発売開始されたばかりのメルセデス・ベンツの新型「CLEクーペ」に、ひと足はやくクローズドコースで試乗した。今尾直樹がリポートする。
Eクラスクーペの後継としての要素
新型メルセデス・ベンツCLEクーペ、日本上陸!──GQ新着カー
かなりスポーティなスポーツクーペ。それも予想以上に。というのが、新型CLEクーペをチョイ乗りしての印象である。
試乗車はナンバー取得前のCLE200クーペ スポーツという日本仕様で、いまのところ、日本仕様はこちらの一択、だけどリヤアクスルステアリング(後輪操舵)が含まれるドライバーズパッケージ(54万円)、より高品質の本革になるレザーエクスクルーシブパッケージ(90万円)等のオプションがあり、試乗した個体にはパノラミックスライディングルーフも含めてフル装備されている。
2月下旬、千葉県富津市のゴルフ場で開かれた新型Eクラスの試乗会の際、撮影用に持ち込まれていたこのCLE200スポーツ クーペに、ゴルフ場の敷地内でほんのチョロっと運転した。敷地内は制限速度30km/hゆえ、ほんのチョロっと運転した、というのが正しい表現である。
その範囲で申し上げると、新型CLEの乗り心地は意外なほど硬めで、ステアリングもペダルも重めの設定だった。まるでメルセデスAMGの高性能GTスポーツカー。と、表現しても間違っていないほどに。見た目はエレガント系に思えたけれど、もうちょっと丁寧に観察していれば、あるいは資料をちゃんと読み込んでいれば、予想できた……かもしれない。
と、思ったけれど、200という車名の数字からして、同じ日に乗った「E200」とおなじだから、やっぱりエレガント系クーペだろう。と想像したのも、あながち無理からぬところがある。と、自己弁護。
あらためて紹介すると、CLEは昨年夏に本国で発表された、これまでのCとE、両クラスのクーペを統合して誕生したメルセデスの新しいミッドサイズ2ドアクーペである。基本的にはCクラスのシャシーをベースにしており、2865mmのホイールベースもCクラスと同じだ。ただし、ボディ外板はほとんど共通するところがない。フロントノーズは逆スラントの、いわゆるシャークノーズに仕立てられ、Aピラーはより寝ており、ルーフはスキーの滑降コースのように降って典雅なファストバックのラインを描く。
インテリア、とりわけダッシュボードはCクラスゆずりで、見慣れた感がある。最近のAMGの象徴ともいえる真っ赤なレザー内装は、オプションのレザーエクスクルーシブパッケージだからだけれど、たいへん映える感じがしてステキだ。
Eクラスクーペの後継としての要素はどこにあるのか? というと、パワートレインである。本国では4気筒から6気筒まで、ディーゼルを含めて各種あるものの、日本仕様は前述したように、2.0リッター直4ガソリン・ターボ(ISG搭載)のみ。でもって、200というと、C200にもあるけれど、C200の直4は1.5リッターである。CLE200はCクラスのアーキテクチャーにEクラス用の2.0リッターを搭載しているのだ。
どちらもマイルドハイブリッドのISGを備えているわけだけれど、C200の1494ccターボは最高出力204ps/5800~6100rpmで、最大トルクは300Nm/1800~4000rpm。ターボとはいえ1.5リッターでこの数値はスゴイ。E200用は1997ccターボで、204ps/5800rpmと 320Nm/1600~4000rpmで、最高出力はなんとおなじなのだ。ここに1.5リッターだけど200を名乗る理由がある。注目すべきは、2.0リッター版は最大トルクが20Nm分厚くなっていて、しかも200rpm低い回転数で発生することだ。503ccの排気量の違いがこのトルクの余裕につながっている。
まるでポルシェみたい!CLEは車重が重い。ということはある。チョイ乗りしたCLE200の車両重量は1800kgもある。これはC200の、後輪操舵まで装備した場合のいちばん重いモデルの1730kgより70kg重い。オプションのダイナミックボディコントロール(可変ダンピング)やリヤアクスルステアリングにくわえて、20インチのタイヤ&ホイールを装着していることもある。C200のホイールは2インチ小さい18インチにとどまっているから、これだけでもかなり違う。
乗り心地がハードに感じたのは、20インチで、前245/35、後ろ275/30なんぞというスーパーカー顔負けの、うっすいゴムをつけているのだから当然ともいえる。おまけに速度が30km/h程度である。これではいかに可変ダンピングを装備していようと、想定外の速度にちがいない。若干ハーシュネス、上下方向の突き上げがあるのも当然だ。
同時に印象的なのはボディ剛性の高さである。その直前、開口部のたくさんあるE200ステーションワゴンに乗っていたから、なおさらそう感じたのかもしれない。E200ステーションワゴンのボディ剛性が低いわけではない。ワゴンとしては抜群に高い。だけど、それ以上にCLE200はガチっとしている。まるでポルシェみたい。というのがメルセデスのクーペに相応しい表現かどうかは別にして、ものすごくしっかりしている。ホイールベースが短くて、開口部がドア2枚しかない。リヤは独立したトランクになっていて、ハッチバックがないこともボディ剛性には好適だ。
シートはCLE専用デザインで、ヘッドレストまでほぼ一体型になっている。座っての確認はサボったけれど、後席は大人2人が乗れる広さを持っている(らしい)。前席バックレストを倒すためのロック解除用としてナッパレザーのストラップが採用されている(らしい)。これがプレミアムクーペにふさわしいエレガントな操作感を生んでいる(らしい)。今度、機会があったら確認したい。
エンジン、トランスミッション、サスペンション、ステアリングまで統合制御するダイナミック・セレクト、いわゆるドライブモードをコンフォートからスポーツに切り替えると、コンフォートでもファームな乗り心地はさほど変化が感じられなかったものの、9ATがギアを落としてエンジン回転を上げ、スポーティなサウンドを発する。
こんなにスポーティな必要があるのか? メルセデスがそうしているのだから、必要がある、ということなのでしょう。国内のこれまでのメルセデスのクーペの販売状況は、発売当初は売れるものの、一定数ゆきわたると、それでおしまいになるという。スポーツカーとおなじで、マーケットが限られている。しかも、4ドアクーペだとかSUVクーペなんてのまで最近は定着してきているから、従来型の2ドアクーペのマーケットは縮小傾向にあると考えざるを得ない。そうすると、差別化のために、2ドアクーペというボディ形状の得意の分野である運動性能を磨くことになる。つくり手もスポーツカーは大好きだろうから、勢いスポーツカーっぽくなる。ユーザーもそういうスポーツカーっぽさを期待する。みたいな部分があるのかもしれない。
かつてはスペシャリティカーだとかデートカーだとか、2ドアクーペという形態は日本でも大人気だったのに近頃はさっぱりである。このままだとなくなる……という心配を、自動車ファンの編集部のIくんはしている。なるほど2ドアクーペというのは不便である。なんだって、こんな不便なものを昔のひとはありがたがっていたのか? と、世間の人は思っているのかもしれない。
だけど、自動車というのは公共のものではなくて、個人のモビリティの道具であり、自己表現なんだ、という意識が社会の一部にでも残っている限り、クーペは大丈夫だろう。2ドアクーペがなくなるとき。それは地球上からテーラードのジャケットがなくなるときだろう。
もしかして、それは案外早く来るかもしれないのですけれど……。
文・今尾直樹 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
ルーミーさもエレガンスも台無しなのにメーカーに
忖度しているとしか思えない。