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逃亡から1年半 カルロス・ゴーンは日産の救世主だったのか? それとも疫病神だったのか??

掲載 更新 25
逃亡から1年半 カルロス・ゴーンは日産の救世主だったのか? それとも疫病神だったのか??

 日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が国外逃亡してから1年半が経過しようとしている。一方、ゴーン氏の逮捕と前後して日産の業績は坂を転げ落ちるように悪化しており、2021年3月期は5300億円の最終赤字を見込む。

 日本社会は、好き嫌いで人材を判断したり、権力を持っているかどうかで評価を180度変える傾向が顕著であり、彼についてもそれがぴったりと当てはまる。

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 トップ就任当初は「V字回復」「カリスマ経営者」と過剰に持ち上げたかと思えば、逮捕後は、民主国家においては絶対的なルールである推定無罪の原則も一切無視で、犯罪者と決めつける暴力的な議論一色となった。

 筆者はゴーン氏ついて、特別に高く評価しているわけではないが、彼は、グローバル社会ではよく見かける強欲で、かつ相応の能力を持った経営者だと思っている。本コラムでは、彼が日産に何を残したのか考えてみたい。

文/加谷珪一(経済評論家) 写真/ベストカー編集部

【画像ギャラリー】カルロス・ゴーンが日産に残した名車をチェック

■経営が傾く会社の多くが過剰なコスト体質である

 日産は1999年に経営危機に陥り、仏ルノーの傘下に入った。日産の経営を立て直すためにルノーから派遣されたのが当時、ルノー副社長だったゴーン氏である。ゴーン氏は日産の事実上のトップに就任するや、徹底的なコスト削減を行った。経営学的に見て、経営が傾く会社のほとんどは過剰なコスト体質であり、日産もその例外ではなかった。

 肥大化した組織にメスを入れてコストカットを進めれば、短期的に業績が回復するのは自明の理であり、日産もすぐに利益が戻ったことから、日本社会はゴーン氏をカリスマ経営者と称えた。

トップ交代後、短期的に業績が回復。そして日本人はゴーン氏を「カリスマ経営者」と評価した

 だがトップ交代後、即座にコストカットを行うことは定石中の定石なので、ゴーン氏はプロ経営者として当たり前のことを行ったに過ぎない。これをもって「カリスマ経営者」と評価するというのは、その時点ですでに日本人は相当程度、感情に支配されていたことになる。

■ゴーン氏の高額報酬はフランスでは認められない

 ゴーン氏に対する評価が過剰であったことは、報酬に対する世間の反応を見ても分かる。

 ビジネスの世界において、相応の能力を持った経営者はたいてい強欲であり、ご多分に漏れずゴーン氏もそうであった。ゴーン氏は日産のトップに就任して以降、常に10億円近くの報酬を受け取ってきたが、同氏はルノーからはそれほど多くの役員報酬をもらっていない。

 ゴーン氏がグループ全体から受け取る報酬のうち大半は日産からであり、その理由は、フランスでは日本と同様、役員の高額報酬が批判されるからである。ゴーン氏は本国では到底許容されない高額報酬を、アジアの子会社である日産からもらっていたという図式であり、高額報酬=グローバルスタンダードではないのだ。

ゴーン氏はトップに就任して以降、10億近くの報酬を受け取っていたが、その大半は日産からである。日本人はグローバルスタンダード=高額報酬という感覚だった

 筆者は当時、執筆していたコラムで一連の事実を列挙した上で、「企業トップが高額報酬を受け取ることが必ずしもグローバルスタンダートは言えない」「ゴーン氏は報酬をもらいすぎ」と書いたが、「お前はグローバル企業の常識を分かっていない」などと猛烈な批判を受けた。日本では、グローバルスタンダード=高額報酬、という感覚だったようである。

■現在の日産の業績悪化の原因とは?

 短期的には教科書的な手法で業績を回復させたゴーン氏だが、長期戦略はどうだったのだろうか。

 ゴーン氏はリストラ実施後、シェア拡大に邁進し、結果的にルノー・日産・三菱連合は販売台数で世界トップ3の仲間入りを果たした。この数字を実現するため、米国では過剰な販売奨励金を積み増すなど、無理を重ねてきたのは事実だが、シェア拡大という戦略そのものは間違っていない。

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 自動車はEV(電気自動車)化という100年に一度の変革期を迎えており、産業構造の激変が予想されていた。

 EV時代になればクルマが一気にコモディティ化する可能性が高く、そのような市場においては、シェア拡大で規模のメリットを追求するしか生き残る方法はない(小さなニッチメーカーになるのであれば話は別だが)。

 グローバル市場のトップ3社だった独フォルクスワーゲン(VW)、ルノー・日産・三菱連合、トヨタが販売台数を重視していたのもそうした理由からである。

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 だがゴーン氏の逮捕と退任をきっかけに、日産の戦略は完全に逆回転を始めてしまい、今となっては会社の存続すら危ぶまれる状況となっている。

 ゴーン氏がシェア拡大に無理を重ねたのは事実だが、ゴーン氏が日産をダメにしたと言い切ることは難しい。その理由は、日産の業績が急降下したのは、ゴーン氏逮捕という非常事態に際して、日産経営陣が権力闘争に明け暮れ、オペレーションを放置したことが最大の原因だからである。

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 もし、ゴーン氏の追放に費やす時間を北米市場の立て直しなどに充当していれば、日産の業績はここまで悪化しなかっただろう。

■日産は常に経営権をめぐって内紛を繰り返している企業である

 だが筆者に言わせれば、経営そっちのけで内紛に明け暮れる日産経営陣の姿というのは、デジャブ(既視感)そのものである。

 若い読者の方は知らないかもしれないが、そもそも日産が経営危機に陥った最大の原因は、1980年代から続くトップの放漫経営と、主導権をめぐる内紛であった。

 しかも、異様な力を持った労働組合までもが経営に介入する状況であり(組合トップの塩路一郎氏は天皇と呼ばれていた)、当時の日産はまともな経営ができていなかった。

 こうした長年の放漫経営が90年代後半の業績悪化の要因であり、最終的にこれがルノーによる救済につながっている。つまり日産の歴史を知っている人からすれば、日産というのはずっと前からガバナンスが不全で、常に経営権をめぐって内紛を繰り返している企業である。ゴーン氏のトップ就任と追放劇も特別なことではないのだ。

 ゴーン氏が、こうした日産の社内体制を完全に変革できなかったという点においては、失敗だったということになるが、大胆なコストカットとシェア拡大、そしてEVシフトという戦略は、経営学的にはまっとうなものであった。

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 結局のところ日産は同じことを繰り返しているだけであり、ゴーン氏に対する評価というのは、それ以上でもそれ以下でもない。

■日産がダメになった本質的な原因は経営陣にあるといえる

 冒頭にも述べたが、ゴーン氏はグローバル社会ではよく見かける、強欲で、かつ、それなりの能力を持った経営者であった。経営者としてごく当たり前の人物を、過剰に評価したり、貶めたところで何も生み出さない。

 しかも、コーポレートガバナンス上、(社外役員も含めて)取締役は対等であり、全員に等しく経営責任がある(そもそもCEOの独裁を許してしまった段階で、取締役に課された善管注意義務を放棄していることになるが、日本社会ではこうした認識は薄い)。

 日産がダメになった理由は、まさに日産経営陣の無能さであり、株式会社である以上、最終的にはそれを放置した株主の責任ということになるだろう。

【画像ギャラリー】カルロス・ゴーンが日産に残した名車をチェック

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みんなのコメント

25件
  • 救世主半分、疫病神半分ってとこだろうな。

    『良くやった!』って思う事もあれば『てめぇコラ!』って思う事もあった。
    ゴーン政権が終わって振り返ってみても、かなり評価するのが難しい人だね。
  • 居なくなくなってよく分かったのはカルロスゴーンの経営手腕。実行力。
    なんだかんだ言っても日本人にはカルロスゴーンの代わりは務まらなかったでしょう。
    ただしカルロスゴーンがきてからというもの、オレの中から日産は消えて無くなりましたけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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