日本ではレアな多関節式ダンプ
2024年5月22日から24日までの間、千葉県の幕張メッセで行われた建設・測量業界向けの展示会「CSPI-EXPO2024」。会場には国内外のさまざまなメーカーの建設機械、いわゆる建機が展示されており、それらは一般人が見ても楽しめるほどの賑やかさがありました。
そういった “映える” 建機の中でも、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)が最も気になったのが、ドイツのベルグマン社製の中型オフロードダンプカーです。
特徴ある色合いのイエローとブラックのツートンで塗られたボディーに、悪路での走破性が高そうな幅広な大径オフロードタイヤを履いており、見た目からはダンプというよりもバギーのような印象を受けます。なお、車体が「くの字」に曲がって見えるのは、シャシーが運転席と荷台の間で曲がる、多関節式と言われる構造だからです。
このダンプは「C815」という名称で、日本でベルグマン社の総代理店を務めるP&J 株式会社のブースに展示されていました。
見た目は非常にインパクトがありますが、車体の寸法は全長7.1m、全幅2.8m、全高3mで、この大きさは日本国内で公道を走れる10tダンプ、いわゆる大型ダンプとほぼ同じです。
数字だけ見ると、日本国内を走る一般的なダンプと比較してそれほどメリットがあるように思えません。それでも、わざわざドイツ製のダンプを輸入して国内で販売している理由は何でしょうか。代理店の担当者にハナシを聞きました。
中型サイズ不在の国内オフロードダンプ市場
多関節式ダンプトラック「C815」の特徴について、P&Jの担当者は次のように説明してくれました。
「このダンプの一番の特徴は舗装されていないオフロードでの走破性です。しかし、それとは別に小規模な造成工事でも使えるコンパクトさも利点だといえます。日本にはオフロード用のダンプトラックとしては国産品や輸入品が従来も多数ありましたが、それらは25t以上もある大型車が中心です。採掘場といった大きな現場ならばいいですが、小規模な山岳部での造成工事などでは、そのようなダンプはオーバースペックになってしまいます。この車両の場合、丁度よい大きさで、かつシャシーが多関節式で曲がるため、狭い場所でも移動することができ作業場での小回りも利きます。つまり、日本の特定の工事現場にピッタリとマッチするサイズなのです」
「C815」のような中型オフロードダンプを求める声は実際に工事を行う建設会社からもあり、その開発・製造をしているベルグマン社に、日本の建設会社から直接問い合わせがいったこともあるそうです。
そのため、現在までに「C815」は30台程度が輸入され、国内の現場で実際に活躍しているのだとか。特に、この車両の特徴が生かせるのは風力発電の現場だといいます。
風力発電施設は山奥の僻地をピンポイントに造成・建築するため、その多くが現場まで移動する道路などが整備されていない場所で、大型の建機を持ち込むことが難しいとのこと。そのような現場では、「C815」のような中型ダンプはピッタリの存在なのです。
痒いところに手が届くようなつくり
また「C815」が日本で販売されている一番の理由は、既存のダンプにない車体サイズにあるようです。さらに、実際に車両を見てみると細部の質の高さに驚かされます。
まず、安全性については、オフロードでの走行やダンプアップが安全に行えるよう、車両には複数のセンサーが装備されています。たとえば、車体が斜めの状況ではセンサーがそれを感知して、横転しないようにダンプアップをできなくする自動の安全策が採用されています。
運用やメンテナンスについても、人間と比較すると大きな車体ではあるものの、燃料の給油口とアドブルー(尿素水)の注ぎ口は右前のバンパー部分に集約され、アクセスしやすくなっています。運転席後方にあるエンジンも、カバーは左右に開くオープンボンネット式になっており、脚立などを使わず地面に立った状態でエンジン周りの整備作業が行えます。
ダンプトラックとして一番重要な荷台は、最大積載重量が1万2000kgもあり、メーカーの説明によると従来のダンプと比べて20%増しなのだそう。荷台を上げて積載物を下ろすダンプアップも、通常モデルでは尾部を支点に上げ下げするだけですが、派生型の「C815S」ならば90度旋回させて左側面に落とすことができ、さらに「C815 3-way」では荷台を左右と後方の3方向に傾けることができます。
この「C815」は、海外ではオフロードだけでなく舗装された一般道をこのまま走行し、荷台にタンクを積んで散水車などとして使われることもあるそうです。現時点では日本国内の公道を走行することはできませんが、メーカーによればナンバー取得に向けて動いているそうです。
舗装道路を走行する場合はタイヤを履き替える必要があるとのことですが、メーカーによると公道走行が可能になれば、将来はより多くの工事現場での活躍だけでなく、そのオフロード走破性から大規模災害によって道路が破損した被災地での活躍なども期待していると話していました。
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