もくじ
ー 変わる存在意義
ー 6月開催へ クルマのお祭りに
ー 目指すはグッドウッド
ー 番外編1:デトロイトの栄光と挫折
ー 番外編2:今年の話題
コンパニオン大特集(12) 東京オートサロン2019 画像71枚
変わる存在意義
自動車産業の未来を映し出してきた主要なモーターショーだが、近年はその存在意義を問われる事態に直面している。
活気を失った会場の真ん中に巨費をかけたステージを設置して、ただクルマを展示するようなやり方を改め、各メーカーはコストを抑えた方法で独自のイベントを開催したり、インターネット経由で直接消費者と繋がることを選ぶようになってきている。
1907年の初開催以来、長きに渡ってデトロイト・モーターショーは米国自動車産業にとってもっとも重要なイベントであり続けてきた。しかし、この街を象徴してきた自動車業界の地位低下が進むにつれ、北米国際オートショーの正式名称を持つこのモーターショーからも活気が失われつつあり、今年デトロイトで発表された新型モデルは、1年前の69台に比べ、わずか30台ほどに留まっている。
米国自動車産業の中心地であるにもかかわらず、国際的な自動車メーカーのデトロイト離れは進んでおり、主要欧州メーカーとしては唯一フォルクスワーゲンだけが新型モデルを発表しているが、それも米国市場専用のパサートだった。
一方、メルセデス・ベンツはより多くの集客が見込めるとの理由から、同じ月の初めにラスベガスで開催されたCESを新型CLAデビューの場に選んでいる。
「過去10年、技術の変化によってメーカーと消費者の行動様式が変わりました」とデトロイト・モーターショーの代表を務めるダグ・ノースは言う。「新型モデルを発表するのに、これまでとは違ったやり方を採用するようになっているのです」
6月開催へ クルマのお祭りに
ノースたちはショーを盛り上げようと、3年前には未来の自動車世界を探るためのAutomobili-Dというイベントを立ち上げているが、2020年にはさらに大胆な変化を予定している。
112年前の初開催以来、デトロイト・モーターショーは冬が舞台であり続けて来たが、それが6月開催へと変更されるのだ。この開催時期の変更は、さらに新型モデルの発表数を減少させることになるだろうが、一方でショーにはクルマをテーマにしたお祭りという新たな役割が与えられることになる。
平均気温が1月の-7℃に対して21℃となる6月であれば、コボ・センターに隣接する0.05km2の屋外会場も利用でき、ライブ中継やデモ運転、さらには音楽コンサートといったさまざまな催し物も可能になるだろう。
ノースはこの開催時期の変更を、1989年に国際モーターショーのひとつに位置付けられて以来の、「もうひとつの進化」だとしている。
さらに、ノースはこのスケジュール変更によって、来場者がよりショーを楽しめるようになるとともに、出展者である各メーカーはより消費者とつながることができるようになるはずだとしている。
「会場内での展示だけでなく、実際にクルマを走らせたりすることもできるようになります」と彼は言う。「これまで不可能だったことが可能になるのです」
開催期間は2日間短くなり、準備期間も大幅に短縮されることで、出展者側のコスト負担も抑えることができる。
目指すはグッドウッド
大掛かりな展示とデモ運転、お祭りのような雰囲気といったものは、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを意識したものだろう。コボ・センターはデトロイトのウォーターフロントと再開発が進むダウンタウン地区に隣接しており、ノースはこの場所がグッドウッドの会場と同じような刺激に満ち溢れたものになることを望んでいる。
「いま各メーカーに対しては、通常のブースから水辺やダウンタウンの広場に面した屋外ステージまで、さまざまな選択肢を提案しています」と彼は話している。
新たなスケジュールは、モーターショーと街の関係の変化も反映しているようだ。当初、モーターショーは観光の閑散期にひとびとを集めるための手段だったが、デトロイト市が苦境に陥ると、このイベントは街を象徴するものとして復活の希望となっていった。
1月開催としては最後のデトロイトとなった今回のショーでは、メルセデスとBMWといった欧州メーカーが出展を取りやめた場所で、フォードとキアがパッセンジャーシートへの同乗可能なデモ走行を行うなど、その将来のヒントをいくつも目にすることができた。
「1907年に開催された最初のショーは公園で行われました」とノースは言う。「60年後、会場のフロアにはカーペットが敷き詰められるようになっていましたが、今回もモーターショーの進化に過ぎないのです」
番外編1:デトロイトの栄光と挫折
先を見通すのは難しい。今思えば、1989年以来「国際」モーターショーとなったデトロイトの台頭は、自動車デザイン界におけるリーダーとしてクライスラーの短い栄光と、ふたりの大物、社長のボブ・ルッツとデザイン責任者、トム・ゲールの個人的な影響力とが密接に関連していた。
当時すでにデトロイトは海外メーカーにとって魅力的な新型モデル発表の場ではあったが、1988年にダッジがヴァイパー・コンセプトを提案し、翌年のデトロイトでその実車を公開したことで、米国デザイン黄金時代の幕開けを告げている。
ゲール擁するクライスラーは、その後、ホットロッドのプロウラーや独創的なPTクルーザー、強い影響力を誇った数多くのコンセプトモデルなどを発表し、その勢いは「世紀の合併」と呼ばれた1998年のダイムラー・クライスラー誕生でさらに加速している。
その結果、ダイムラー・クライスラー誕生に刺激を受けたGMとフォードも、独自デザインを創り出すべく持てる力を総動員している。そして市場が活気づき、その後しばらく海外メーカー勢(そのなかには米国工場の立ち上げに苦労しているところもあった)も加わることで、デトロイト・モーターショーは活況を呈することになったのだ。
だが、2008年にはリーマン・ショックの影響からその勢いに陰りが見え始め、ダイムラー・クライスラーが破綻を迎えると、急激な市場の収縮がクライスラーとGMを政府救済へと追い込んでいる。
こうした状況が海外メーカーのデトロイト離れに繋がり、以来、デトロイト・モーターショーは守勢に立たされている。
スティーブ・クロプリー(AUTOCAR英国編集長)
番外編2:今年の話題
今年のスター 豊田章男トヨタ社長
今回のデトロイトにおけるスターは、新型スープラの記者発表の場でクラシックモデル登場のホスト役を務めたトヨタ社長の豊田章男氏で決まりだ。
事前に多くの情報が飛び交っていたスープラについて「自動車業界でもっとも秘密を守れなかった新型モデルの1台」と表現しつつ、「このクルマはヤバいとのことですが、息子によれば、それは最高のモデルだということを意味しているようです」とも語っている。
マヒンドラ
デトロイト初出展となるインドメーカーのマヒンドラは、インド産オフローダーのロクサーを展示していたが、このクルマはジープに酷似しているとのことで、いまFCAとの間で係争の種となっている。
さらにデトロイトで生産されているMPVのマラッツォも展示されていたが、マヒンドラはこのクルマを「世界基準」のモデルだと強調しながらも、現在インドでしか購入できない。
レクサスLC コンバーチブル
デトロイトで発表されたレクサスLC コンバーチブルは公式にはコンセプトカーだとされているが、いま直ぐにでも量産可能な仕上がりを見せていた。
レクサスの米国トップを務めるデビッド・クリストはこのコンセプトモデルの完成度の高さには触れずに、「慎重に検討された素晴らしいコンセプトモデルです。見事なデザインですが、現時点でお知らせできる計画はありません」と話している。それでも、2020年には量産バージョン登場が予想されている……。
インフィニティQX インスピレーション
決して子供や動物、そしてコンセプトモデルの仕事をしてはいけない。
多くの期待とドラマチックな音楽に続いて華々しく登場するはずだったEVコンセプトのインフィニティQX インスピレーションだが、メカニカルトラブルによってその姿を現すことはできなかった。
その結果、インフィニティでデザイナーを務めるカリム・ハビブは、その場に存在しないモデルのデザインについて、集まったひとびとに話すハメになったのだ。
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