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2億5000万円の合法ドラッグ! まんまレーシングカーのメルセデス・ベンツ「CLK-GTR」開発秘話

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2億5000万円の合法ドラッグ! まんまレーシングカーのメルセデス・ベンツ「CLK-GTR」開発秘話

■開発期間わずか128日で完成させた、メルセデス・ベンツの底力

 数多ある自動車メーカーのなかで、モータースポーツへの関わりを長きに渡って継続し、なおかつサーキットにおいて常にトップランナーとして走り続けてきたブランドといえば、それはポルシェ、フェラーリ、アストンマーティンでもなく、メルセデス・ベンツということになる。

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 なにしろ、彼らのグランプリ活動は1920年代に始まっているのだ……。

 しかも、そのカテゴリーは、市販車と密接な関係をもつツーリングカーから、極限のパフォーマンスを求めたスポーツプロトタイプやフォーミュラマシンまで、戦略的ながら多岐に渡っており、ロードカーの世界と同様に、サーキットにおけるスリーポインテッドスターの歴史を振り返るだけで、コンペティションの歴史もまたかいつまんで知ることができるというものだ。

 そして、モータースポーツのなかでは自動車の進化と歩調を併せたいわば必然かつ正統なストーリー以外にも、そのときどきの複雑怪奇な政治や思惑を背景に、様々な異端の物語も生み出されてきた。もちろん、正統も異端も、いずれNo.1を目指した結果であったがゆえ、クルマ好きの心を打つものではあるわけだが……。

 メルセデス・ベンツ「CLK-GTR」もまた、異端の物語の主人公であるといって、差し支えないであろう。モータースポーツシーンにすさまじいインパクトを与えつつも、決してメインストリームとならなかった存在。時代の転換期に、場当たり的な政治決定があったからこそ生まれた、モンスター。

 踞った銀の平たい塊は、異様なまでに近寄り難いオーラを放っている。

 ときは1996年。FIAは翌年から、それまでのITC(国際ツーリングカー選手権)に換えて、BPR-G-GTとして開催されていたGTカテゴリーによるレースを国際格式に上げ、FIA-GT選主権として彼ら自身の手で運用することを決めた。

 BPRといえば、マクラーレン「F1GTR」やフェラーリ「F40GTE」、ジャガー「XJ220」などが思い出される。

 ポルシェがいち早く「911GT1」での参戦を表明すると、メルセデス・ベンツも黙ってはいられない。

 傘下のAMGメルセデスに、市販車イメージを最大限に生かしたGTマシンの製作を急がせた。AMG公認の歴史書によれば、たったの128日間で完成したという。

 当時の開発責任者であったピーター・コンラッド曰く、「文字通り、一寸たりとも休む間なんて、なかったよ」

 突貫工事で開発は進められ、辛くも2台のCLK-GTRがサーキットに到着。スタートフラッグに間に合った。

 シーズン当初こそ、マクラーレンF1(なんとメルセデスはF1-GTRを購入して、エアロダイナミクスの開発用に使っていた)の後塵を拝したが、万全の3台体制となって以降に6勝を上げ、マニュファクチュラーとドライバーのダブルタイトルを獲得する。つまり、CLK-GTRは、シルバーアローの輝く歴史の一頁となったのだ。

■生産台数わずか25台。新車当時2億5000万円ともいわれたスペシャルモデル

 そして、メルセデスベンツには、もうひとつの仕事が残っていた。当時のFIA-GTのルールでは、最低一台のリーガルロードカーを作らなければならなかったが、それはFIAとの交渉で何とか1997年末に登録を終えている。

 残るは、カスタマー向けの車両だった。

 わずか25台のCLK-GTRロードカー。うち、5台はHWA(AMGの創始者であるハンス・ヴェルナー・アウフレヒトの会社でAMGメルセデスのレーシングカー開発やウルトラスペシャルモデルの製造を請け負う)によるロードスターバージョンである。

 その生産は、1998年シーズンが終わってから始められた。1999年からは、新たなレギュレーションでFIA-GTが開催されることになっていたからだ。

 また、1998年シーズンにはCLK-GTRの後継車である「CLK LM」も登場していたが、こちらは耐久レースでの使用を考えて、GTRの7リッターV型12気筒エンジンに換えてV型8気筒エンジンが積まれていた。しかし、ロードカーには再び、M120のV型12気筒エンジンが積まれている。

 また、パガーニ「ゾンダ」や「SL73」でお馴染みの7.3リッターV型12気筒エンジンにHWAが換装した個体も2台あるといわれており、それらは「スーパースポーツ」と名乗っている。

 ロードバージョンの生産は、1999年の半ばまで続けられたようである。ロードカーとして最低限必要な保安装備、そして助手席をやエアバッグを含む機能装備を施されて登場した「CLK-GTRロードスター」は、しかし、乗り降りにも非常な難儀を強いられる、公道のレーシングカーであった。

 回転半径7.9メートルに至っては、もはやランスルーのガレージでもなければ引っ張り出すことも叶わない。おまけに3ペダルのシーケンシャルミッションと聞けば……。

 多くの顧客が、ただ眺めるだけに徹したのも、むべなるかな。

 もっとも、間近で眺められるだけでも幸運というものだが。

 陽の光のもと、その肢体を伸びやかにさらしたCLK-GTRは、やはり、しばらく声にならないほどの存在の強さ、逞しさ、濃さ、大きさであった。

 そして、それにも増して素晴らしいと思うのは、生産型のCLKモチーフをライトまわりやグリルにきっちりと残しつつ、かつメルセデスのイメージを損なわずに、レーシングカーとしての機能美を見事に表現しつくしたシルエットとスタイリングの美しさ、であろう。

 特にドアから後ろ、リアウイングへと流れる合理的で潔く放たれたラインは、観る者を圧倒してやまない。

 真横からみると、これがまた不思議で、「CLK」の前後を左右に引っぱり、天井もぐっと押しつぶして、今でいうところの「CLS」のようなサイドウィンドウをもった、どうみてもメルセデス・ベンツである。

 ほとんど中身はCカーであり、カーボンファイバー強化樹脂など、レーシングマテリアルてんこもりの車体が、ひとたび気を落ち着けて眺めると、〈一風変わったメルセデス〉にしか見えてこないから不思議だ。

 それもまた、ブランドのなせる技。我々は、マスクに輝くスリーポインテッドスターを認めただけで、ある一定の〈落ち着き〉を、たとえ相手がレーシングカーであっても、仮にフォーミュラマシンであっても、感じることができるのだと思う。

 だとすれば、このクルマの勇姿は、日本の公道で見てみたいものである。

* * *

●Mercedes-Benz CLK-GTR
メルセデス・ベンツ CLK-GTR
・生産年:1998年
・全長×全幅×全高:4855×1950×1100mm
・ホイールベース:2670mm
・エンジン:V型12気筒DOHC
・総排気量:6898cc
・最高出力:612ps/6800rpm
・最大トルク:79.0kgm/5250rpm
・トランスミッション:6速シーケンシャル

●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店

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みんなのコメント

9件
  • ルマンで宙返りした時にはビックリしました。でもかっこよすぎる。
  • この実車、あの小室哲哉も所有した話があるよ(結局、事務所の資金繰りの問題で売却したらしいのだが)・・・!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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