始まりは2023年3月熊本浜線店の指定取り消しから
AUTOCAR JAPANでは、2023年3月に熊本浜線店が指定取り消しの行政処分を受けた頃から、パンク保証制度の悪用、不正車検の実態などBM社の不正行為に関する記事をいち早く掲載してきた。同年6月下旬に弁護士らで構成される特別調査委員会が保険金不正請求に関する「調査報告書」を同社に提出し兼重宏行前社長がその内容を認めてからは、状況が一転。テレビや新聞、週刊誌などによる熾烈な報道合戦が始まったのである。
当初はゴルフボールで車体を叩き損傷範囲を広げて保険金を水増し請求するなどの問題が大きく扱われたが、その後は大手損保とのいびつな関係、異常な環境整備点検、新入社員へのパワハラや暴力、前副社長の罵倒LINE、自主退職に見せかけた不当解雇、下請け業者への多額の未払い、無許可での街路樹伐採など次から次へ信じられない事実が明らかになり、連日メディアを賑わせた。
昨年7月25日には兼重社長・副社長が退任し、新たに和泉伸二社長・石橋副社長が就任。経営陣の新体制がスタートしたが、不正行為の上に成り立っていた年間5000億円以上の売り上げは激減。自力再建は厳しい状態となり、11月には伊藤忠グループが支援の検討に入り現在もデューデリジェンス(買収監査)を行っている。
10月下旬からは指定工場の取消しや事業停止などの行政処分がはじまり、11月末には保険業法の規定に基づき、BM全店で損害保険代理店としての登録が取り消されており、12月半ばには警視庁と神奈川県警が街路樹枯死の件で前副社長兼重宏一氏宅に家宅捜索が入っている。
ことし1月、ついに環境整備点検関連で初めて逮捕者が発生
2024年に入ってからの最も大きなニュースといえば、環境整備点検で初の逮捕者が出たことであろう。1月30日、川崎店のスタッフに街路樹等の伐採を指示したとして器物損壊容疑で環境整備推進委員の肩書を持つ現社員のK氏が逮捕された。2月16日には神奈川県警が街路樹伐採を「会社の業務」であったとして、BM社じたいを書類送検し、さらに2月19日には平塚店でも同様の容疑でK氏を再逮捕している。
筆者がK氏の逮捕で驚いたことは2つある。K氏の逮捕じたいは昨年12月初旬から信ぴょう性の高い噂として関係者から聞いていたし、1月下旬には逮捕間近であることも聞いていた。故に逮捕自体は驚くことではなかったがNHKを筆頭に最初から実名報道だったことは意外であった。
さらにK氏の逮捕後、K氏の指示で街路樹伐採を行った川崎店の店長ら2名が書類送検されたことも驚きであったが、これらは「環境整備で初逮捕」という手柄をアピールしたい神奈川県警の思惑もあったとされる。
K氏はほぼすべての店舗での街路樹伐採に関わってきたので、今後は再逮捕がどんどん増えていくと思われる。同時に、K氏の指示で除草剤をまくなどした店の従業員らに対しても書類送検が続くことになるだろう。
被害にあった街路樹を管理する東京都や群馬県、福岡県など約20の自治体から被害届が出ており、すでにビッグモーター側が非を認め、謝罪し原状回復費用などを支払っているケースもある。
店舗の閉鎖・統合、板金工場の閉鎖が進行する
現在、伊藤忠のデューデリジェンスは最終段階に入っており、このままいけば今春以降、BM社は伊藤忠傘下のもと新たな中古車販売会社としてスタートすることになる。なお伊藤忠が支援する条件のひとつに、「創業家との断絶」があるが、ここでいう創業家とは兼重親子(前社長・前副社長)を意味する。
彼らは現在どこにいるのか。父親の兼重宏行氏は昨年7月の退任会見以降姿を現していないし、会見に現れなかった息子の宏一氏も依然として所在は不明だ。すっかり有名になった目黒の60億円豪邸に今も住んでいるのだろうか?
なお、近年、環境整備点検を主導していたのは宏一氏である。逮捕されたK氏の証言や警察の踏み込んだ捜査によっては宏一氏逮捕の可能性もゼロではないだろう。BM社も「警察の捜査には全面協力する」姿勢を見せているし、BM社崩壊のA級戦犯とされる宏一氏が逮捕されるとなれば、最強の「創業家との断絶」になるのは間違いない。
また、2月末~3月上旬にかけては各地の店舗が閉鎖、統合され、保険金不正請求の現場となった板金工場の閉鎖も進むことになる。現在は本社となっている多摩店の板金工場も2月中には閉鎖される。旗艦店でもあり本社機能も兼ねる多摩店の板金工場がなくなるのは関係者にとってもかなりの衝撃だろう。
なお、すでに閉鎖されている板金工場の中には再開する工場が出る可能性もある。BMの板金工場は2019年にテュフ・ラインランド・ジャパンのゴールド認証を取得しており、修理工場としての設備や仕様は非常にレベルが高い。買収元がそれらを高く評価することは十分に理解できる。
中古車業界の「クリーン化」は進むのか?
BM社では保険金の不正請求だけではなく、中古車売買のシーンにおいても様々な不正行為が行われていたことが明らかになっている。中古車購入時や買取時における詐欺的な行為もあり、中古車の購入に不慣れな人の中には気づかないうちに被害者になっているケースも多々あると考えられる。が、このような問題はBM社だけではもちろんない。保険会社は現在も疑義のある請求について調査を続けているので、今後、他中古車店でも驚くような不正事実が判明する可能性もある。
このような流れを受けて中古車業界では信頼回復に努める動きが進んでいる。その最たるものが自動車公正取引協議会による、2023年10月1日から導入の「支払総額表示」が義務化されたことだろう。
なぜ、義務化されたのか?これはかつてBMなどの大手中古車販売店が取っていた手法で、車両価格を卸値レベルの安い設定にし、客の注目を集める。
しかし、いざ契約となるとボディやガラス、タイヤなどのコーティングや各種の保証サービスなど、本来はオプションで設定されるものを「外せない」費用として車両価格に盛り込む。表示価格100万円のクルマが見積書では法定費用とは別にあれこれオプションをつけられて実際に支払う金額は150万円を超えていた…というケースである。
この支払総額表示の義務化はBM問題が明らかになる数年前から準備が始まっており(業界では悪徳中古車店の常とう手段として行われており、国民生活センターなどにも数多くの苦情が寄せられていた)、たまたまその施行日が2023年10月1日だったということである。
教習所では教えてくれないクルマの売買と使い方とは
消費者の不安が拡大した中古車業界の信頼回復を図るため、自動車公正取引協議会や中販連などの業界団体の他に中古車販売店においても「ユーザーのあんしん」を主眼においた独自の対応にも要注目だ。
1月24日には「ダマさないからネットで売れる」の衝撃的なキャッチコピーで業販最大手の「バディカ」によるダイレクト販売(バディカダイレクト)がスタートしており、同29日にはオートクレジット大手のプレミアグループによる史上初の「販売店による不正行為を30万円まで補償するサービス」が始まっている。
もちろん長年、客をだますことなく正しい中古車販売を行ってきた中古車店がほとんどだと思いたいが、中には中古車初心者をだまそうとする悪徳業者も存在している。新車ディーラーと違って信頼できる中古車店の選び方を知るのは難しい。人気タレントを起用した派手なCM、販売や買取、車検の実績台数に惑わされて「ここなら大丈夫」と思って騙されてきた人も少なくないはずだ。
消費者も販売店任せにせず、公正な中古車店や整備工場を見極める力をつけるべきだし、私たちメディアも自動車ユーザーがクルマ生活に関する正しい知識を身に着けられるよう、いいこともダメなこともユーザーにとって有益な情報を発信していく義務があると考えている。運転の仕方は自動車教習所で学べても、クルマの売買やローンの組み方、車検の通し方や修理工場の選び方などは教えてはくれないのだから。
なお、本稿の執筆中に、伊藤忠がBM社を支援する方針を決めたという一報が飛び込んできた。なぜ伊藤忠はこの決断に踏み切ったのか。AUTOCAR JAPANでは近日中に解説記事を掲載する。
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