最初にして孤高のZモデル
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)モーターショーに出展される浮世離れしたスタイルの車輛は、コンセプトモデルと呼ばれている。
【画像】日本にあった! BMW Z1【ディテール】 全30枚
その役目は開発中のテクノロジーをお披露目することや顧客の反応を見たりするためのもの。
それらはしかし、実際に販売の予定がないからこそ、デザイナーやエンジニアたちが、一切の妥協を排して腕を振るった偉大な佳作でもある。
だが80年代の後半から90年代初めの、現代の眼から見れば「狂った時代」には、夢が現実となって市販されることもあった。
BMWのモデルは大雑把に区別すれば標準モデルかMモデルかに分けられる。だがそのどちらにも含まれない稀有な1台が1987年のフランクフルトショーで発表されている。
ドアを開けたまま走ることができる風変わりなロードスターはZ1と命名されていた。
開発を手掛けたのはBMWグループ内の技術開発部門、BMWテヒニーク社。彼らはグループ内でZT(Zukunft=未来、Technik=技術の意と思われる)と呼ばれていた。
つまりZ1という車名の頭文字は彼らの社内呼称にちなんだものであり、後のZ3やZ4とはオープン2シーターという形式的なつながりしか持たない実験的なモデルだったのである。
エンジニアの理想がかたちに
BMWテヒニーク社でZ1の開発を主導したのはドクター・ウルリッヒ・ベッツだった。
彼はZ1の完成を待たずポルシェに移籍し993を開発した後、アストン マーティンを率いた。一方スタイリングは、やはりポルシェに移籍し初代ボクスターのデザインで高い評価を得たハーム・ラガーイである。
BMW Z1の説明としてよく用いられるのは、ドアを開けたままでも走行可能なこと。そして後のE36 3シリーズで本格デビューを果たすマルチリンク方式のリアサスペンションを装備していることである。
だが実際には車体の全てが未来的な技術としてZ1を形成していた。
シャシーは鋼板溶接によるバスタブ形状のモノコックで、空力的な形状のフロアは複合素材が用いられていた。モーターで垂直に上下するドアは高いサイドシルに対する解決策として設置されている。
ボディパネルは復元性の高いプラスティックとFRPという2種類の樹脂製で、容易に色替えを楽しむことができると宣伝されていた。
ロングノーズのボンネット下には325i用のSOHC直6と5速MTが収められていたが、通常の3シリーズのパワートレインと違うのはギアボックスとデフケースがトルクチューブで完全に固定されている点だった。
評価が高まる、類稀な存在
Z1のプロジェクトは1985年の初めにスタートし、ちょうど1年後にはスタイリングを含めた設計が完了していた。
1986年の中頃にZ1の存在が一般に公開されると、多くのファンが「市販されるはずがない」と思いながらも、BMWが久しぶりに放つオープン2シーターにエールを送ったのである。
Z1市販化の声は次第に高まり、1987年の8月にはついに市販化が発表されている。これこそまさに「勢いのある時代」のなせる業だと思う。
BMW Z1はほとんど手作りだったため、1日の生産は20台以下だった。それでも3年ほどの期間に8000台がラインオフされている。
Z1が日本市場に正規輸入されることはなかった。それでもアルピナがエンジンとアシをチューニングしたアルピナ・ロードスター・リミテッドエディションがニコル・オートモビルズによって正規輸入されている。
Z1の新車価格は8000DMで、これは標準的な3シリーズの倍以上の価格だったが、その特殊性ゆえ、儲けはほとんどなかったといわれている。
現在ではパーツの供給も限られており、特殊な塗装を含め維持は容易ではない。それでもZ1は高い人気を博しており、価格は高騰しはじめている。
クルマの生い立ちや内容を考えれば、これは当然のことだ。
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