中古車を購入したことがある、あるいは検討している多くの人が気にするのであろう「走行距離」。当然ながら少ない方が好まれる傾向にある。
その一方で「過走行」に該当するクルマは相場よりも安く、また敬遠されがちだ。
アメリカが虎視眈々と狙っている!? 『25年ルール』が適用される日本車たち
そもそも「過走行」の目安とは? さらに、「過走行」であってもリセールバリューがあるクルマとは? ディーラーや買取り業者に直撃した。
文/松村透
写真/松村透、トヨタ、日産、マツダ、三菱、フォルクスワーゲン、Adobe Stock
【画像ギャラリー】10万kmなんてまだまだこれから!? そもそも「過走行」の定義とは
■そもそも「過走行」の定義とは?
20万キロとえば赤道一周(4万75km)を約5周した計算となる。クルマとしてはまだまだ現役!
過走行に関する明確な定義はないようだが、JAAI/一般社団法人日本自動車査定協会が定める「年間走行距離が1万km(カテゴリーによって多少の差異はある)」がおおよその目安と考えていいだろう。
しかし、単純に過走行だから程度が悪いと決めつけるのは早計だ。
かといって5年で1万kmしか走っていないから程度極上というとそう簡単にコトは済まないのは、経験者や有識者であれば想像がつくだろう。
そういった不安要素から開放されたいのであれば、新車か登録済未使用車といったクルマを選ぶしかなさそうだ。
■ディーラーや買い取り業者に聞いた「過走行に関する疑問」とは?
現場の声を集約すると「年間1万kmを超えると過走行」と判断されることが多いようだ
今回、国産/輸入車ディーラー、国産/輸入車の買い取りも行う中古車販売店の方たちに取材を試みた。
ディーラーおよび中古車販売店の状況や、国産および輸入車によって違いはあるが、人気の車種であれば、過走行云々でないほど需要があることが改めて浮き彫りになった。
あくまでも2021年10月現在の情報ではあるが、少しでも参考になれば幸いだ。
●過走行とみなされる目安は?
・車種や地域にもよりますが、おおよそ年間7千km以上でしょうか
・地方だと年1.2万km前後、首都圏だと年間8千km超えると過走行だと感じます
・年間1万km以上です
・10万kmが目処ですが、車種にもよります。ハイエースやランクルの10万kmなんてまだまだこれからです
●過走行の場合、どれくらい査定に影響しますか?
・車種にもよりますが、国産車なら1万kmで10万円くらい、輸入車なら15万円くらい変わるイメージです
・年式や車種にもよりますが、年間1万kmのクルマに対して年間1.5万kmで最低10%~多くて15%マイナスの印象です
・車種によりますが、海外からの需要の有無で大きく変わります。過走行であっても海外で人気の車種(絶版スポーツカーやアルファードなど)は影響が少ないです
・市場の需要と供給のバランスによりますが、新車は高くて買えないから中古車を考えているといった車種は強いです
●査定がグッと下がる境目のとなる走行距離はありますか?
・3万km、5万km、7万km、10万kmが目安です。この走行距離以下の条件で中古車検索される方が多いためです
・7万kmがひとつのボーダーラインです
・基本的には10万kmです。ただ、イタ車はすぐ壊れるので5万km前後が目処かもしれません
・3万km、5万km、10万km。ただし、中古車市場の状況にも左右されます
●ズバリ、過走行でも人気のある(影響の少ない)車種はありますか?
・ランドクルーザー、ランドクルーザープラド、ハイエースです。海外では走行距離を気にしませんので、海外需要のあるクルマは走行距離の影響を受けにくいです
・スポーツモデルをはじめ、「高年式過走行車」というジャンルが輸入車には確実に存在します
・ハイエース、ランクル、アルファード、各種スポーツカー、クラシックカー全般です。最近だとジープラングラーも強いです
・中古車市場に売り物がないクルマです。最近のように、新車が手に入らない場合は顕著です
●旧車のようなクルマにも過走行の定義は当てはまりますか?
・旧車でも走行距離は価格を決める要因のひとつですが、それ以上にどれだけ整備されているかが重要視されます
・あてはまりません
・あてはまりません。たとえ過走行でも、フルレストアされたバリモノは特に人気があります
・人気の旧車であれば、15~20年超は10万km台でも影響ありません
●3年/1.5万kmと 3年/3万kmの査定額の違いは?
・車種にもよりますが、おおよそ20万円くらいだと思います
・車両の価格にもよりますが、おおよそ5~6%くらいです
・車種や新車時の価格によります。仮に新車時に300~400万ぐらいの車だとしたら、3年経過の1.5万kmと3万kmの差額は50万円ぐらいです
・中古車市場の需要と供給によってまちまちですが、前車の方がどうしても優位になります
●5年経ったときガクンと査定額が下がる距離の目安は?
・7万km。これ以上になると10万kmに近い扱いとなり、買い手が付きにくくなるのです
・7万kmですね
・基本的に10万kmです
・車種にもよりますが、輸入車だと3.5万kmを超えると・・・
■査定がグッと下がる基準となる走行距離とは?
ランドクルーザー(300系)のように、完全に需要過多のクルマは多少の過走行など問題にならない
取材した方によって多少の差異はあるが「1、3、5、7、10万km」がそれぞれのボーダーラインといえそうだ。
乗り替えや売却を考える際の目安となるだろう。もっとも「はじめから乗り潰す」つもりで購入したのであれば、この数値を気にする必要はまったくといっていいほどない。
その反面、残クレ(残価設定ローン)を利用した場合は特に気に留めた方がいい数字だ。
親切(商売熱心、ともいえる)なセールスであれば「5万km超えると下取り額がガクンと落ちるので、そろそろ乗り替えた方がいいですよ」と代替プランを持ちかけてくることもある。
どれほどコンディションが良く、人気グレードであったとしても、過走行ではディーラー認定中古車として売りにくいという実情もある。そういったクルマはどこへ流れていくのかというと、日本各地で開催されているオークション会場だ。
新車のGT-Rともなればおいそれと買えるクルマではない。程度の良い(と思われる)中古車を求め、ユーザーが低走行車を探したくなるのも無理はない
ディーラー側からすれば、乗り替えによる利益に加えて、下取り車を自社の認定中古車として売りに出し、売却できればさらに上乗せできるのだ。
なぜなら、セールスマンには、メーカーによっては新車の契約だけでなく、保険や認定中古車、新規ユーザーの紹介など、あらゆる項目がノルマの条件となっているケースもある。
それだけに、自分たちの目の届く範囲に1人でも多くの管理ユーザーを抱え込みたいという本音があるだろう。
■いわゆる「旧車」や「絶版車」にも過走行の定義は当てはまるのか?
ハチロクことAE86ともなれば、もはや過走行云々ではない。コンディション重視の世界だ
すでに察しがついているかもしれないが、一般的に「旧車」や「絶版車」に該当するクルマには過走行の定義はあてはまらないと考えていい。走行距離よりも程度が重視される世界だ。
もっとも評価される、つまり価値があるとみなされるのは「フルオリジナル(またはそれに近い状態)を維持し、ワンオーナー車、整備記録がきちんと残っている」個体だ。
仮に30万km走破していたとしても、車検や交換履歴などの整備記録が残っていれば「距離を走っていても、しっかりとメンテナンスされてきたクルマ」という評価になる。
一昔前では考えられないような相場で取り引きされる旧車・ネオクラシックカーが増えたことは間違いない。FD3S型RX-7もその1台だ
ただ、これだけの条件がそろった程度極上の「旧車」または「絶版車」ともなれば、走りを楽しむクルマ・・・というより、最近ではコレクターアイテムの領域に達した感がある。
つまり「資産価値があるので、おいそれと乗れないなってしまったクルマ」ということだ。
その一方で、投機目的で購入する人物の目にも留まるようになる。それはつまり、クルマ好きのコレクションというよりも金儲けの対象にされてしまうことを意味する。
手に入れたクルマをどう煮て焼いて食おうとオーナーの自由だが、「クルマは走らせてナンボ」であることはいまも昔も不変だ。
仮に30年間(つまり平成初期だ)、日常の足として使っていれば塗装はやれるし、ステアリングやシートも使用感が目立ってくる。
しかし、それこそが「クルマ本来の正しい扱い方」ではないだろうか。
この「経年劣化」が、結果的としてきちんと評価されている(こともある)のだから、世の中捨てたものではないのかもしれない。
■結論:リセールバリューを気にするなら、年間走行を1万km以内(理想は8千km以内)に
1人のオーナーが50万km以上も1台のクルマとともに過ごす例もある
通勤や仕事、レジャーなど、あらゆる場面でクルマを使うユーザーからはお叱りを受けるかもしれないが、過走行とみなされないために「年間1万km以内(理想は8千km)」に抑えておくのが無難といえそうだ。
ただ、これは最大公約数の数値であり、最新のスポーツモデルなど「年数を問わず走行距離が少ないほど高値がつく」ケースもある。
また、最新のスーパースポーツモデルは1万kmを超えた時点で「ガクン」とリセールバリューが落ちる。
巷で走行距離数千kmクラスのスーパースポーツモデルの中古車が販売されているが、市場価値を維持しているうちに次のモデルに乗り替えているようだ。
筆者のような庶民からすれば。せっかく思う存分スーパースポーツを堪能できる境遇のはずなのに、「1万kmに到達する前に乗り替えないと」と思いながらオーナーがステアリングを握っているとしたら・・・何とも複雑な気持ちになる。
そういったファーストオーナーの苦悩(?)のおかげで良質な中古車が市場に流れてきているのだから、オーナー予備軍は感謝すべきなのかもしれない(悲しいかな、それでも手が届かないのだが)。
機械としてはもちろん、道具として酷使されることがクルマにとっても本望なのかもしれない
また、多少のオーバーであれば、同じセールスからの乗り替えや、クルマの装備やコンディションなどで相殺されるケースも少なくない。あまり過敏になりすぎる必要はないだろう。
そして皮肉なことに、この低走行車至上主義が海外のバイヤーに受けているという事実もある。
海外の有名オークションに出品されているクルマのリアガラスに日本の正規輸入ディーラーのステッカーがそのまま貼られているケースも少なくない。
また、低年式・過走行のクルマであっても、それはあくまで日本国内の論理だ。途上国をはじめ活躍の場はまだまだたくさんある。
「低年式・過走行」というだけでゼロ査定(価値なし)と判断され、日本の草むらの片隅でひっそりと朽ち果てるのを待つより、海外でボロボロになりエンジンが壊れるまで酷使される方がクルマの一生としては幸せなのかもしれない。
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大事に乗った車を距離だけで判断されたらたまらんわ!