想のガソリンエンジンといわれるHCCI(予混合圧縮着火)は、名称通り点火プラグによる着火を使用せず、ディーゼルと同様にピストンによる圧縮によって自己着火させるシステムで、希薄燃焼が可能なため大幅に燃費を低減させることができる。
しかしHCCIは、希薄燃焼での自己着火が前提のため、急加速などでの高負荷運転ができない。常に理想空燃比での高負荷運転をしようとすると、その運転の切替が困難であることがわかっている。
こうしたHCCIの希薄燃焼(リーンバーン)コンセプトを活かしながら、高負荷運転へのスムーズな移行を目指して開発されたのがマツダのSPCCIで、希薄混合気を高圧縮しながらもスムーズに燃焼させるために、これまでのガソリンエンジンと同様に点火プラグを使用するシステムとした。
燃料が少なく、空気が多い希薄混合気の状態で高圧縮比にし、点火プラグの周辺にやや濃い目のガソリンを噴射して着火させ、その火種によって高圧縮された希薄な混合気を自己着火させるという燃焼行程がSPCCIのポイントだ。
この燃焼の流れは、燃焼室全体に希薄な混合気を圧縮すると同時に、点火プラグ周辺では着火しやすい混合気を部分的に作るので、成層燃焼方式とも言える。最終的には空燃比30(通常の理想空燃比の2倍の空気を使用=λ2)付近で燃焼させるため、燃焼温度が低く、燃焼室の壁面への熱伝達が少なくなって冷却損失が低下する。 また希薄燃焼のため、通常のエンジンより吸入空気量を増大させるためスロットルによる絞り損失(ポンプ損失)が低減するというのが基本原理だ。
ただし、スカイアクティブ-Xエンジンは低負荷時に希薄燃焼を行なうが、ガソリン量の30倍の空気を吸入するわけではなく、大量EGRも併用している。つまり希薄混合気は空気に排ガスが加わった状態だ。
排気マニホールドから再循環される排ガスは、EGRクーラーで冷却され吸入空気とともにガソリンと混合される。このEGRは燃焼温度を下げる役割を果たし、希薄燃焼時のNOxの発生を抑制する。つまりスカイアクティブ-Xエンジンは、吸入空気と大量のEGRにより希薄混合気を作り出しているのだ。
またスカイアクティブ-Xの大きな特長として、高圧のコモンレール式ガソリン噴射システムを装備していることも注目点だ。噴射圧500Bar~800Barで、通常の直噴ガソリン用が200Bar程度だから、相当に高圧だ。
また、インジェクターの位置は燃焼室の頂点にあり、噴射方式としてはスプレーガイド式。従来は燃焼室の側面にインジェクターを配置していたが、SKYACTIV-Xは燃焼室の真上から噴射する。そして点火プラグは燃焼室の斜め側面にあり、その点火プラグの着火点に向かって噴射するようなレイアウトになっている。またインジェクターは多段噴射を行ない、希薄燃焼をコントロールするようになっている。
スカイアクティブ-Xを支える技術と性能
スカイアクティブ-Xエンジンは、希薄燃焼時には空燃比30とし、エンジン本体の圧縮比は15(国内仕様、欧州仕様16.3)だ。しかし、HCCIエンジンと同様に、希薄燃焼を行なっているのは低~中負荷域で、加速時には希薄燃焼から理想空燃比(空燃比14.7)、出力空燃比(13)への燃焼に切り替える必要がある。この希薄燃焼からの素早い、滑らかな切り替えもこのエンジンのポイントとなる。
そのため、装備されているのが、スーパーチャージャー/インタークーラーとマイルドハイブリッドだ。マツダは、スーパーチャージャーを「高応答エア・サプライ」と呼称していて、何のことだかわかりにくいが、ベルト駆動のイートン社製のスーパーチャージャーだ。
希薄燃焼から理想空燃比での燃焼の切替時には、より大きな出力が求められるため、それに比例した吸気量が必要となる。自然吸気だけではこの急激な大量の吸気量が確保できないため、スーパーチャージャーで加圧したエアを遅れなく燃焼室に送り込むというシステムなのだ。
そして、希薄燃焼の安定性や、理想空燃比への切り替えなどをモニターするため、筒内圧センサーも備え、燃料噴射のフィードバック制御を行なっている。
しかし、希薄燃焼の状態から大きくアクセルを踏み込み、理想空燃比に切り替わるタイミングが瞬時に、完璧に行なわれるかどうか。やはりタイムラグ、発生するトルクの大きな変動が発生するはずだ。それをカバーするのがマイルドハイブリッドのスターター/ジェネレーターのモーター駆動アシストということになる。
このマイルドハイブリッドは、マツダのアイドリングストップ+エネルギー回収システムの「i-ELOOP」の発展型なのだ。i-ELOOPは可変電圧式オルタネーターを採用しており、25Vまで発生できる。このスターター/ジェネレーター・ユニットと、i-ELOOPで使用しているキャパシターの代わりに、より容量の大きなリチウムイオン・バッテリーを採用したのが、この24Vのマイルドハイブリッド・システムだ。
マイルドハイブリッドとしてはヨーロッパ流の48Vがよりモーター駆動力が大きく有効だが、コスト・パフォーマンスを考えて、従来からあるi-ELOOPのモーター・ユニットを流用したというこだろう。
スカイアクティブ-Xエンジンの2.0L 4気筒出力は190ps/230Nmと発表されている。スカイアクティブ-Gの2.0Lエンジンはヨーロッパ仕様で155ps/200Nm、日本のレギュラー仕様で148ps/192Nmとなっているが、それより高出力、大トルクになっているのはスーパーチャージャーの効果がある。
スカイアクティブ-Xの圧縮比は15と高いため、加速時など高負荷運転では吸排気の可変バルブタイミング機構を使用してミラーサイクル・システムを稼働させ、実質圧縮比を落としてノッキングを回避するようになっている。
このように、スカイアクティブ-Xは、高圧コモンレール燃料噴射、スーパーチャージャー、マイルドハイブリッド/リチウムイオン・バッテリー、ミラーサイクル・システム、筒内圧センサーなど、通常のエンジンに比べ多くのデバイスを装備しているので、コスト的にはベース・エンジンの1.5倍程度になると考えられるが、ディーゼル・ターボエンジンよりはコストが低いという。
またスカイアクティブ-Xは、低中回転域での低負荷ゾーンで、高燃費ゾーンが広いという性能上の特長を持っていることも注目すべきだろう。これはRDE(real drive emission実走行)燃費で有利に働き、またそれを燃費性能向上に使うだけでなく、車両のファイナル減速ギヤ比を低く設定できることを活かし、加速性能の向上をも実現し、燃費と走りの両立を目指したエンジンとなっているのだ。
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