現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ニュルで触れたポルシェのドライビング哲学【清水和夫のポルシェに乗らずに死ねるか】

ここから本文です

ニュルで触れたポルシェのドライビング哲学【清水和夫のポルシェに乗らずに死ねるか】

掲載 更新 12
ニュルで触れたポルシェのドライビング哲学【清水和夫のポルシェに乗らずに死ねるか】

ポルシェならではのドラテクを学ぶ

今回はポルシェのクルマ作りの意外な考えに遭遇したネタから話しを進めることにする。

ニュルで触れたポルシェのドライビング哲学【清水和夫のポルシェに乗らずに死ねるか】

18歳でクルマに乗り始めたころ、大学で知り合った友人からラリーやレースを見に行こうと誘われ、山路やサーキットに通うようになった。自分も速く走りたくなり、その時から猛特訓が始まった。峠を走ると、友人からシフトダウンがぎこちないと言われた。友人のお兄さんはラリーを走っていたので、もっとスムーズにシフトダウンしているとのこと。そのときに「ヒール&トゥ」というテクニックの存在を知った。今から45年も前のことだ。

若かりし頃、ヒール&トゥ習得に没頭

ふと足元を見ると、自分の足が二本しかないのに、ペダルが3つもあって困った。どうやってシフトダウンするのか? 本に書かれているヒール&トゥからマスターすることになった。山手通りから246号線に合流する誘導路があり、上り左ヘアピンで練習した。3速ギヤで進入し、ブレーキとアクセルを同時に踏むテクニックだ。

その数十年後に分かったことだが、ヒール&トゥというテクニックを日本に伝道したのは、あの生沢 徹さんだった。戦後日本のレースドライバーの一期生は生沢 徹さんや式場壮吉さんたち。千葉県の船橋にあったサーキットでデビューし、その後、鈴鹿サーキットで開催された日本グランプリに出場している。

なにを行うにしても几帳面な生沢さんは、英国のジム・ラッセル・レーシングスクールに留学し、レーステクニックの基礎を学んだ。その時にヒール&トゥというテクニックをマスターし、日本に伝道したと言われている。まるでキリスト教を長崎から伝えたポルトガル人のフランシスコ・ザビエルに似ているではないか。私はそのテクニックを徹底的にマスターすることに没頭した。時にはペダルの形状も工夫して改造した。

ポルシェのテストドライバーからアドバイスを受ける

そして1980年代後半、某タイヤメーカーのテストでポルシェ930ターボをドライブすることになった。場所はニュルブルクリンク。4速MTの930ターボに備わるペダルは、足の小さい私ではヒール&トゥが届かなかった。そこで私は、ニュルブルクリンクのガレージで日本から持ち込んだカマボコの板をアクセルペダルに取り付けて走ろうとした。しかし、それを見たポルシェのテストドライバーはこう言ったのである。

ポルシェ「君は何をしているの?」
シミズ「ヒール&トゥでペダルに届かないから工夫してます」
ポルシェ「ポルシェはレースカーではないから、ヒール&トゥは公道では勧めていません」
シミズ「では、どうやって高速でギヤダウンするのですか?」
ポルシェ「コーナーの出口でギヤチェンジしたら、クラッチをそっと繋いでください」

ニュルブルクリンクのテストはあくまでもロードカーのテストなので、レーステクニックを使ってテストしてはいけないということなのだ。含蓄あるポルシェの考えだと感心した。しかも、クラッチを使ってショックを和らげるとは驚いた。ポルシェはそもそもそのようにクラッチを設計しているのである。この時のエピソードから、ポルシェのニュルブルクリンクテストは速さの証明ではなく、ハイスピードで走るポルシェユーザーの安全性を主眼にしているということがわかったのである。

GT3は例外。ヒール&トゥはサーキットで必要

その後、幸運にも初代911 GT3(996型)をニュルブルクリンクでドライブしたことがあった。996型は911シリーズ初の水冷エンジンで、GT3というホットバージョンが初めてデビューした。確か1999年5月のル・マン24時間レースにGTクラスで参加し、そのスピードを証明しようとしたが、レースではダッジ バイパーに負けてしまうものの、ドイツのニュルブルクリンクでラップタイムに挑戦した。それまでの量産車のコースレコードは、非公式ではあるがニッサンR33 GT-Rの7分59秒(私がドライブ)。しかし、ヴァルター・ロール氏が乗るGT3はこれを打ち破る7分56秒を達成した。

当時、ニュルブルクリンクで8分を切るモデルはとてつもない速さのスポーツカーだと認められたが、速く走るためには2つの技術的なアプローチが存在する。力で空気の壁を突き進むか、あるいは華麗なハンドリングでコーナーを素早くクリアするか。ニュルブルクリンクの前半10kmのパートはかなりの下り坂で、エンジンパワーよりも高速の安定性と操縦性がバランスしてなければならない。

後半は登りが続くワインディング。パワー(トルク)とハンドリングが勝負だ。実際にニュルブルクリンクをニッサン GT-Rで攻めた時の印象は、まるで格闘技のような感覚だった。コーナーの立ち上がりは速いが、コーナリング中はクルマを曲げることに集中する。いや、ねじ伏せるようにコーナーを攻めるのだ。

同じような速さでも、GT-Rの8分とGT3の8分は別世界

しかしGT3は違った。ニュルブルクリンクをまるでアイススケートのフィギュアのように華麗に舞う。ドライバーは繊細な感覚が必要で、GT-Rよりもはるかにステアリングがシャープだから、格闘技的なドライビングは通用しない。ステアリングはまるでインフォメーションの集積回路のように、タイヤと路面の接地感(グリップ感)を知らせてくれる。ドライバーにとって速く走るために必要な情報が手のひらで十分に感じ取ることができる。

ニュルブルクリンクの後半10kmは、深い森の中の高速ワインディングを平均速度160km/hくらいで駆け抜けるが、GT3のステアリングは終始正確である。しかしリヤエンジン特有のリヤの動きに敏感になる必要がある。それができると、GT3は完璧なハンドリングを味わえるのだ。

もっとも注意するコーナーは2ヵ所あるジャンピングポイントだ。着地する瞬間はクルマの横Gを抜く必要がある。空中で姿勢は変えることができないので、ジャンプする直前のアプローチがポイントだ。しかし、さすがのポルシェもGT3を速く走らせるには、ヒール&トゥが必要だということは認めていた。もうカマボコの板は不要になった。

ところで、ポルシェの連載は今回で終わりとなるが、次回からは昔の『GENROQ』(月間自動車雑誌)で連載していた「清水和夫のおしゃべり工房」をこのゲンロクWEBで復活させる。乞うご期待!

TEXT/清水和夫(Kazuo SHIMIZU)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

[BEV]計画着々と進行中!? トヨタが福岡県に[BEV]電池工場を新設
[BEV]計画着々と進行中!? トヨタが福岡県に[BEV]電池工場を新設
ベストカーWeb
アストンマーティン・ヴァルキリーのデビュー戦とふたりのドライバーが決定。IMSAはデイトナを欠場へ
アストンマーティン・ヴァルキリーのデビュー戦とふたりのドライバーが決定。IMSAはデイトナを欠場へ
AUTOSPORT web
モリゾウがトヨタを激励。豊田スタジアム新コースでの“人力パワー”に観客から拍手/WRC写真日記
モリゾウがトヨタを激励。豊田スタジアム新コースでの“人力パワー”に観客から拍手/WRC写真日記
AUTOSPORT web
「エニカ(Anyca)」サービス終了…カーシェアはどこへ向かうのか?
「エニカ(Anyca)」サービス終了…カーシェアはどこへ向かうのか?
ベストカーWeb
オジエが豊田スタジアムステージの苦手意識を明かす「僕たちはいつも遅い」/ラリージャパン デイ1コメント
オジエが豊田スタジアムステージの苦手意識を明かす「僕たちはいつも遅い」/ラリージャパン デイ1コメント
AUTOSPORT web
オヤジむせび泣き案件!! ホンダの[デートカー]が帰ってくるぞ!! 新型[プレリュード]は究極のハイブリッドスポーツだ!!!!!!!!!
オヤジむせび泣き案件!! ホンダの[デートカー]が帰ってくるぞ!! 新型[プレリュード]は究極のハイブリッドスポーツだ!!!!!!!!!
ベストカーWeb
ラリージャパン2024が開幕。勝田貴元が新レイアウトのスタジアムステージで3番手発進/WRC日本
ラリージャパン2024が開幕。勝田貴元が新レイアウトのスタジアムステージで3番手発進/WRC日本
AUTOSPORT web
N-VANより安い200万円以下!? スズキ新型[エブリイ]は配達業を助ける!! 航続距離200kmのBEVに生まれ変わる
N-VANより安い200万円以下!? スズキ新型[エブリイ]は配達業を助ける!! 航続距離200kmのBEVに生まれ変わる
ベストカーWeb
実録・BYDの新型EV「シール」で1000キロ走破チャレンジ…RWDの走行距離はカタログ値の87.9%という好成績を達成しました!
実録・BYDの新型EV「シール」で1000キロ走破チャレンジ…RWDの走行距離はカタログ値の87.9%という好成績を達成しました!
Auto Messe Web
8年目の小さな「成功作」 アウディQ2へ試乗 ブランドらしい実力派 落ち着いた操縦性
8年目の小さな「成功作」 アウディQ2へ試乗 ブランドらしい実力派 落ち着いた操縦性
AUTOCAR JAPAN
RSCフルタイム引退のウインターボトム、2025年は古巣に復帰しウォーターズの耐久ペアに就任
RSCフルタイム引退のウインターボトム、2025年は古巣に復帰しウォーターズの耐久ペアに就任
AUTOSPORT web
ハコスカ!? マッスルカー!?「ちがいます」 “55歳”ミツオカ渾身の1台「M55」ついに発売 「SUVではないものを」
ハコスカ!? マッスルカー!?「ちがいます」 “55歳”ミツオカ渾身の1台「M55」ついに発売 「SUVではないものを」
乗りものニュース
スズキ、軽量アドベンチャー『Vストローム250SX』のカラーラインアップを変更。赤黄黒の3色展開に
スズキ、軽量アドベンチャー『Vストローム250SX』のカラーラインアップを変更。赤黄黒の3色展開に
AUTOSPORT web
元ハースのグロージャン、旧知の小松代表の仕事ぶりを支持「チームから最高の力を引き出した。誇りに思う」
元ハースのグロージャン、旧知の小松代表の仕事ぶりを支持「チームから最高の力を引き出した。誇りに思う」
AUTOSPORT web
本体35万円! ホンダの「“超”コンパクトスポーツカー」がスゴい! 全長3.4m×「600キロ切り」軽量ボディ! 画期的素材でめちゃ楽しそうな「現存1台」車とは
本体35万円! ホンダの「“超”コンパクトスポーツカー」がスゴい! 全長3.4m×「600キロ切り」軽量ボディ! 画期的素材でめちゃ楽しそうな「現存1台」車とは
くるまのニュース
リアウィンドウがない! ジャガー、新型EVの予告画像を初公開 12月2日正式発表予定
リアウィンドウがない! ジャガー、新型EVの予告画像を初公開 12月2日正式発表予定
AUTOCAR JAPAN
最近よく聞く「LFP」と「NMC」は全部同じ? EV用バッテリーの作り方、性能の違い
最近よく聞く「LFP」と「NMC」は全部同じ? EV用バッテリーの作り方、性能の違い
AUTOCAR JAPAN
アロンソのペナルティポイントはグリッド上で最多の8点。2025年序盤戦まで出場停止の回避が求められる
アロンソのペナルティポイントはグリッド上で最多の8点。2025年序盤戦まで出場停止の回避が求められる
AUTOSPORT web

みんなのコメント

12件
  • 清水さんのインプレを見ているとドイツ車を褒め過ぎ?と思ってましたが、こう言った経験から良い車とは何か?を実践で判断してるんですね。
    ポルシェに乗らずに死ねるか?無理してでも乗りたくなりました。
  • 初代NSXを2万キロオイル交換しなかったという清水和夫さん
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村