現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ヤマハ新型「MT-09」こだわり過ぎたかもしれない鋳造技術【ホイール編】

ここから本文です

ヤマハ新型「MT-09」こだわり過ぎたかもしれない鋳造技術【ホイール編】

掲載 更新 3
ヤマハ新型「MT-09」こだわり過ぎたかもしれない鋳造技術【ホイール編】

■3代目となった新型「MT-09」に採用されたヤマハ独自の鋳造技術とは?

 2014年にヤマハから新登場した直列3気筒エンジンを搭載するネイキッドモデルが「MT-09」です。2017年には2代目へ進化し、すべてを刷新した3代目を2020年に発表。ヨーロッパではすでにリリースが始まっています。

ヤマハ「YZR750」 ロードレーサー2スト最大排気量のモンスターマシン

 日本国内でのリリースもそう遠くはないでしょう。事実、様々なモデルが一堂に会するヤマハのコミュニケーションプラザ(静岡県磐田市)には、すでに展示してあるとの噂を聞き、早速現場へ行ってきました。

 コミュニケーションプラザに入って真っすぐ進むと、すぐに新型「MT-09」(欧州仕様)を見つけることができます。グレーを主体としたボディに蛍光オレンジのホイールが組み合わせられ、抜群の存在感を発揮。そしてなにより、LED一灯のフロントマスクが凄みを効かせています。

 もちろんデザインだけが新型のトピックではありません。初代から2代目はビッグマイナーチェンジと言える内容でしたが、今回は車体もエンジンも完全に新設計となり、ヤマハとしても気合が違います。

 3気筒エンジンの排気量は846ccから890ccに引き上げられた一方、車体全体で4kgの軽量化に成功するなど、まったくの別モノへ生まれ変わっているのです。

 ホイールとメインフレーム、そしてエンジンには、ヤマハ独自の鋳造技術が盛り込まれ、それまでは不可能だった軽さと強さを実現しているとのこと。試乗はもう少し先のことになりそうなので、開発担当の方々にそのあたりの話をじっくり伺ってきました。

■鋳造ホイールでありながら、鍛造に匹敵する強度と靭性

 新型「MT-09」の注目ポイントは、まずホイールです。「ヤマハスピンフォージドホイール」と名づけられたそれは、薄く、強く、それでいてしなやかな特性を目指したもの。従来モデルでは3.0mmだった厚み(リム部分)が2.0mmになり、重量も前後併せて700g軽くなっているそうです。

「フォージド」には「鍛造」という意味があるのですが、実際には溶けたアルミ合金を金型に流し込んで固める「鋳造」という製法が用いられています。

 では、なぜ鍛造という言葉が使われているのか? そのカギを握っているのが、「スピン」という言葉で、金型から取り出したホイールの原型をスピンさせる、つまり回すというひと手間が加えられているのです。

 この工程は壺の形を整える時のろくろをイメージしてもらうといいでしょう。粘土にくびれを付けるのと同様、回転しているホイールに円盤を押し当て、ホイールのリム部分を薄く引き伸ばしていくのです。もちろん、単に薄くしただけでは強度が落ちますが、その時に大きな圧力を掛けることによってアルミ合金の組織が変化。結果的に限りなく鍛造に近い性質になるそうです。

 この技術は「フローフォーミング」とも呼ばれ、4輪ホイールでは以前から存在します。とはいえ、リムの幅が太く、車体に装着してしまえば外から見えない4輪とは異なり、2輪はリムもスポークも細く、さらには部位の大半が目に触れます。それゆえ、繊細な加工を要し、技術の転用が難しかったのです。本来なら最初の鋳造でほぼ完成させ、あとはバリ取り程度で済めば手間もコストも掛からないはずですが、ヤマハはバイクにとって重要な軽さを追求。それが2輪唯一のスピンフォージドホイールという製法の実現につながったのです。

 こうしたホイールの技術革新は、ヤマハにとって初めてのことではありません。そもそもバイク用ホイールをアルミ合金の鋳造で作るというアイデアを具体化したのがヤマハに他ならず、1978年に登場した「XS750」(1976年の初期モデルはワイヤースポーク)や「SR400/500」に採用されました。前例がなかったため、強度や耐久性を含めた新しい試験規格の構築にも関与。2輪界の安全性向上に大きく貢献したのです。

 近年では、2015年に登場した「YZF-R1/M」のマグネシウムダイキャストホイールも話題になりましたし、2019年には「ナイケン」のリアホイールが日本鋳造工学会の「キャスティング・オブ・ザ・イヤー」を受賞。2輪を足元から支えているのです。

 また、こうした製法には原材料の工夫も欠かせません。アルミ合金とはその名称の通り、様々な成分が合わさっています。アルミホイールの場合、およそ10種類前後の合金から成り、それらの比率をコンマ数%刻みで変えたり、加える熱も数度ずつ上下させて性能を出していくというから、なかなか気の遠くなる話です。

 ヤマハがそれをできるのは、社内で一括管理していることが挙げられます。というのも、ホイールはサプライヤーに委託しているメーカーが多い中、ヤマハは開発から設計、製造に至るまで、そのほとんどを内製で完結。自由度の高いモノ作りを可能にしているというわけです。

 ところで、そこまでこだわって「たった700g軽くなるだけなの?」と思う人もいるでしょう。しかしながら、高速で回転し続ける前後ホイールの700g差は絶大です。それを体感するため、疑似的なアクスルシャフトにホイールを装着し、それを回転させた状態で手に持たせてもらいました。

 コーナリングをイメージして左右に動かすとより顕著なのですが、スピンフォージドホイールが軽く傾けられるのに対し、先代「MT-09」のホイールにはズシリとした手応えがあり、大きく振るにはかなりの力を要します。ホイールを手で軽く回した程度ですから、実際のスピードに換算するとせいぜい20km/h程度のことでしょう。それなのにこれほどの違いがあるということは、高速域になればなるほど、ハンドリングに差が出ることが容易に想像されます。

 アフターパーツのホイールなら数十万円のコストが掛かるのは間違いなく、スピンフォージドホイールはメーカーが最初からチューニングパーツを組んでくれているようなもの。新型「MT-09」を目にした時は、まず足元をじっくり眺めてみてください。

 次回はフレームに関する情報をお届けします。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
ベストカーWeb
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
Auto Messe Web
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
AUTOSPORT web
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
AUTOSPORT web
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
AUTOCAR JAPAN
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
乗りものニュース
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
motorsport.com 日本版
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
AUTOSPORT web
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
AUTOSPORT web
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
AUTOSPORT web
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
くるまのニュース
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
AUTOSPORT web
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
AUTOCAR JAPAN
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
Auto Messe Web
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
AUTOSPORT web
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
AUTOSPORT web
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
VAGUE

みんなのコメント

3件
  • ピアノのメインフレームに使われてる技術。
  • 性能や装備は多分素晴らしいで間違いないんでしょうけど、見た目が。。
    MT-25のが格好いいな(主観
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村