RENAULT MEGANE R.S.TROPHY
ルノー メガーヌ R.S. トロフィー
ルノー メガーヌ R.S. トロフィーが魅せる衝撃のキレ味! アンダーステア知らずのピュアスポーツ
サーキットで本領を発揮するホットハッチ
もしアナタが本当にスポーツドライビングでカタルシスを得たいなら、今の世の中で選ぶべきクルマはそう多くはない。フェラーリ 488、ポルシェ 911 GT3RS、マクラーレン 720S。こうしたハイエンドスポーツたちは確かに恐ろしく素晴らしいけれど、それを自在に振り回せるかといえば話は別だ。また、ポルシェ 718 ケイマン GT4やBMW M4 GTS、ニッサン GT-Rだってかなり手強い。
ドライバーが自在に振り回せるスポーツカーというジャンルは、かつて日本車の独壇場だった。いま残っているのはホンダ シビック タイプRとスバル WRX、そしてトヨタのスープラと、2020年にデビューするGR ヤリスくらいだろうか。絶対速度を求めなければマツダ ロードスターやトヨタ 86もカウントできるかもしれない。あとはロータス エリーゼ。
そして今回紹介するルノー メガーヌ R.S.トロフィーは、間違いなくそのうちのひとつにカウントされる一台だ。しかもその走りに傾けた情熱の純度は飛び抜けて高い。これにガチで対抗できるスピリッツがあるのは現状GR ヤリスだけだろう。
それを確信することができたのは、筑波サーキットの最終コーナーを駆け抜けたときだった。なんとこのCセグメントハッチバックは、ターンインでブレーキングすると絶妙にリヤタイヤを流しながら向きを変え、マシンを曲げていった。ここで少しカウンターを当てながらアングルを正しアクセルで姿勢をバランスさせると、きれいにコーナーを立ち上がっていったのである。
アンダーステアを封じ込んだ絶妙なハンドリング
カツーン! と頭を叩かれたような気分になった。そして思わず武者震いした。なんてチャレンジングなんだ。そしてなんて楽しいんだ!
メガーヌRSは、歴代こうしたハンドリングを基本としている。今でこそアルピーヌA110が誕生し、後輪駆動のスポーツカーを持つようになったルノーだが、FWDしかなかった時代はルノースポールが執拗にハンドリングに磨きを掛け、メガーヌRSのアンダーステアを封じ込める努力をしていた。
GENROQ Webでもメガーヌ R.S.「シャシーカップ」で、その模様はお伝えしているのだが、あのときはどしゃぶりの雨。そして今回晴れて最新世代のメガーヌ R.S.をドライコンディションで走らせることができたのである。
メガーヌ R.S.はそのグレードを標準仕様の「スポーツ」、足まわりを引き締めた「シャシーカップ」(100台限定・完売済み)、そして今回の「トロフィー」、ニュルブルクリンクのアタックカーでもある「トロフィーR」と4段階に分けている。トロフィーの仕様を簡単に説明してしまうと、それはハイパワーなエンジンにシャシーカップの足まわりを装着したグレードだと言える。
最大の武器は後輪操舵の「4コントロール」
1.8リッターの直噴エンジンはスタンダード仕様の279ps/390Nmから300ps/420Nm(6速MTは400Nm)へと高められており、そのトラクションを確保するためにトルセンLSDが標準装備となった。また驚くべきことに、シャシーカップは限定車だったが、このトロフィーはカタログモデルである。
そんなメガーヌ R.S. トロフィー最大の特徴は、まさに「アンダーステア知らず」と言えるハンドリングにある。
その走りを支えるサスペンションは、標準グレードである「スポーツ」に対してフロントで23%、リヤは35%スプリング剛性を向上させた。これに合わせてダンパーも減衰特性を仕様変更し(25%剛性アップ)、なおかつフロントのスタビライザーも7%ハイレートなものを奢っている。こうして得られたシッカリ感をベースに、メガーヌ R.S. トロフィーを操るドライバーは自信を持ってコーナーへ飛び込んでいくことができる。
しかし感心させられるのはここからだ。メガーヌ R.S.最大の武器である「4コントロール」が、呆れるほどにクルマを曲げていくのである。ご存じ4コントロールは後輪操舵のことであり、フロントと合わせて4つのタイヤを操舵することからこの名が付けられている。通常モード及びスポーツモードでは60km/hまでの領域を逆位相として旋回性を向上させる。そしてそれ以上の領域では同位相とし、挙動の安定化を図る。今回は「レース」モードがようやく試乗でも解禁され、この閾値が100km/hにまで引き上げられた。またこのモードを選ぶことで自動的に横滑り防止装置もキャンセルされる。
自らのドライブを精査して高めていける快感
フロントタイヤが暖まりきらず、ドドドドッと滑りながらもクルマが曲がっていく感覚は異様だった。そしてタイヤに熱が入ってくると、思わず縁石に乗り上げそうになるほどクルマがイン側へと食い込んでいく(正確にはリヤがまわり込んでいくのだが)。その動きが理解できてくると、メガーヌ R.S.トロフィーとの時間が始まる。
曲がり過ぎるなら、アクセルをいち早く踏み出せば良い。アンダーステアが出ないなら、ブレーキングポイントを詰めていくことができる。こうしてドライバーとマシンの対話が始まると、最初は探るようにしていた運転がどんどんアグレッシブになっていく。
ハードブレーキングからハンドルを切る。アンダーステアが出た状態でも少し待っているとクルマが巻き込み始め、アクセルが踏めるようになる。そのポイントがつかめたら、今度はアンダーステアが出る寸前までブレーキを追い込む。高まったフロント荷重とリヤステアの連携がクルマの向きを巻き込むように変えたとき、アクセルを踏み込むポイントがさらに早まっているとわかる。そこでプッシュアンダーステアが出るようなら、今度はもっと早めに向きが変わるようにアプローチも変える。
こうして何度も何度も確かめるようにして走ると、自分の運転がどんどん精査されていく。アクセルに対して従順なエンジンのレスポンスと、6速ながらもタイムラグのないエフィシエントデュアルクラッチの連携。6速MTも良いとは思うが、左足ブレーキをも受け付ける2ペダルATの方がドライビングの引き出しが増えると私は感じた。
切れ込む挙動を制御するテクニックが不可欠
難しかったのは、ダンロップコーナーのような速度が曖昧なセクションだ。ここでアクセルをオフにすると4コントロールはちょっと怖いくらい“ズバッ!”と向きを変える。だからアクセルをいきなり閉じるのではなく、もっと手前から姿勢を落ち着かせて入っていく必要がある。そして慣れてきたら、敢えてアクセルはあまり閉じずにアンダーステアと後輪操舵を相殺させる。もしくはアクセルオフで向きを変えたあと、素早くアクセルでこれをバランスさせる。
面白かったのは最終コーナーでの挙動だった。セオリー通りに考えればオーバー100km/hの領域で4コントロールは姿勢を安定させるはず。しかし軽いタッチのブレーキングから120km/h以上の進入速度でターンしたアプローチで、メガーヌ R.S.トロフィーは冒頭でも述べた通り絶妙なニュートラルステアを発揮したのである。
そしてここに、シャシーカップの真意が隠されている。きっとこの時でさえも、4コントロールはリヤタイヤを同位相に制御しているはずだ。しかしそれ以上にサスペンションがニュートラルステア方向へとセットされていたから、同位相によるアンダーステアをも相殺したのである。つまりメガーヌRSトロフィーは、4リンクなしでもかなりのキレ味を持つセッティングが施されている。だからこそ前回豪雨となった試乗では、「レーシング」モードが許されなかったのである。
ニュル最速FFの血統を色濃く継いだトロフィー
ちなみにニュルブルクリンクでFF最速のタイム(7分40秒1)をたたき出したトロフィーRは、4コントロールを装着していない。もっともこれは、長いストレートを持つニュルでエンジンパワーに勝るライバルに遅れを取らないため。細かいヘアピンカーブが存在しないニュルだからこそ、ルノー・スポールは4リンクはおろかリヤシートさえも外して軽さを取ったのだと私は思う。
総じてメガーヌ R.S.トロフィーは、FFモデルながら驚く程のコントロール性を備えたスポーツハッチバックとなった。むしろハイパワー化によって安定方向へとハンドリングを封じ込まれた後輪駆動車よりも、そのドライビングは後輪駆動的である。そのキレ具合は万人に勧められるものではないかもしれない。しかし扱い方をきちんと理解しさえすれば、誰彼牙を剥くような野蛮さでもない。
優れた道具というのはそういうもの。メガーヌ R.S.トロフィーは、職人・ルノースポールが作り上げた包丁のようなクルマだと私は思う。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
【SPECIFICATIONS】
ルノー メガーヌ R.S.トロフィー EDC
ボディサイズ:全長4410 全幅1875 全高1435mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1470kg(6速MT:1450kg)
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798cc
ボア×ストローク:79.7×90.1mm
最高出力:221kW(300ps)/6000rpm
最大トルク:420Nm/3200rpm(6速MT:400Nm/3200rpm)
トランスミッション:EDC
駆動方式:FWD
タイヤサイズ:前後245/35R19
車両本体価格(税込):499万円(6速MT:489万円)
【問い合わせ】
ルノーコール
TEL 0120-676-365
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