オーバーフェンダーやエアロパーツはお役所からの規制でわずか4年で消滅
日本は、東京オリンピックが開催された翌1965年より57カ月続いた”いざなぎ景気”と呼ばれる好景気に後押しされ、自動車は目覚ましい進歩を遂げた。当然のことながらスポーティモデルが登場し、その象徴ともなったのが幅広いタイヤを収めるために装着された「オーバーフェンダー」。エアロパーツも登場し、まさに国産車が輝いていた時代だった。しかし、お役所の身勝手な解釈で禁止されてしまった暗黒の時代を迎えるまで、輝きを放っていたスポーティモデルを5車種ピックアップ!
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1960年代後半から排ガス規制が厳しくなる1973年頃まで、高度経済成長の追い風を受け、日本車は元気いっぱいだった。積極的に高性能エンジンを積み、デザインも大きく変わっている。スポーツモデルの主役は2ドアクーペに移り、センターピラーレスの2ドアハードトップも一気に増えた。エンジンもOHVから、より高回転型のSOHC、さらにはカムシャフトを2本備えたDOHCも登場する。
そして高性能モデルは、タイヤやホイールをワイド化して安定性とグリップ性能を高めたいから、モデルチェンジを機に全幅を拡大。が、それが叶わないクルマは、フェンダーのホイールアーチ部分に三日月型のカバーを被せ、太いタイヤを履けるようにした。フェンダーにビスやリベットでカバーを留めたのがオーバーフェンダー。日本で最初に装着したのは、1970年秋に登場した日産スカイラインのハードトップGT-Rである。リアにだけオーバーフェンダーを装着したのだ。だが、1970年代前後は、交通事故による死亡事故が多く、安全性の向上も叫ばれていたときだったのだ。その影響からオーバーフェンダーやスポイラーは暴走行為を助長する装備だと問題視されてしまう。お役所もオーバーフェンダーやエアロパーツを認可しなくなり、わずか4年ほどで消え去った。
1980年代になると、オーバーフェンダーに代わってブリスターフェンダーが登場。これはフェンダー全体を外側に膨らませたもので後付け感がなく、空気抵抗の影響も少ない。ブリスターフェンダーは、R32以降のスカイラインGT-Rやフェスティバ、インプレッサWRX STIなどが採用した。
そんなわずか4年間に登場したオーバーフェンダーを装着した5モデルを紹介しよう。
日産スカイラインGT-R
1970年10月、サーキットで勝つために誕生した日産スカイライン2000GT-Rは、空力性能やハンドリングを向上させるためにそれまでの4ドアセダンボディから2ドアハードトップボディをまとった。背を低くしただけでなく、ホイールベースも70mm短縮。また、ワイドタイヤを履けるようにリアフェンダーに樹脂製のオーバーフェンダーを被せた。サーフィンラインを断ち切り、フェンダーを広げたことにより全幅はそれまでより55mm広い1665mm。もちろん、心臓は日本で初めてDOHC4バルブを採用したS20型直列6気筒だ。1973年1月、2代目のスカイラインGT-Rが登場。精悍なメッシュグリルや4輪ディスクブレーキ、リアスポイラーなどとともに目を引いたのがオーバーフェンダーだった。全幅は1625mmから小型車枠いっぱいの1695mmに広げられ、前後のトレッドも45mmずつ拡大。もちろん、ワイドタイヤを履けるようにするためである。が、ケンとメリーをベースにした2代目のスカイラインGT-Rは排ガス対策を理由に早々に生産が打ち切られ、サーキットにはその勇姿を見せていない。
三菱ギャランGTO&FTO GSR
スペシャルティカーのジャンルを、トヨタのセリカとともに開拓したのが三菱のギャランGTO。ウエッジシェイプにファストバック、そしてヒップアップテールのアグレッシブなデザインで、フラッグシップは1.6リットル4G32型・直列4気筒DOHCエンジンを積むギャランMR(下の写真)だった。だが、排ガス規制を理由に、1973年にMRは消滅。代わって主役の座に就いたのが2000GSRだ。エンジンは、アストロンのニックネームを持ち、SUツインキャブで武装した2リットル4G52型・4気筒SOHCである。2000GSRはリベット留めのオーバーフェンダーを装着し、全幅は75mm広い1655mmとした。トレッドもフロントは45mm、リアは30mm広げられ、タイヤも当時としてはワイドで低扁平の185/70HR13ラジアルタイヤを履く。1975年2月、GTOはマイナーチェンジ(下の写真)を行ったが、このときにGSRはオーバーフェンダーを失った。お役所から、若者の暴走を助長するから外してほしい、と言われたのだ。フロントマスクを化粧直しし、バンパー下にエアダムスカートを装備したのが1975年以降のGTO2000GSRである。タイヤは10mm細くなり、見た目の迫力は薄くなった。
また、GTOの弟分として登場したギャランクーペFTOも、1973年3月のマイナーチェンジのときにホッテストバージョンの1600GSRを投入している。
基本メカニズムはランサーと同じだが、GSRはオーバーフェンダーを装着し、タイヤも当時は超偏平・高速型ラジアルタイヤと言われた175/70HR13サイズとした。また、カラーバンパーやハードサスペンション、リミテッドスリップデフもGSRだけの専用装備だ。
日産フェアレディZ 240ZG
世界中で大ヒットし、スポーツカーの歴史を変えてしまった名車がS30型と呼ばれる初代のフェアレディZ。日本では2リットルエンジンのモデルが発売された。が、海外では2.4リットルのL24型・直列6気筒SOHCを積む240Zを販売している。国内発売を希望するファンが多かったため、1971年11月に販売を開始した。3グレードが用意されたが、日本専用モデルとして投入されたのが240ZGだ。グランド(G)ノーズと呼ばれるノーズピースを付け、鼻先は190mmも長い。また、4輪にオーバーフェンダーを装着し、全幅を60mmも拡大。精悍なルックスの240ZGは、Z432が積むS20型エンジンよりパワーバンドが広く、実用域のトルクも厚みがあった。だからサーキットでも速い走りを見せている。
トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ(TE27型)
トヨタを代表するコンパクトカーのカローラは、いつの時代もワイドバリエーションを誇る。軽量な2ドアクーペのボディにパワフルな1.6リットルの2T-G型直列4気筒DOHCエンジンを積んだスパルタンモデルがカローラレビンだ。鮮烈なデビューを飾るのは1972年3月である。また、兄弟車のスプリンターにもトレノと呼ぶ硬派スポーツを設定。
レビンとトレノの型式は「TE27」で、サスペンションをハードなセッティングにするとともにリベット留めのFRP製オーバーフェンダーを装着。全幅は1595mmと、他のカローラより90mmも広い。また、タイヤとホイールのサイズも変更した。
1400SRより0.5J幅広の5Jホイールを採用し、タイヤは175/70HR13サイズだ。スタビライザーもSRは19mmφだが、レビンと21mmφの大径タイプになる。ボール循環式ステアリングも16.1と、クイックなギア比とした。その年の8月、カローラとスプリンターはマイナーチェンジを実施している。このときレビンとトレノはオーバーフェンダーのビスの取り付け穴の形状が丸からU字型に変更された。1973年4月にはオーバーフェンダーをスチール製にするとともに、形状も変更する。前輪のオーバーフェンダーは、前側がメッキバンパーより下になるなど、大型化された。
日産チェリーX-1・R
前輪駆動のFF方式をいち早く採用したコンパクトカーが日産のチェリーである。1970年代のシビルカーを目指して開発され、デザインも大胆だった。正式発表は1970年9月で、2ドアと4ドアのセダンだけでスタート。だが、1年後の1971年9月にプレーンバック・スタイルの個性的なファストバッククーペを投入した。そして1973年3月、クーペX-1・Rを送り込んだ(写真はクーペX-1)。最大の特徴は、4輪にオーバーフェンダーを配していることである。ツーリングカーレースで活躍しているチェリーのイメージをオーバーフェンダーで表現した。この時代の日産車で、オーバーフェンダーとRのエンブレムを付けていたのは、このX-1・RとスカイラインGT-R(C110型ケンメリ)の2台のみだった。ちなみにチェリーX-1・Rのパワーユニットは、1171ccのA12型直列4気筒OHVで、SUツインキャブとの組み合わせだった。
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