11月9日、スーパーフォーミュラからの引退を発表して最終2連戦に挑んでいる山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)は、その1戦目である第8戦の予選と決勝を、三重県の鈴鹿サーキットで戦った。
■「身動きが取れない感じ」で挑んだ予選
運命を分けた赤旗後の3分間とタイトル脱落。食い違う野尻智紀と太田格之進、決勝では異次元の速さ
前日の金曜専有走行では、本人曰く「できすぎ」のトップタイムを記録。その後夕方に行われた引退記者会見では、土日のラストレースに向け「最後は勝ち逃げしたい」と語っていた山本だったが、一夜明けた予選では、その目論見は崩されることとなった。
「昨日のフリー走行は調子が良かったので、あまり身動きが取れない感じもありました」と決勝後のミックスゾーンに現れた山本。金曜の感触ではマシンバランスも良好で、とくに手を加えたい箇所もなかったくらいだったという。
しかしいざ予選が始まってみると、周囲のタイム向上は予想以上だった。
山本が金曜専有走行で記録した全体ベストタイムは1分37秒360。土曜朝のQ1・Aグループは1分37秒084で2番手通過した山本だったが、Q2でポールポジションを獲得した太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)がマークした1分36秒094というタイムは想定を超えるものだった。
「(1分)36秒台前半までいくとは思いませんでした。そこのタイムを狙おうとするなら、クルマはもうちょっと足りていなかったですね」と山本は振り返る。
「金曜日から1.3秒もタイムが上がるとなると、全然次元の違うクルマを作らないといけません。太田選手たちが、そのあたりのタイムを想定したうえでクルマを煮詰めていったのかは分からないですけど……なんか昨日調子が悪かった組はコンディションに合っていなかっただけで、反対に僕は昨日の(1分)37秒台くらいに合っていた感じなのかな、という印象は予選を終えて受けました」
とはいえ、グリッドポジションは6番手。好ペースと的確な戦略があれば、表彰台は充分狙える位置だ。しかし、相対的なペース不足に山本は苦しんだ。
「ちょっと辛かったですね。防戦一方といった感じになってしまいました。昨日も一応、本当に数周ではあったのですがハイタンクの確認はして、準備はしていました。だけど、こんなにキツいとは思わなくて。自分がキツいのもありましたけど、それ以上に太田選手を含めて(前方集団は)『ちょっとどこから来てるんだろう?』というくらいの異次元の速さ。彼の速さは本当に素晴らしかったので、まずはなんとか彼に追いつけるようにしたいですし、(日曜の第9戦は)最後カッコいいレースをしたいなと思います」
結局、グリッドからひとつポジションを下げて7位で第8戦を終えた山本だが、予選では想定されるポールポジションタイムが把握できたこと、そしてタイヤが脱落するアクシデントに見舞われるまではチームメイトの佐藤蓮が決勝で2番手を快走したことで、日曜に向けたセットアップ面では山本としても参考にできる部分がある模様だ。したがって、“本当の最終レース”である第9戦では、土曜日以上の走りを見せられる材料は手にしているとも言える。
引退発表後の初レースということで、ステアリングを握りながら特別な想いも去来したのでは、との問いかけに山本は、「いや……強いて言うなら、今日ここで無茶して、明日レースできなくなることだけは嫌だなと思っていました」と答えた。
「でも別に安パイで走っていたわけではないですし、『隙あらば……』と思っていたのですが、相手の隙を突いて前に出るほどのポテンシャルがありませんでした」
「ただ、そのなかで『無茶しちゃダメだな』というブレーキは、自分でかけられた。おかげでクルマは(壊れることなく)しっかり形として残っていますし、明日は予選からバシっと決めて、いい幕引きをしたいですね。どんな結果であっても、最後まで諦めないでベストの走りをしたいなと思っています」
泣いても笑っても、ラスト1戦。終章に向け、これまでの集大成を見せようと決意を滲ませつつも、どこか清々しい表情を浮かべながら、山本はピットへと戻って行った。
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