ホンダ『アクティトラック』が2021年6月に生産終了する。アクティが生産終了すると、独自モデルを残すのはスズキ『キャリイ』、ダイハツ『ハイゼットトラック』のみとなってしまう。
なぜ日本の軽トラックはどんどん消滅していくのか? 採算性が悪いからなのか? それともほかの理由があるのか?
経営危機の三菱 難しいのは承知で……超名門「ランエボ」復活の可能性はあるか?
また将来的に電動化の必要性が出てきているが、軽トラックは電動化することで、本来の機能を維持することができるのか? 考察していきたい。
※2020年の台数は、コロナ禍の影響を受けて例年に比べると大幅に下がっているため、記事中の年別の販売台数は、主に2019年のデータを使用しています。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部
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■なぜアクティは消滅してしまうのか!? 軽トラック衰退の現状
日本の物流に欠かせない車両が軽トラックだ。2020年にはコロナ禍の影響を受けながら、78万台の商用車が販売された。このうちの約39万台が軽商用車だ。見方を変えると、大型まで含めた商用車全体の約50%を軽商用車が占める。乗用車における軽自動車比率は35%だから、商用車のほうが普及率は高い。
そして、軽商用車全体の45%を軽トラックが占めている。ワンボックスバン、アルトバンなどのボンネットバンに比べると、軽トラックは売れ行きが好調だ。目立つ存在ではないが、日本の物流を着実に支えている。
その大切なラインナップとされるホンダ『アクティトラック』が、2021年6月に生産を終了する。現状ですべてのグレードを注文できるのか、後継車種も含めてホンダの販売店に尋ねた。
1963年から続いたホンダ軽トラの歴史最後の『アクティトラック』。エンジンがミッドシップレイアウトのため、「農道のフェラーリ」と呼ばれていた
「アクティトラックは2021年6月に生産終えると案内されていますが、実際には現時点(2021年1月中旬時点)で、購入可能なグレードが絞られています。特別仕様車などはすでに廃止され、購入できないグレードもあります。次期アクティや後継車種が登場する可能性は乏しく、ホンダの軽トラックは現行型で最後になります」
なぜ軽トラックを終了するのか。
「理由はふたつあります。まず販売台数が少ないからです。軽トラックはスズキやダイハツが売れ筋で、アクティトラックは下がりました。ふたつ目の理由は、今後の規格変更や規制強化への対応が難しいことです」
「例えば、アクティトラックは横滑り防止装置が非設定ですが、今後は装着しなければなりません。環境性能や燃費も向上させる必要があります。それなのにアクティトラックは売れ行きが伸び悩むため、膨大な開発コストを費やせません」
前述のコメントを補足すると、軽トラックは商用車の中心的な存在ながら、届け出台数は以前に比べて大幅に減った。コロナ禍の影響を受ける前の2019年の時点で、軽トラックの届け出台数は約18万3000台だ。2000年は約27万7000台だったから、約20年間で軽トラックの需要は34%失われた。
乗用車を含めた軽自動車全体の届け出台数は、2000年は187万5000台、2019年は191万台だ。過去約20年間で、わずか2%だが増加した。これに比べると軽トラックは、大口ユーザーとなる農業就業人口の減少(2000年は389万人/2019年は168万人)もあり、届け出台数を大幅に減らした。
特にアクティトラックは、2000年には先代型が約3万2000台売られたが、2019年は約1万5000台だ。2020年はコロナ禍の影響を受けながらも、生産終了の知らせを受けて約1万8000台に増えたが、約20年と比べれば半減している。
そして販売店のコメントにあったとおり、軽トラックはダイハツとスズキが強い。2019年の届け出台数は、ダイハツ『ハイゼットトラック』が約8万台、スズキ『キャリイ』が約6万台だから、約1万5000台のアクティトラックに比べて圧倒的に多い。
2020年で発売60周年を迎えたダイハツ『ハイゼット』。歴史をさかのぼるとその源流にはオート三輪の『ミゼット』がある
スズキ『キャリイ』は5速MTをベースにしたオートマ、こだわりの変速機「AGS」を備えキビキビした走りと低燃費を実現
しかもダイハツとスズキの軽トラックは、ホンダと違ってOEM車として他メーカーにも供給されている。ダイハツ『ハイゼットトラック』は、スバル『サンバートラック』、トヨタ『ピクシストラック』として合計3社で扱われ、OEM車を含めた2019年の販売総数は約9万1000台であった。
同様にスズキ『キャリイ』も、日産『NT100クリッパー』、マツダ『スクラムトラック』、三菱『ミニキャブトラック』として合計4メーカーで販売され、2019年の総数は約7万7000台だ。
アクティで価格の最も安いグレードはSTD(5速MT)の83万6000円、ハイゼットトラックはスタンダード/エアコン・パワステレス仕様(5速MT)の69万3000円、キャリイはKC(5速MT)の73万5900円になる。この価格でも、義務付けられている4輪ABSや運転席エアバッグなどは標準装着するから、軽自動車メーカーの商品企画担当者は「軽トラックはほとんど儲かりません」という。
■OEMなくしては成り立たず! 軽トラックが抱える構造的問題
つまり軽トラックは、薄利多売の軽自動車の中でも、特に1台当たりの粗利が限られて大量に生産する必要がある。他メーカーに供給するOEM車があって、初めて成り立つ商品でもあるわけだ。
そうなるとアクティは辛い。今のホンダはOEM関係を結ばず、アクティトラックの年間生産台数は前述の2万台以下だ。ハイゼットトラックやキャリイがOEM車を含めて8~9万台を製造するのに比べると、量産効果は低い。今後安全装備や環境性能における義務化が増えると、採算が取れなくなることも考えられる。そこで生産終了の判断を下した。
過去を振り返ると、以前はスバル/マツダ/三菱も自社で軽自動車を製造しており、軽トラックも含まれていた。これらのメーカーも採算が合わず、軽自動車製造から撤退した経緯がある。
2011年に発売された、サンバー発売50周年記念特別仕様車「WRブルー リミテッド」のスバル サンバートラック。リアエンジンで「農道のポルシェ」とまで言われた
しかし販売も終了すると、車検、修理、保険といった仕事まで失ってしまう。また三菱が『ミニキャブ』の販売を終えたことで、その顧客がスズキ『キャリイ』を購入したとする。そうなると営業車として使っていた三菱『ミラージュ』まで、スズキの『スイフト』に切り替わる心配が生じる。販売店の仕事をなるべく減らさず、顧客を繋ぎ止めるために、OEM車を導入するわけだ。
いずれにしろ軽自動車の全体需要が増える中で、軽トラックは農業就業人口の減少もあって売れ行きを下げた。薄利多売の商品で、今後は開発費用が増えることも予想される。そこで各メーカーとも、軽トラックをOEM車に変更した。日産と三菱は、軽乗用車は共同開発して製造も行うが、軽トラックはスズキ製OEM車を導入する。
それなのにホンダは、アクティトラックの生産を終えて、ユーザーを逃す心配もあるがOEM車は導入しない見とおしだ。軽トラックを手がけるのは、ダイハツ、スズキ、OEM車の供給を受けるメーカーのみになる。
■今後さらに危機的状況に!? ユーザーを圧迫することになる電動化
それでも農業や水産業を営む上で、軽トラックは不可欠だ。届け出台数が減ったとはいえ、今でも1年間に18万台の需要に支えられている。ダイハツ『ハイゼットトラック』、スズキ『キャリイ』、そのOEM車という品ぞろえは、もはやこれ以上は減らせない。
今後のクルマはハイブリッドを含めた電動化を迫られるが、軽トラックの場合、価格が高まるとユーザーの利益を圧迫する。仕事に不可欠の商品でもあるから、配慮が必要だ。
また軽トラックは、主に地域内の移動に使われ、フォークリフトのような用途もあるから走行距離は短い。日本自動車工業会のデータによると、1カ月に300km(1年間に3600km)以内の使われ方が多い。燃費規制によって縛るメリットの乏しいカテゴリーでもあるだろう。 そして、仕事上不可欠のライフラインでもあるから、ユーザーを困らせない配慮をして欲しい。電動化が最も負担になるのが軽トラックだ。
そして、仕事上不可欠のライフラインでもあるから、ユーザーを困らせない配慮をして欲しい。電動化が最も負担になるのが軽トラックだ。
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みんなのコメント
駐車場なんかタイヤの跡が付く
これじゃぁ負けて当たり前。
ホンダが競争に負けて社会的責任を放棄して撤退するだけじゃないですか。