ホンダ EM1 e:のデザイン・装備「質感は普通の50ccスクーターよりワンクラス上」
2023年5月にホンダが発表した、同社として初の一般ユーザー向け電動スクーター「EM1 e:」の発売が8月24日から始まっています。そのタイミングで、楽しみにしていた公道でのテストライドをする機会に恵まれました。ホンダが推進している交換式リチウムイオンバッテリー「Hondaモバイルパワーパックe:」と、インホイールモーターによる電動パワートレインを与えられたEM1 e:の走りはどのようなものだったのか、さっそくお伝えしようと思います。
【画像20点】ホンダの電動原付スクーター「EM1 e:」の装備、機能、全ボディカラーを写真で解説
あらためてEM1 e:の外観からチェックしてみましょう。門のようにシグネチャーで囲われたヘッドライトをはじめ、灯火類にはすべてLEDを採用。シンプルなデジタルメーターは電動パーソナルモビリティらしいムードを高めています。
スタイリングのコンセプトは「シンプル&クリーン」。フレンドリーさを狙ったということですが、フロントに12インチタイヤを履き、ディスクブレーキを採用していることもあって安っぽさはありません。
EM1 e:は原付一種(いわゆる50ccクラス)の電動スクーターですが、パッと見には原付二種と思わせるほどの立派さがあります。
ホンダ EM1 e:の走行性能「ダイレクトかつレスポンスのいいスロットル反応」
後ろから見ると排気系が存在しないのは当然ですが、リヤホイールがメカメカしく重量感のあるものとなっています。これはEM1 e:が駆動系としてインホイールモーターを採用しているから。ホイール自体をモーターとすることで変速機によるエネルギーロスを減らすことができ、レスポンスを向上させられるのがメリットです。反面、ダイレクト駆動ということで減速による駆動量のトルクアップが難しいというデメリットもあります。
そして、EM1 e:に採用されたインホイールモーター「EF16M」型のスペックは、定格出力0.58kW、最高出力1.7kW、最大トルク90Nmとなっています。定格出力は原付一種の上限が0.60kWなので妥当として、最高出力は原付一種としてみても低く感じます(1.7kW=2.3ps)。最大トルクは一見すると大きく見えますが、減速比を勘案した「駆動トルク」でいうと原付一種エンジン車でも100Nmは超えますから、やはり力強いとはいえません。
性能数値以上に余裕のある走り!
はたして、EM1 e:の公道初走行の感想は「すべてに余裕がある」というものでした。
モータースペック的にはエンジン車の原付スクーターと比べて見劣りするのは事実ですが、インホイールモーターによるダイレクト感と、スロットルに対する反応の適切さが、そうしたネガを完全に打ち消しています。
EM1 e:には、スタンダードとECON(イーコン)という2つのライディングモードが用意されていますが、スタンダードで走っている限り原付スクーターとして加速が鈍いという感じはありません。
このように表現すると「回りはじめに最大トルクを発生できるというモーターの特性から発進加速が鋭いだけでしょう」と思ってしまうかもしれませんが、そういう意味ではありません。
むしろ発進時はマイルドに仕上げてあって、走り出してからの中間加速にモーターらしいダイレクトさやレスポンスを感じられるのです。原付スクーターというのは、普通自動車免許でも運転できますし、初心者が乗る機会も多いモビリティです。そうしたユーザー特性を十分に意識したセッティングになっているといえるでしょう。
ここで誤解してほしくないのは、EM1 e:の走りは決しておとなしいわけではないことです。前方に路上駐車しているクルマが突然ドアを開けたようなシチュエーションでは、危機回避としてスラローム的な走りをすることもありますが、そうした動きをしたときの安定性は原付スクーターとは思えないレベルとなっています。
また、急制動をかけたときの安定感も抜群。バッテリーをシート下に積んでいることやインホイールモーターを採用していることにより後輪荷重がかかっているので、フルブレーキングでも前後輪がしっかり接地しています。この感覚は、エンジン車ではなかなか味わえない新鮮なものでした。
ECONモードを選ぶと、最高速度は30km/hに制限され、そこまでの加速も明らかに絞られた印象となりますが、住宅街などを走るのであれば、むしろ好ましいといえるフィーリングとなっています。
というわけで、公道走行の第一印象は非常によいものでしたが、実際に購入検討する上で気になるのは実用性でしょう。
ホンダ EM1 e:の航続性能・機能性「『電費』はバッテリー10%で4kmくらいだった」
前述したように交換型バッテリーをシート下に搭載する関係から、メットインスペースはありません。小物を入れることはできますが、ヘルメットの収納についてはリヤボックスを付けるか、持ち歩くかしないといけなさそうです。
それよりも気になるのは航続性能でしょう。カタログスペックでは30km/h定地走行で53kmとなっています。定地走行の数字が実用的な航続可能距離を示していないというのは、多くのライダーであればご存知でしょう。
ホンダの発表している参考値でいえば、欧州のWMTCクラス1モードで走ると、30kmを走行するのにバッテリーの80%を使うということです。EM1 e:はバッテリー残量が20%を切ると、最高速度などを抑えたライディングモードに切り替わる仕様となっているので、バッテリーを使い切るまで走るとトータル41.3kmの走行が可能ということになっています。
そうはいっても「カタログスペックやモード走行は参考にならないよ」と思うかもしれません。しかし、それはエンジン車の感覚であって、電動車両というのはタイヤの数にかかわらず、意外なほどWMTCモード値に近い走りが可能なものです。
今回の試乗では100%充電状態からスタートして、スタンダードとECONの両モードを切り替えながら走行。バッテリー充電率が80%になったところでトリップメーターを確認したところ、「7.9km」という数字が表示されていました。
WMTCモードのライダー想定重量は75kgですが、写真からもわかるように、試乗した筆者の装備重量は三桁に迫ろうかというもの。試乗時もフル加速を味わったりしていましたから、決して電費を優先して乗っていたわけではありません。
それでも単純計算で、バッテリー10%あたり4km弱が走れることになります。WMTCモードではバッテリー電力量の80%を消費して30kmを走行できるということですが、その計測スペックは現実的といえます。15km圏内での利用であれば余裕で往復できるといえます。
Hondaモバイルパワーパックe:の充電には空に近い状態から満充電までで6時間ほどです。仮に通勤通学でEM1 e:を使うとして、帰宅後にバッテリーを自宅に持ち帰り、充電器にのせておけば翌朝には満充電になっていることでしょう。そう考えれば、一充電での航続距離がエンジン車に比べて短いというのは、実際にはそれほどネガにならない可能性もありそうです。
ホンダの試算によると、EM1 e:本体とバッテリー&充電器を購入したとしても、電気代とガソリン代のランニングコスト差を考えると、同等クラスの原付スクーター(エンジン車)との差額は4年で回収できるといいます。ガソリン価格の高騰が進んでいる昨今ですから、将来的には回収までの時間はもっと短くなっていくかもしれません。そうなれば、経済合理性からパーソナルモビリティは電動化が進むでしょう。
ホンダ初の一般向け電動スクーター「EM1 e:」の出来映えは、誰もが電動スクーターを使う時代を見据えたフレンドリーさがあります。電動だからといって癖はなく、航続距離も実用的なパーソナルモビリティの基準といえるかもしれません。
ホンダ EM1 e:主要諸元
【モーター・性能】
種類:交流同期電動機 定格出力:0.58kW<0.8ps> 最高出力:1.7kW<2.3ps>/540rpm 最大トルク:90Nm<9.2kgm>/25rpm
【バッテリー】
種類:ホンダモバイルパワーパックe:(リチウムイオン電池) 定格電圧:50.26V 定格容量:26.1Ah 定格電力量:1314Wh 連続放電出力:2.5kW
ゼロから満充電までの充電時間:約6時間(Hondaパワーパックチャージャーe:使用)
【寸法・重量】
全長:1795 全幅:680 全高:1080 ホイールベース:1300 シート高740(各mm) タイヤサイズ:F90/90-12 R100/90-10 車両重量:92kg(Hondaモバイルパワーパックe:搭載の状態)
【車体色】
パールサンビームホワイト、デジタルシルバーメタリック
【価格】
29万9200円(車両本体15万6200円、Hondaモバイルパワーパックe:8万8000円、Hondaパワーパックチャージャーe:5万5000円)
ホンダ EM1 e:の装備や機能を解説
■フロントタイヤは12インチ(多くの50ccスクーターは10インチ)。フロントブレーキは190mmシングルディスク。
■初心者や普段バイクに乗らない人でも扱いやすいように、リヤ(左)ブレーキ操作でフロントブレーキも作動する「コンビブレーキ」も採用されている。
■リヤサスペンションは一般的なスクーターで定番のユニットスイングではなく、スイングアーム式。
■右スイッチボックスにスタンダードモードと「ECON」(マイルドな走行感かつ省電力となるモード)の切り替えスイッチがある。
■シンプルな円形のメーターユニット。液晶内には速度計、バッテリー残量を大きく表示、オド、トリップ、時計は切り替えで表示できる。液晶上部は走行モードと速度警告灯のインジケーター。
■シート下は前方がバッテリー搭載スペースで、後部の容量3.3Lのトランクスペースが設けられている。
■バッテリーの「Hondaモバイルパワーパックe:」は約10kg。重量感は相応にあるが、持ち手のついたデザインで引き出しやすい。
■シート下トランク以外の収納としては、ハンドル下にフロントインナーラックを用意。500mlのペットボトルが収納可能。
■メインスイッチの右側にはUSB充電ソケットを装備。ハンドル下にはコンビニフックも設けられている。
■海外では2名乗車も可能ということもあってか、シートはゆとりある形状。シート高は740mm。
■ヘッドライト外周に設けられたLEDは常時点灯。ヘッドライト自体はロービーム時は下側が点灯、ハイビーム時は上下両方が点灯する。
■ウインカーはテールライト横にビルトインされているほか、スイングアームマウントのリヤフェンダーを採用していることもあり、スッキリとしたリヤ周りとなっている。
■リチウムイオンバッテリー「Hondaモバイルパワーパックe:」と専用充電器「Hondaパワーパックチャージャーe:」。ゼロから満充電までは約6時間。
■価格は29万9200円となっているが、車両本体15万6200円、バッテリー8万8000円、充電器5万5000円という構成で、個別に購入することも可能。
レポート●山本晋也 写真●北村誠一郎/ホンダ 編集●上野茂岐
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