先日富士スピードウェイで行なわれたスーパーフォーミュラの2023年シーズン開幕戦。このレースを制したのは、TEAM MUGENのリアム・ローソンだった。
ローソンはこのレースがスーパーフォーミュラへのデビュー戦。デビュー戦で勝利を飾ったドライバーは、2013年にスーパーフォーミュラが始まって以来はじめてのこと。日本のトップフォーミュラのシリーズ(フォーミュラ・ニッポン、全日本F3000、全日本F2)を遡っても、1978年のマルク・スレールが最も直近の例である。
■これが日本のナンバー1……スーパーフォーミュラ王者・野尻智紀の無線から漂う“したたかさ”。大型新人ローソンも脅威ではないのか?
それだけでもローソンの初参戦初優勝は、十分評価に値する成績だと言うことができるだろう。ただ、最近参戦した外国人ドライバーたちと比較すれば尚更、どれだけの離れ技だったかということがわかるだろう。
ローソンは昨シーズンはFIA F2に参戦し、ランキング3位となった。これで、F1の参戦に必要なスーパーライセンスの発給条件を満たしたが、ローソンが加入できるシートはなく、来日してスーパーフォーミュラに挑むことになった。
この流れは、2016年に来日したストフェル・バンドーンや、2017年に来日したピエール・ガスリーとよく似ている。
バンドーンは2015年に、FIA F2の前身であるGP2で7勝を挙げ、チャンピオンに輝いた。11戦あったフィーチャーレースのうち、10戦で表彰台を獲得するというまさに圧倒的な安定感と強さでのチャンピオン獲得であった。バンドーンはその前の2014年にも、参戦1年目ながらランキング2位となっており、F1デビューに向けては申し分のない成績を残していた。
当時のバンドーンは、マクラーレンの育成ドライバーだった。しかし2016年のマクラーレンは、フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンという、チャンピオンふたりを擁しており、バンドーンが座るシートはなかった。そのためバンドーンは、ダンディライアンからスーパーフォーミュラに参戦することになった。
ただ、F1の開幕戦でアロンソがクラッシュにより負傷したため、バンドーンが急遽招聘されてバーレーンGPでF1デビュー。つまり、スーパーフォーミュラを戦う前に、F1デビューを果たしていたわけだ。
ガスリーは、バンドーンがチャンピオンになった翌年、2016年にGP2でチャンピオンに輝いた。これにより2017年にトロロッソからF1デビューするのは確実とみられていたが、チャンピオン決定が最終戦までずれ込んだこともあり、トロロッソにはダニール・クビアトが残留することが決まった。そのため、最終的にチャンピオンを手にしたガスリーは、すぐにF1に行くことはできず、バンドーン同様来日してスーパーフォーミュラで武者修行することになった。
バンドーンもガスリーも、GP2チャンピオンとしてスーパーフォーミュラに挑んだ。しかし、ローソンのように最初から勝てたわけではない。
バンドーンは鈴鹿での開幕戦で3位。それだけでも、歴戦の強者たちを相手にいきなり表彰台を手にしたことで、驚きを持って迎えられたものだ。
ガスリーはテストの段階では「バンドーンより上かも」と高い評価を受けたが、デビュー戦となった鈴鹿ではシフトのトラブルもあり、10位に終わった。
このように、スーパーフォーミュラのデビュー戦で優勝するのは、実に難しいことだ。バンドーンやガスリーにとって、日本は文化も環境も、ヨーロッパとは大きく異なる。レースに向けての進め方も違う。そしてスーパーフォーミュラを走るドライバーたちのレベルは高く、しかも国内のサーキットを知り尽くしている。
「これまでのレースとは全く異なる環境で、本当に素晴らしいドライバーたちと戦うことができ、光栄に思う」
バンドーンはスーパーフォーミュラ初戦の後、そう語っている。
またガスリーも、「僕にとってはチャレンジングなことだったし、素晴らしいドライバーたちと一緒に走ることができたというのは、本当に勉強になった。初めて日本のレースに来て、日本のチームと一緒に仕事をした。考え方もコミュニケーションの取り方も違う」と、スーパーフォーミュラを評している。
それでも、さすがはGP2王者。いずれも高い適応力を見せつけた。バンドーンは結局2勝を挙げてランキング4位となり、2017年にマクラーレンF1のレギュラーシートを掴んだ。ガスリーもやはり2勝を挙げて、ランキング2位。このシーズン中にトロロッソからF1デビューを果たし、翌年にはやはりレギュラーシートを手にした。
デビュー戦でバンドーンやガスリーを上回る、優勝という結果を残したローソン。シーズンを通じて、同じようなパフォーマンスを発揮し続けることができるだろうか? その活躍が、ローソンが来季F1に行けるかどうか、資金石となるはずだ。
しかし彼の前には、チームメイトの野尻智紀をはじめ、高い壁が立ちはだかっている。
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