ただひたすらに楽しいスポーツカー
現実的な予算で手に入る、真のドライバーズカーを見つけるのは、かつてほど簡単ではないが、比較的手頃な価格のスポーツカーは2023年現在も存在している。
【画像】運転の楽しさを味わえる珠玉のスポーツカー【アルピーヌA110、ポルシェ718ボクスター、アリエル・アトムを写真で見る】 全78枚
以前ほど数は多くなく、このインフレ時代には手の届かないものも多いように思えるかもしれないが、馬力や加速性能、最新技術ばかり追い求めるのではなく、純粋に運転を楽しめるクルマはまだまだある。
今回は、AUTOCAR英国編集部が選ぶ、魅力的なスポーツカートップ10を紹介する。ミドエンジンの2シーター、フロントエンジンのロードスター、ビッグエンジンのマッスルカー、そしてライトウェイトスポーツなどさまざまだ。この10台に共通しているのは、ほとんどの場合5万ポンド(約870万円)以下の価格設定であること、そして何度でもドライバーの心に灯をともせるということ。
日常の足として使やすいものもあれば、天気の悪い日には乗りづらいものもある。しかし、どのクルマも比較的小さな出費で大きな成果を得られるものであり、ハンドルを握っている時間が好きなら、いずれも注目する価値がある。
なお、スペックや価格は英国仕様に準ずるのでご参考までに。
1. アルピーヌA110
アルピーヌA110は、キレのあるターボエンジンのトルクから、没入感あるハンドリングの安定性と華麗さまで、ドライビング・エクスペリエンスを構成するすべての要素が「楽しさ」につながっている。ライバルの追随を許さない旅と道を教えてくれ、深く追求すればするほど愛着が深まるダイナミクスを備えている。
クルマを解剖してみると、オールアルミニウムのボディ、ミドマウントのエンジン、ダブルウィッシュボーンのサスペンションが前後にあることがわかる。これらは一般的にスーパーカーに見られるものであるが、4気筒のアルピーヌでは、この部品の総和以上のものを感じさせる仕上がりとなっているのだ。
2017年に登場した標準モデルのA110は、評論家からもオーナーからも熱烈な歓迎を受けた。後に登場したA110 Sでは、最高出力が252psから300psへパワーアップし、より硬いサスペンション、より大きなブレーキがもたらされた。豪華なレジェンドGTをはじめとするさまざまな特別仕様車も登場。そして今度は最上位のA110 Rが登場したが、魅力的で繊細な安定感、グリップ、ボディコントロールを備えたエントリーモデルのA110に取って代わるものはいなかった。
これほどまでにドライバーの関与を重視し、その効果を発揮するクルマは、この価格帯のスポーツカーでも稀有な存在だ。1マイルごとに骨抜きにされるようなクルマとして、英国編集部も5つ星の最高評価をつけた。A110は、速くて、機敏で、感情的で、そして究極的には楽しいクルマだ。これは拍手喝采に値する。
2. ポルシェ718ボクスターおよび718ケイマン
小型化された4気筒ターボガソリンエンジンを搭載し、2025年にEVに置き換わろうとしている現在でも、ポルシェ718は販売中のミドエンジン搭載スポーツカーの中で最も完成度の高いモデルであることに違いはない。2016年以降、このクルマのエンジンに対する不満の声が各方面から上がり、ポルシェは最上位のGTSにフラット6エンジンを導入した。しかし、4気筒であれ6気筒であれ、ボクスターとケイマンが優れたスポーツカーであることに疑いの余地はないだろう。
2016年に同車に搭載された2.0Lおよび2.5Lのフラット4ターボは、サウンド、スムーズさ、レスポンスの鮮明さ、リニアリティ、動作範囲の狭さ、そしてポルシェらしいドライビングの魅力に欠けるとの指摘を集めた。その後、ポルシェは2.0LエンジンをWLTP排ガス規制に対応させるために再チューニングし、ボクスターTとケイマンTをリリースしたが、そのレスポンスの悪さが再び物議を醸した。
しかし、2019年に予想外の展開が見られた。自然吸気のフラット6エンジンが上位モデルのGTS、GT4、ボクスター・スパイダーに再導入されたのだ。992型911の3.0Lユニットをベースに、4.0Lに拡大され、ターボが取り除かれたこのエンジンは、いかなる基準でも素晴らしいものだ。ロングギアのマニュアル・トランスミッションは718に似つかわしくないが、2ペダルのPDKを選べばこれを回避することができる。
ボクスターもケイマンも実用的で、常に魅力的な走りを見せ、4気筒でも十分に速い。718には、まだすべてが備わっている。718に勝つには一世一代の素晴らしいダイナミクスを持つクルマが必要だ。
3. アリエル・アトム4
5万ポンド(約870万円)の予算があり、自分自身を楽しませるためだけに使える人であれば、最もストレートで明白な答えの1つであるアリエル・アトム4を見過ごすなんて不本意だろう。
この軽量な2シーターは、オートバイであり、クルマであり、チューブでできた珍品でもある。もちろん、実用に耐えるクルマではないことは明らかだ。しかし、ドライバーに十分なコミットメントを要求する一方で、非常に雄弁かつ個性的だ。英国編集部が大好きなライトウェイトスポーツカーであるアトムは、本質的なことに焦点を当てている。フロントガラスはオプションであり、未装着の場合はヘルメット着用が必須となる。
圧倒的なスピードと無敵の興奮は、このクルマの最大の魅力だ。ホンダ製の4気筒ターボエンジンが355psのパワーで600kg弱の車体を動かす。心を揺さぶるのはスーパーバイクのような加速だけではない。アトムのシャシーは独特の調整機能を備えており、バンピーな一般道でもサーキットと同じように簡単に走らせることができる。これは、サーキットで暴れまわるだけのパワーやフィジカルを持つ従来のクルマには、ほぼ言えないことである。
サーキットでアトムに乗り、その性能を余すところなく引き出すことは、2023年のスポーツカーでは希少な体験だ。そして、コースを出てからベルトを緩め、ダンパーの緊張を解き、ゆっくりと揺れながら帰路に着くと、他の四輪車では味わえないような、生きているという実感を得ることができる。
4. トヨタGR86
完璧を超えるにはどうすればいいだろう? 普通なら、トヨタ86の後継を作ろうとしたとき、少しだけパワーを追加し、外観とインテリアを顧客の希望通りにリフレッシュして「はい、おしまい」だろう。
しかし、GR86にはそれ以上のものが備わっている。まず、シャシーとシェルを鍛え上げた上で、排気量2.5L、最高出力234psに強化された筋肉質なフラット4エンジンを搭載。サスペンションとステアリングは基本的に同じだが、タイヤはミシュラン・プライマシーHPとパイロットスポーツ4が用意されている。
その結果、走りの本質はほとんど変わらず、公道でもサーキットでもどんな速度でも、美しいバランスと見事なまでに調整された後輪駆動のハンドリングを発揮することができる。ただ、エンジンのパワーアップで加速力は上がったが、それ以上のものはないし、ハードに走らせたときにはまだ少し個性が足りない。
外観は以前よりスマートになり、インテリアは実用性を犠牲にすることなく、より上品に仕上がった。そして、2万9995ポンド(約520万円)からという価格も魅力的だ。
しかし、1つ難点がある。大きな難点だ。欧州市場の安全規制の変更により、GR86が英国で販売されるのは2024年初頭までとなり、トヨタが輸入を予定しているすべての車両がすでに予約済みのため、実質的には販売終了となっているのだ。キャンセルを待つこともできるが、ほんの一握りの幸運な人にしかチャンスは巡ってこないだろう。
追記:本稿執筆時点では英国販売は実質的に終了していたが、現在では新たに生産ロットが割り当てられ、新車を注文できるようになった。またすぐに完売するかもしれないが、さらなるロットの追加も期待されている。
5. マツダMX-5
この4代目マツダMX-5(日本名:ロードスター)は、すべての面で先代を超えている。小さく、軽く、広々としたインテリアと優れたレイアウト。外観はシャープになり、それでいて控えめで、まったく派手さは感じられない。また、より速く、より質素で、さらに生き生きとした魅力的なドライビングを見せるようになった。
2018年、マツダはこの象徴的なスポーツカーに改良を施した。主要な変更点は、1.5Lおよび2.0Lエンジンの出力が向上したこと。また、唯一の難点であった運転姿勢についても、歴代初となるステアリングホイールのテレスコピック機構の導入により改善された。
その後、さらに細かい調整が行われ、2023年現在も最新型が販売されている。英国では、標準的なソフトトップ車のモデル名を「MX-5コンバーチブル」から「MX-5ロードスター」に変更し、グレードも従来の「SE-L」「スポーツ」「GT」から、「プライム」「エクスクルーシブ」「ホムラ」に変更。さらに新色としてジルコンサンドを追加している。
機械的な変更はなく、1.5L車は132ps、2.0L車は184psを発生。フロント・ストラットブレース、リミテッド・スリップ・ディファレンシャル、ビルシュタイン製ダンパーが標準装備されている。
どちらのモデルを選んでも、リアドリブンのシャシーで安定した走りを実現し、ドライバーとの関係性は深い。それは、MX-5がこれまでとまったく同じように生き生きとした、比類のないクルマであるからだ。そのキャラクターは30年前からまったく変わっておらず、今回取り上げる10台の中でこれほど「笑顔」が似合うクルマはない。
6. モーガン・スーパー3
先代のモーガン3ホイーラー(1909年のオリジナルではなく、2012年のモデルチェンジ後)は、同社にとって意外なヒット作となった。10年間で約2500台が販売されたが、これはモーガンのような小規模メーカーにとっては、限りなくメガヒットに近い。
2022年に公開された新型車は、名称を「スーパー3」に改め、先代のスピリットと魅力を引き継ぎながら、より汎用性の高い現代的なパッケージングにまとめられている。モーガンのさらなる飛躍が期待される1台だ。
ユニークな三輪レイアウトや、ひっくり返ったバスタブのような外観はそのままに、より強固なモノコック構造、洗練されたサスペンション、従来のハーレーダビッドソン製Vツインエンジンに代わるフォード製直列3気筒ターボエンジン(フィエスタと同じ)が搭載されている。
重量はわずか635kg、最高出力120psのスーパー3は、マツダMX-5から拝借した軽快な5速MTを介して、その真価を発揮する。スキニーなタイヤでコーナリングに挑むとき、代えがたい喜びを与えてくれるのだ。適度なグリップとバランスのとれたハンドリングは、どんな速度域でも非常に楽しい。
ただし、屋根が無いということは、長時間の移動には覚悟が必要ということだ。4万ポンド(約700万円)という価格も「安い」とは言い難い。他のライトウェイトスポーツカーは、もっとサーキット走行に見合った性能を持っているし、以前の3ホイーラーにはもう少し個性があった。しかし、毎日利用するような街中の道路を走るだけでも、これほど心を高ぶらせるクルマはないだろう。
7. ケータハム・セブン
70年以上にわたって、あらゆる形態のセブン(ロータスとケータハム)は、ピュアなドライビング・スリルの基準を打ち立ててきた。NVH(騒音・振動・ハーシュネス)を無視し、ユーロNCAPも恐れず、走る楽しさだけに集中するなら、この小さな英国製スポーツカーを超えるものはない。
新型セブンを最も手頃な価格で購入できるのはケータハム・セブン170で、英国では自分で組み立てるキットで2万8990ポンド(約500万円)から。最高出力85psのスズキ製660ccターボエンジンは、書類上では少し貧弱に見えるかもしれないが、わずか440kgの重量で0-97km/h加速を7.0秒未満で走り抜け、3気筒エンジンがうなるようにドライバーを励ましてくれる。
セブン170の上に、ケータハムはレトロな雰囲気のスーパーセブン600とスーパーセブン2000を用意している。拡張されたフロントウィングとクロームトリムにより、クラシックなルックスとなっているが、後者は最高出力182psのフォード製デュラテック・エンジンを搭載している。
もっと上を見れば、最高出力314ps、シーケンシャル・トランスミッション、フル・ロールケージ、サーキット用スリックタイヤ、フルアジャスタブル・サスペンションなど、モータースポーツにふさわしいモデルもある。ポルシェ718ケイマンGT4よりもずっと安い値段で、完成品のセブン620Rを手に入れることができるのだ。
安価なモデルはライブリアアクスルを使用しており、高価なド・ディオン搭載車のような洗練された乗り心地はないが、細いタイヤとクイックなステアリングで、コーナーをあっちへこっちへ踊り、ライトウェイトスポーツカーならではの楽しさを味わえる。
四輪車の中で最も無邪気で爽快な楽しさかもしれない。
8. トヨタGRスープラ
2019年、トヨタGRスープラは非常に熱い期待が寄せられていた新型車だった。約20年にわたる欠番も終わり、伝説的なスポーツカーがついに帰ってきたのだ。しかし、BMWとのコラボレーション(そこからBMW Z4も生まれた)がなければ、復活は実現しなかった可能性が高い。GRスープラの中身、すなわちエンジン、プラットフォーム、トランスミッション、デフ、電気系統、そして多くの操作系が、バイエルン地方の生まれである。この事実に対し、物申したい人も少なくないだろう。
しかし、走りの面では、GRスープラ独自のアイデンティティを確立している。サスペンション、ステアリング、デフのキャリブレーションはすべてオリジナルのもので、トヨタはZ4ではなく、ポルシェ718ケイマンを主要ライバルと見ているようだ。
手抜かりはない。GRスープラは多くの点で優れたスポーツカーである。ポルシェの純粋なハンドリングとバランスには敵わないかもしれないが、遠く及ばないということはない。乗り心地は驚くほどしなやかで、エンジンもなめらかで個性豊かなため、日常的な使い勝手もはるかに楽だろう。
一方、6気筒モデルはちょっと贅沢すぎるという人のために、4気筒のエントリーモデルも発売されている。そのハンドリングは、小型エンジンゆえの軽さの恩恵を受けている。一方、胸板の厚い直列6気筒では、マニュアル・トランスミッションを選べるようになり、魅力的でオールドスクールなスポーツスターの1つとなっている。
9. フォード・マスタング
合理性を追求するなら、アウディTTかBMW 2シリーズ・クーペの方が賢明な選択肢かもしれない。しかし、スポーツカーにおいて合理性は二の次ではないだろうか。そして、2023年でも、最高出力450psのV8エンジンを搭載したフォード・マスタングが、5万ポンド(約870万円)以下で手に入るのだ。
2016年に登場した第6世代のマスタングは、フォード純正の右ハンドル仕様として英国にやってきた。それは当時、画期的なことであった。それでも、英国ではマスタングの所有にはいくつかの欠点がある。まず、ボディが非常に大きいので、街中でどこに停めるか、どんな道を走るのか、よく考えなければならない。
また、5.0L V8を搭載しているため、ドイツ製スポーツカーに乗る人たちよりも多く給油する必要がある。欧州フォードでは、この点への配慮から4気筒エンジンを搭載していたが、現在は廃止されている。
マスタングがスポーツカーの原点に近い存在であることは言うまでもないが、これほど明白な好感度を持つ直接的なライバルもほとんどいない。そのパワートレインは、気筒数の少ないエンジンにはない魅力があり、後輪駆動のシャシーバランスも絶妙である。
10. モーガン・プラス・フォー
この記事の冒頭で「5万ポンド前後」という価格を主な選定条件に挙げたが、英国編集部はどうしてもモーガン・プラス・フォーを「手頃な価格のスポーツカー」として紹介したいので、勝手に条件を緩めることにした。プラス・フォーは現在、モーガンで最も安価な四輪スポーツカーであるが、その価格は6万3000ポンド(約1100万円)弱からとなっている。
しかし、モーガンのスポーツカーは中古車としても価値を強く保持する能力を持っているため、手放す時のことまで考慮すると驚くほどリーズナブルな選択肢と言えるのだ。取引内容によっては、支払いに無理がないことがわかるかもしれない。(英国編集部の主張)
とはいえ、プラス・フォーの所有体験は、718ボクスターやGRスープラと同じものではない。このクルマは、古き良き時代の魅力をまとった存在だ。デザインは現在販売されているどのクルマよりもレトロであるが、そのアルミニウム製ボディの下には、BMW製4気筒ターボエンジンとオールアルミ製モノコックシャシーが隠れている。
最高出力258psを発生するプラス・フォーだが、どちらかというと少しゆったりとした歩調のスポーツカーである。英国の夏の午後を完璧に楽しむためのクルマなのだ。走らせる楽しさも多少あるが、スポーティに乗りたいと思うほどではない。布製のルーフとハーフドアのせいで、高速道路でのクルージングはうるさく、乗り心地もハンドリングも、6万ポンドのスポーツカーに期待されるほど洗練されたものではない。
最新のシャシーと最新のターボチャージャー付きBMWエンジンを搭載しても、刺激からは距離を置いている。やはり、風に漂う葉っぱのような、のんびりとした要素が素晴らしい。
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