タイプ35に始まるブガッティの車両開発への挑戦
ちょうど100年前の1924年に発表されたブガッティ「タイプ35」は、その優れたデザインとエンジニアリングでライバルを驚かせました。創業者エットーレ・ブガッティがこの進化し続けたモデルに懸けた情熱を紹介したいと思います。
約7億7000万円で落札されたブガッティ「シロン スーパースポーツ300+」の決め手は「走行距離408キロ」でした
史上最も成功したレーシングカー
エットーレ・ブガッティは、自らに困難な課題を課すことを躊躇しない人物だった。ブガッティの卓越したデザインスキルだけでなく、当時のエンジニアリングの常識を覆すビジョンと勇気によって、ブガッティ「タイプ35」は多くの分野でライバルを大きく引き離した。
1924年にタイプ35が発表された後も、ブガッティは厳しい道を選んだ。
ブガッティは、ヨーロッパの有名なモーター・サーキットや公道サーキットでレースを行い、勝利することで得られる宣伝効果という商業的利益を理解していた最初のひとりであった。しかし、自分の新車の性能には大きな自信を持ちながらも、タイプ35が現役時代にレースで2500勝を挙げ、史上最も成功したレーシングカーになろうとは、当時知る由もなかった。
エットーレ・ブガッティが確実に知っていたのは、ライバルたちが立ち止まっているはずがないということ、そして彼が休むわけにはいかないということだった。彼はタイプ35を開発し続け、さらなる高性能を実現しなければならなかった。
1924年、8気筒1991ccエンジンを搭載した最初のタイプ35は、レース仕様で90psを発揮した。1926年初頭には、エンジンは2262ccに拡大された。そして、「タイプ35T」のバッジが付けられたそのタルガ35Tは、イタリアで開催された偉大なタルガ・フローリオ・ロードレースで2台の小さなエンジンを搭載したタイプ35に追われながらも優勝を飾ったのだ。
この勝利にもかかわらず、エットーレ・ブガッティは、将来的にさらなる性能が求められることを知っていた。そして、その性能は自然吸気8気筒エンジンの容量を増やすだけでは引き出せないことも、心の中ではわかっていた。
「エットーレ・ブガッティが自然吸気エンジンを好んでいたことは周知の事実であり、当初は過給を好んでいたわけではなかった。過給は相対的に効率が悪いと考えていたからだ」
とブガッティのヘリテージ・認証スペシャリスト、ルイジ・ガッリは説明する。
独自のルーツ式スーパーチャージャーを開発
「しかし、あまり知られていないかもしれないが、自然吸気エンジンを好んでいたにもかかわらず、ブガッティは未来に目を向け、強制吸気にも取り組んでいた。タイプ35が1924年にリヨンのレースでデビューする以前から、スーパーチャージャーを使った強制吸気エンジンに目を向けていた」
「実際、ブガッティはフランスの特許番号576.182を申請していた。この特許は、キャブレターに加圧空気を送り込むことで、ドライバーの操作に応じてオンデマンドで出力を増加させることができるロータリーベーン・デザインに関するものであった。ブガッティがスーパーチャージャーを使うのであれば、自分のやり方でやるということだ」
その結果、エットーレ・ブガッティは著名なイタリア人エンジニア、エドモンド・モグリアとともに独自のルーツ式スーパーチャージャーを開発したが、当時一般的だった2ローターではなく、3ローター構成を選択した。
スーパーチャージャーはエンジンのオフサイドに取り付けられた。圧力リリーフバルブはマニホールドの上に取り付けられ、ボンネットに開けられた穴から余分な過給圧を排出した。
さらに革新的だったのは、エンジンのエキゾースト・インレット・マニホールドをエンジンの冷却水によって加熱させたことだ。これは、エンジン自体の冷却能力を高めると同時に、より速く暖まり効率を高めることを意味し、今日でもエンジン構造に採用されている原理である。
2バルブ・エンジンの究極の仕様
1926年後半に登場した「タイプ35TC」はタルガ・コンプレッサーの名を冠し、1927年には「タイプ35B」へと進化した。ラジエターとカウリングを大型化して冷却性能を高めた「ミラマス」仕様で知られるこのエンジンは、最高出力130psを発生し、最高時速205km/hを超えた。
その後、さらに開発が進められ、1930年後半には、タイプ35Bはツインカム、2バルブ・エンジンの究極の仕様とされるまでに進化した。さらに、ツインフューエル・フィラーキャップ、アップグレードされたサスペンション、ホイール、ブレーキ、タイヤ、下方にマウントされるスーパーチャージャーのリリーフバルブなどが採用された。ブガッティは、究極のパフォーマンスを追求するために細部に至るまで妥協を許さず、ピストンやシリンダーヘッドの造形、さらには140psの出力を実現するためのエアログレードの燃料の使用など、エンジンの燃焼システムのあらゆる要素を微調整した。
今日、モルスハイムにあるブガッティ・アトリエでは、エットーレがタイプ35の細部に施したのと同じ精度で、すべてのブガッティ・モデルが手作業で組み立てられている。1世紀を経た今も、ブガッティのデザイナーとエンジニアは、世界最高の自動車を開発するために、並々ならぬ努力を続けている。
AMWノミカタ
ベントレーの創始者W.O.ベントレーが初の3Lモデルを発表した際に、エットーレ・ブガッティはこのクルマを「世界一速いトラック」と評したという逸話がある。たしかに同世代のベントレーと見比べると、タイプ35ははるかにコンパクトで軽く、いかにも高性能なクルマに見える。
しかしこの言葉の裏にはアルミニウムピストン、4つのバルブを駆動するオーバーヘッドカムシャフト、ツインスパークプラグ、デュアルキャブレターなど最新の技術を採用したベントレーに対するいささかの嫉妬心もあったのではないだろうか。こんなところにも「ル・パトロン(親方)」としての技術者魂を垣間見ることができる。
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