レストアを終え国立自動車博物館で展示
1974年の時点で、ブガッティ・タイプ57 アタランテはオーバーホールが必要な状態にあった。作業を請け負ったのは、英国のアンティーク・オートモービルズ社。ルーフはオリジナルに近い状態へ戻され、ボディはブラックとレッドに塗られた。
【画像】ブガッティ・タイプ57 アタランテとS 同時期のタイプ59 シロンとディーヴォも 全116枚
当時のオーナー、モーリス・タイセレンク氏はフランス北部のドーヴィルブで開かれたガッティ100など、複数のクラシックカー・イベントへ参加。10年ほどオーナーとしてアタランテを嗜んだ。
1988年5月にオークションへ掛けられ、フランス・カンヌに住むカーコレクター、ベルナール・メリアン氏が落札。ブガッティの歴史を研究するピエール・イヴ・ロージェ氏の協力を得ながら、先述のような歴史が明らかになった。
リアアクスルには315の刻印があり、ロージェはシャシー番号との関連を調べることができたという。調査では、初代オーナーのオリベロへも連絡を取り、サンルーフの構造を確認できる写真も入手している。
直列8気筒エンジンは、フランスのMパリエ社がリビルド。シャシーとドライブトレイン、電気系統は、クロード・アフシェン社によってオーバーホールされた。作業は1992年に完了し、フランスの国立自動車博物館で展示された。
2001年、ドイツ・ニュルブルクリンクでのオークションに出品され、オランダの起業家、ビクター・ミュラー氏が落札。ペブルビーチやグッドウッド、ヴィラデステといった、名だたるコンクールデレガンスで美しいボディがお披露目されている。
否応なしに人々の注目を集める優雅なボディ
現在のオーナー、キース・ヤンセン氏が購入したのは2003年。オランダ中部のパレ・ヘット・ローで開かれたクラシックカー・イベントだった。
ヤンセンは、ブガッティ・タイプ57のようなモデル以外での参加が難しい、特別な自動車イベントを好むマニア。地元の専門ガレージで、従来から抱えていたエンジンの始動性に関する問題は直されている。点火系が原因だったようだ。
その整備時に、オリジナルとは異なるタイプ57SC用のエグゾーストも追加されている。仕上がりは極めて美しい。
筆者がパリの静かな夜道をアタランテで流すと、否応なしに人々の注目を集めてしまう。巨大なマーシャル社製のアエロラックス・ヘッドランプの光を感じなくても、サウンドが興味を呼ぶらしい。妖艶な後ろ姿にも見惚れているようだ。
ニッケルメッキされたフロントアクスルが、街路灯に照らされる。勇ましいエンジンとは対照的に、小さな部品までが宝石のようで、見る人の心を奪う。ブガッティならではの世界観といっていい。
視覚的には、エンジンオイルの焼けた匂いを想像できないほど優雅。キャブレターは、磨き込まれた吸気マニフォールドで隠されている。
ボディサイドには、ドアヒンジが繊細に露出する。巨大な荷室は、スペアタイヤが占拠する。運転席側ドアの後部に、小さな荷室が用意されている。工具専用の収納もある。アール・デコ調の装飾が施されたドアパネルには、地図用の大きなポケットが付く。
80年前の精鋭は今も輝きを失わない
運転席へ座ると、居心地は素晴らしい。ダッシュボードに並ぶクリーム色のメーターは、バックライトで優しく照らされる。巨大な4スポーク・ステアリングホイールの右側には、細い棒が突き出ている。アイドリングと点火スピードの調整用だ。
パイプでフレームが組まれたシートはスライドしない。身長が180cm以上あるドライバーは、好ましい姿勢が取りにくい。過去のオーナー、ミュラーは190cm近くあったから、短期間で手放した理由にもうなずける。
幸い、筆者はそこまで身長が高くない。足をたたみながら座れば、快適なポジションにつける。肌寒いパリの夜だから、サンルーフは閉じていても良かった。だが、動きを読みにくいサイクリストを確認するのに、好都合な後方視界を得られる。
冷えた状態からの始動時は、点火タイミングを早めてチョークを開く必要がある。キーをひねると、直列8気筒エンジンが即座に燃焼を始める。数分間暖気を済ませ、点火とチョークを戻す。
温まったエンジンは、想像以上に滑らかで静か。トルクが太く粘り強く、扱いやすい。エグゾーストからは、ザラザラとドライなノイズが放たれる。スムーズな回転上昇は、歴代のオーナーを魅了したに違いない。80年前の精鋭は、今でも輝きを失わない。
1930年代の量産モデルの多くは、タイプ57の性能の半分にも届かなかった。3.3Lのエンジンは、142psを4800rpmで発揮する。2速で83km/h、3速で123km/hまで届き、最高速度は152km/hに達した。
戦前はフェラーリ以上の訴求力や神秘性
発進させてみると、4速MTは1速でメカノイズがうるさい。クラッチペダルは、現代のモデルと同じくらいの重さ。ダブルクラッチを踏めば、3速から2速へのシフトダウンも容易だ。
90年近く前のクラシックだから、常に余裕を持たせた運転が欠かせない。当時としては先進的な油圧ブレーキが搭載されているが、制動力が強いとはいえない。まっすぐ減速もしない。
とはいえ、洗練はされている。ボディは異音ひとつ立てず、ステアリングホイールは直感的で正確。切り込んでいくと重さが増し、小回りも効く。
パリの大通りを流せば、優越感が湧いてくる。色っぽい峰のフロントフェンダーが、石畳で優しく揺れる。ヘッドライトは黄色く灯り、ブガッティの接近を周囲へ知らせる。
エットーレ・ブガッティ氏による芸術と技術の融合が、絶妙な緊張感を生んでいる。移動手段であることを超越した、孤高のプロダクトだ。自動車史初といえるエキゾチックなクルマを、親子2人で誕生させたと表現しても過言ではないだろう。
自動車を運転することに対しても、真摯に向き合っている。スピードやハンドリングを高次元で求めた裕福な人々へ応える、至高の完成度にあった。近年の価値は、もはや天文学的な数字に達している。
戦前のブガッティは、現在のフェラーリに匹敵する訴求力や神秘性を誇っていたと表現しても、恐らく説明は足りていないだろう。タイプ57 アタランテが、現在まで多くの愛好家を魅了してきたという事実が、その一部を物語っている。
協力:アートキュリアル社
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