BMWの大型クルーザーバイク「R18クラシック」に田中誠司が試乗した。
15年ぶりの復活
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長いホイールベースに低い着座位置を組み合わせ、ハンドルをライダーの目前まで伸ばし、長距離をゆったり走れるクルーザー・セグメントにBMWが帰ってきた。
前にそのポジションを担っていた「R1200C」シリーズが最後にカタログに載っていたのは2004年のことだから、およそ15年のブランクを経たことになる。
R1200Cは1997年に登場し、映画『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』において、ピアース・ブロスナンの演じるジェームズ・ボンドがミシェール・ヨーの扮するリンを乗せ、敵のレンジローバーやヘリコプターから逃げる激しいカーチェイスを演じて話題になった。
いくつかのバリエーションを発売し、合計4万台あまりを売り上げたR1200Cシリーズだったが、8年ほどでモデルライフに終止符を打ったのは、BMWが期待した水準に販売実績が及ばなかったためだろう。
モーターサイクル・メーカーのあいだでは、多様化する顧客の嗜好に対応すべく、積極的に守備範囲を拡大するのがトレンドとなっている。クルーザー・スタイルだけでなく、クラシカルなもの、カスタマイズされたものを求める声にも応じるかたちで2020年末、BMWが送り出したのが「R18」である。
BMWモトラッド史上最大エンジン
誰の目にもすぐ飛び込んでくるR18の特徴は、左右に突き出して光り輝く巨大なふたつのシリンダーヘッドだ。
かつてR1200Cにおいては、既存のエンジンを少し拡大してトルク特性を変更する程度に留められていたが、新しいR18では、BMWモトラッド史上最大という1802ccの空冷ユニットを新規に開発。これを搭載する車体も、クルージング・バイクにおいて最大級である1725mmのロングホイールベースを採用した。ハーレーダビッドソンのトップモデルである、小山のようなツーリング系の標準が1625mmといえば、そのスケール感が理解できるだろう。
巨大な空冷エンジンを、スチール製ダブルクレードル・フレームに搭載。強い駆動力に耐えるドライブシャフトや極太のフロントフォーク、ダンパーやスプリングを見えないところに配置してリジッドマウントのように見せたリアサスペンションなど、諸々の装備を加えた結果としての車両重量は、標準仕様の「R18」をベースにウィンドスクリーンやサイドバッグなどを加えた「クラシック」で374kgにおよぶ。
こんな巨体をはたして、日本人男性の標準体型に近い自分が操れるものだろうか。わずか数日、広報車を借りるかどうかも躊躇したが、BMWの新しい挑戦はなんとしても詳しく体験してみたい。
意を決して個別取材を申し込んだのは、ディーラーに展示車両を見に行き、バイクを起こしてサイドスタンドを払う操作が難なくできることを確認できたあとだ。シート高が低くても、サイドスタンドが遠くて座ったまま足が届きにくい車種がまれにあるので、気をつけるようにしている。
主張するエンジン
スマートキー・システムを搭載するR18では、ハンドル右手に備わるメインスウィッチで電源を入れ、重めのクラッチを握りながらスターターボタンを押すのが始動の儀式となる。エンジンに火が入る瞬間、車体は反動で右に大きく揺れる。何も知らず不用意だったら転ぶんじゃないかと思うほどの衝撃だ。縦置きフラットツインならではの挙動を、あえてR18では強めに打ち出しているようだ。
900rpm前後に落ち着くアイドリングにおいて、強めに脈動する空冷ユニットは、走り出して少し回転数を高めると“シューン”と、整った反応に変わる。ハーレーのVツインや、あえて不等間隔爆発とした最近のパラレルツインのように、クラッチミートの瞬間から粘る感じではないけれども、スロットル操作に従順で扱いやすい。
もちろん、意図して右手を深くひねれば、2000~4000rpmの範囲で150Nm、最大で158Nm/3000rpmを生じるというトルクの奔流に身をさらすことになる。その強さと連動するようにバババッという爆発音が耳に届き、3000rpmから先ではハンドルとシートにはっきりと振動を伝えるようになる。
最高出力の91ps(67kW)は4750rpmで発生される設定で、その領域を超えてもトルク感が失われることはないのだが、振動は回転数に比例して大きくなる味付けだ。加速力を求められるシーンなら高めの回転まで引っ張ってもいいけれど、快適さを保ちたいなら3000rpm未満に抑えて次々とシフトアップしていくのがいい。6速・100km/h時は2300rpm程度である。
「ファーストエディション」である試乗車には、左右の足を置く板状の“フロアボード”が備わっている。ギアレバーは珍しいシーソー型で、シフトアップ時には後端を踏む方式であるが、フロアボードにつま先を着けてかかとを踏み込んでギアチェンジというのは、慣れてしまえばとても走らせやすいと思った。
素直なハンドリング
この巨躯にしてさすがBMW、ハンドリングは素直で、ライダーの意図通りにリーンして曲がっていく。とりわけリアサスペンションの動きの巧妙さは予想を上まわった。
車高が低くストローク量を確保しにくいこの手のモーターサイクルでは、リアが跳ねて乗り心地が好ましくないケースもあるが、R18の挙動は常に落ち着いており、巡航時に快適なだけでなく、日常の取りまわしでバランスを崩すようなケースも少ないのではないかと思う。
取りまわしについては、フロントフォーク角度が寝ていてタイヤもグリップレベルがそこそこ高いものを装着しているため、低速で微妙な操舵を加えるとき若干ハンドルが重いのが気になるが、筆者自身は走らせているうちに徐々に慣れていくことができた。
「ファーストエディション」で標準装備となる“リバースギア”は、この車重のバイクには装着必須であると思う。
エンジンをかけてニュートラルに入れたまま停止し、ライダーの左膝あたりに備わるレバーを引き下げると、メーター内のシフトインジケーターに“R”の文字が点灯、この状態でスターターモーターをまわすとその力を利用してバックしてくれるというものだ。日常の取りまわしに不可欠なものでもないが、ちょっと下向きの傾斜があるところに駐車しなければならないようなシーンで、脚力に頼ってバイクを後退させなくて済むのはとてもありがたい。
心地よい優越感
ひとをひとりかふたり動かすために、これほど大きなものがはたして合理的なのか? という疑問は生まれる。けれども、R18ならではの抗いがたい魅力は、たしかに存在すると筆者は考える。
バイクというのは、基本的にタンクとメーターを見ながら走らせるものだから、周囲から自分がどう見えているのか、あるいは停めて単体で眺めた姿が美しいかどうかが気になるものだ。
しかしこのR18を走らせるとき、ライダーの眼下には常に光り輝くふたつのシリンダーヘッドとインテークマニフォールドが鎮座している。走りながらこんなにエンジンを眺められる乗り物は、なかなかない。
それらの輝きの美しさと、“この巨大なものを、いま自らが操っているのだ”という優越感が一体になる体験は、R18でしか味わえないとてもユニークなものなのである。
文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)
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BMだしね、これがホンダやヤマハじゃ無いから成立するんでしょうね
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