優しい、だけど走りも楽しい!
カワサキは、400ccツインエンジンを新設計ロー&ロングの車体に搭載する新型車「エリミネーター/SE」を4月25日に発売する。これに先駆けて実施されたメディア向け試乗会に参加してきたので、その走りの「期待通り」と「期待以上」についてインプレッションをお届けしたい。
エリミネーターとレブル250、選ぶならどっちだ?! スペック/足着き比較
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン
これはクルーザーじゃない?! 扱いやすさを基本とした“ネイキッド”の復活
扱いやすい低回転域と伸びやかな高回転域の二面性が楽しい並列2気筒エンジン、178kgの車重を感じさせない軽快かつ自由自在なハンドリング。小回りもしやすく、ワインディングロードではスポーツバイク顔負けの充実感が得られる。もちろん高速クルージングも大得意だ。
ちょっとワルっぽい外観から想像するイメージとはかけ離れた取っつきやすさと安心感がある。デビュー前の情報ではクルーザー然とした姿から直線が気持ちいいバイクかと思っていたが、さまざまな気分に応えてくれるエリミネーターSEはビギナーからベテランまで多くのライダーを満足させるであろう仕上がりになっていた。
今回試乗できたのは、ビキニカウルやミツバサンコーワ製ドライブレコーダー、USBタイプC電源ソケット、専用シート表皮を標準装備した上級仕様のエリミネーターSEだ。マッシブな燃料タンクは、標準モデルとともにテクスチャーの異なる2種類の黒(パールロボティックホワイトの場合は白)で塗り分けられていてカッコイイ。往年のビッグネームを復活させればユーザーは期待しまくるものだが、デザインにはそれを十分に満足させるだけの説得力がある。
―― 武骨なデザイン、なのに乗ると優しいというギャップがたまらない。
穏やかな安定感をベースとしながら、想定外の軽快さでマシンを傾けられる
跨ると、強く印象に残るところがどこにもない。もちろん足着きは735mmのシート高によって抜群によく、シンプルなメーターや程よい位置関係のハンドルで視界は良好。ライダーが触る部分の位置関係のすべてが自然に感じられて突出したところがなく、最初から馴染みやすいのだ。
ライディングポジションは、クルーザーというよりもシート高が低くに設定されたネイキッドという印象。それも、最近のストリートファイター寄りのネイキッドではなく、どちらかといえば1990年代くらいまでの“往年の”ネイキッド系や、最近のネオクラシックモデルに近いかもしれない。
―― 肉厚のシートにドッカリと腰掛けると、自然な位置にステップとハンドルがあり、足着き性はシート高735mmの恩恵で抜群だ。ライダーは身長183cm。
とても軽いクラッチレバーを握り、400ccらしいトルクを後輪に伝えながら発進する。
最初に強く感じたのは、車体を傾ける際の軽快さだ。1520mmのホイールベースからもたらされる安定感がベースではあるのだが、軽く体重をかけるだけでスルッと車体が寝ていき、思ったよりも早く曲がっていってしまうほど。それなりに大柄な車体から想像するよりも、はるかに小さな力で操作することができる。
もう少し細かく言えば、低速域と、それなりに積極的に走った領域での挙動がとても自然。その中間の速度域で何も考えずに走ると、アクセル操作で車体が起きてこない傾向があるので、ハンドルを内側に切る必要がある場面もあったが、基本的に自然なフィーリングが一貫してある。
街乗りやツーリングを想定する走りでは、タカタカと歯切れのいい180度クランクの2気筒エンジンが必要十分なトルクを発生し、穏やかな走りを披露する。5000rpm程度までを活用するだけで交通の流れは軽々とリードでき、6速・35km/hで2000rpmあたりまで回転が落ちても、軽い振動をともないながら苦も無く再加速が可能。さすがにギクシャク感は出るが、6速・25km/hからでもなんとか再加速はできた。また、一定の速度を保ったまま走ることも苦にしない。
ワインディングロードでの無敵感が凄い!
様子が変わるのは、ワインディングロードに持ち込んでからだった。エンジンは5000~6000rpmで明確に元気がよくなり、高周波の振動をともないながら弾けるように加速していくようになる。そこから上のフィーリングは3気筒ぐらいのエンジンを思わせる伸びやかさがあり、回し切るのをためらうほど。
ここでエンジンの素性のよさに改めて気付かされることになった。穏やかで扱いやすい低~中回転域と、元気のいい高回転ゾーン。その二面性が抜群に気持ちいいのと、それらの切り替わりに極端さがなく、自然に繋がっていることがわかるのだ。ところが、試乗会場にいた開発者に聞いたところ、ニンジャ400/Z400のエンジンから基本的になにも特性は変えていないという。
ニンジャ/Zでは、そもそも車体がある程度スポーティなため、エンジンと車体をひとつのパッケージとしてとらえることが多いと思うのだが、エリミネーターSEはちょっと違っていた。
―― シャカリキな走りを求めるバイクじゃないが、操っている実感が存分に楽しめる。
まず車体は安定感がベースで、それでいて寝かし込みはかなり軽快。けっして鋭く旋回するタイプではないが、コーナリングでは大柄なライダー(筆者は身長183cm/体重80kg)でも安心して身体を預けられる懐の深さがあり、とにかく安心感をベースにしながら自由自在に走れるマシンなのだ。
そこにきて、元気のいいエンジンである。車体の安心感がベースにあるものだから、アクセル操作にためらいがいらず、積極的に操って加速を楽しめる。もちろん単純な速さでいえばニンジャ/Zには敵うべくもないが、エリミネーターSEは操っている実感、鉄馬を走らせている実感が濃厚で、しかも疲れにくい。この絶妙なバランスと解放感がとにかく気持ちいいのだ。
もう少し細かく言えば、前輪18インチのおかげでブレーキング~寝かし込みに緊張感が要らず、狙ったバンク角に収めやすい。あとは肉厚なシートに体重を預け、エンジンパワーを引き出していってやるだけ。リヤタイヤの接地感を頼りに、無心になって駆けまわることができるはずだ。
そうした走りを、非常識な速度域に持ち込まずとも味わえるのがイイのである。
開発者によれば、250cc版も検討したが400ccでリリースするのがベストと考えたとのこと。確かに、車体の安心感がベースになっている新型エリミネーターの場合、同じ車体構成のまま250ccにすると車体が勝ちすぎる傾向になって、これだけの走りの面白さや無敵感が得られるとは限らない気がする。それほどに、元気な400ccエンジンと包容力のある車体とのバランスが本当に気持ちいい。
高速道路は120km/h巡行も余裕
高速道路もでのレポートしておこう。小さなビキニカウルでも効果があるのか、風当たりはそれほど強くなく、空力のいいヘルメットやバタつかないウェアを身に着けていれば高速巡行は苦も無くこなす。
100km/h・6速でのエンジン回転数は5800rpm程度(タコメーターが500rpm刻みのためおおよその推定値)で、追い越しでも特にシフトダウンの必要は感じなかった。エンジン特性はニンジャ/Z400と同じらしいが、リヤスプロケットが41T→43Tとやや加速寄りになっているのも功を奏しているのかもしれない。
―― 特に伏せなくても風圧が強すぎるとは感じなかった。ビキニカウルのない標準モデルを試す機会がなかったのは惜しい……。
また、試乗会場からそのまま借り受け、夜間に120km/h区間も試してみたところ、エンジンにはまだまだ余裕が感じられた。シフトダウンしてブン回せば120km/hに至るまでの加速力も十分以上だ。
また、少し長距離を走って印象に残ったのは肉厚のシートのつくりだ。幅広で尻を支える形状もよく、これだけ足着きがいいのにシートの乗り心地にも妥協が感じられない。体重80kgを支えてもクッションのストロークには余裕が残っているし、SEのディンプル付き表皮のグリップ感もいい。開発者に聞いたところ、シートクッション材の中に空洞をつくることによって、股関節の骨の出っ張りにフィットして面圧を均一化しているとのこと。まだ5月ではあるが、個人的ベスト・シート・オブ・ザ・イヤーの最有力候補である。
―― 標準モデルはプレーンなシート表皮だが、SEはディンプル&ステッチ付きになっている。
クルーザーとネイキッドのいいところをブレンドしたのがエリミネーター/SEだ
ほかにも細かい長所としては、前後ブレーキのコントロールのしやすさやニーグリップしやすい燃料タンク、勇ましすぎないサウンド、3000~5000rpmの振動の少なさ、正確なABSの作動などが挙げられる。
タンデム走行やドライブレコーダーの使用感については、今回はテストをする余裕がなかったのが残念だが、これについても近々にライバル比較を交えてお届けしたい(まずは誌面から……かな)。
ビッグネームを復活させつつも、クルーザーの枠に収まらない自在感と初心者にも優しい懐の深さを持つ新型エリミネーター/SEは、素性のよさではCB400SFなどを思い起させるとともに、旧VMAX(1200)のクルージングの心地よさや、ドゥカティ・ディアベル1260のようなフレキシブルかつスポーティな走りも頭に浮かぶような、新種の400cc「クルージング・ネイキッド」と勝手に名付けたくなるような仕上がりだった。
華のあるモデルが手薄になってきていた400ccクラスにこのモデルを投入すると決断したカワサキに拍手を贈りたい。デザインが気に入ったのなら、誰が買っても後悔しないと思う。
―― KAWSAKI ELIMINATOR SE[2023 model]
KAWSAKI ELIMINATOR SE[2023 model]
―― KAWSAKI ELIMINATOR SE[2023 model]メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー
―― KAWSAKI ELIMINATOR SE[2023 model]メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー
―― KAWSAKI ELIMINATOR [2023 model]メタリックフラットスパークブラック
―― KAWSAKI ELIMINATOR [2023 model]パールロボティックホワイト
―― 車名ELIMINATORELIMINATOR SE型式8BL-EL400A←全長×全幅×全高2250×785×1100mm2250×785×1140mm軸距1520mm←最低地上高150mm←シート高735mm←キャスター/トレール30°/121mm←装備重量176kg178kgエンジン型式水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ←総排気量398cc←内径×行程70.0×51.8mm←圧縮比11.5:1←最高出力48ps/10000rpm←最大トルク3.8kg-m/8000rpm←変速機常時噛合式6段リターン←燃料タンク容量12L←WMTCモード燃費25.7km/L(クラス3-2、1名乗車時)←タイヤサイズ前130/70-18←タイヤサイズ後150/80-16←ブレーキ前φ310mmディスク+2ポットキャリパー←ブレーキ後φ240mmディスク+2ポットキャリパー←乗車定員2名←価格75万9000円85万8000円発売日2023年4月25日←
エリミネーターSEのディテール
―― 液晶表示のメーターは、500rpm刻みのバーグラフ式タコメーターとデジタル表示のスピードメーター、オド&トリップ、燃料残量計、燃費などを表示。ETCカードを挿しておかないと赤い警告灯がけっこう明るく点くのは夜間に少しドキッとする。エリミネーターSEで唯一の不満点といっていいかもしれない。
―― 399cc並列2気筒エンジンは180度クランクを採用。48ps/10000rpmの出力スペックはニンジャ400/Z400と同一で、FIのセッティング等も変えていないというから驚き。元々持っている素性のよさがエリミネーターのコンセプトにも合致したということなのだろう。写真は標準モデル。
―― フルLEDの灯火類を採用。SEはビキニカウルとフォークブーツを装備する。
―― さらにSEはドライブレコーダーも装備。
―― テールまわり。湾曲楕円のテールランプは往年のエリミネーターへのオマージュだ。写真は標準モデル。
―― SEはドライブレコーダーを装備し、後方撮影用のカメラも。電源が入っているときは常時撮影し、動画はスマホでも見ることができるという(今回は未テスト)。
―― SEが標準装備するUSBタイプC充電ソケット。
―― SEのシートはステッチ入りで表皮もディンプル付きの専用品だ。
―― フロントホイールは18インチ。シングルディスクだが不足は感じない。
―― リヤホイールは16インチ。ツインショックのに長めのスイングアームという構成。
―― 燃料タンク容量は12Lで、WMTCモード燃費25.7km/Lと掛け合わせると計算上の航続距離は308.4kmになる。写真は標準モデル。
―― ライダーシートは大きく肉厚で良好なサポート性を誇る。タンデムシートは小ぶりだが今回は未テスト。写真は標準モデル。
―― KAWSAKI ELIMINATOR SE[2023 model]
丸山浩さんのインプレ動画もご紹介!
ヤングマシンメインテスター・丸山浩さんのYOUTUBEチャンネル、モーターステーションTVでも速報インプレを制作しているのでご興味のある方はどうぞ↓
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