F1ドライバーの心を揺さぶるもの
執筆:Damien Smith(ダミアン・スミス)
【画像】ネオクラシックな2シーター【ラドフォード・タイプ62-2を写真で見る】 全12枚
翻訳:Takuya Hayashi(林 汰久也)
ジェンソン・バトンは、そのシルクのように滑らかなドライビングスタイルから、F1時代にはアラン・プロストと比較されていた。
2009年のワールドチャンピオンであるバトンは、米カリフォルニア州の自宅近くにあるコーチビルダー、ラドフォード社の復活に貢献した。ラドフォードはもともと、英国の伝説的なコーチビルダーだった。
ラドフォードが先日英国でデビューさせたロータス62-2の展示会で、バトンはAUTOCARに対しこう語った。「わたしにとってエキサイティングなことは、ゼロからクルマを開発することです」
「アイルトン・セナはホンダのNSXでそれを実現しました。F1ドライバーで市販車の開発にきちんと関わったのは彼だけです」
「クルマやパーツに名前が付けられたドライバーはいたでしょう。しかし、クルマの製造に実際に関わり、情熱を持った人々と一緒に仕事をすることは、とても素晴らしいことです」
ジェンソン・バトンは多忙な男である。モーターレースの最高峰であるF1に18シーズン在籍した後、2017年末にF1を引退してからは、日本のスーパーGT、ル・マン、バハ1000など、様々な経験をしてきた。現在は、自身のエクストリームEチームを運営し、ウィリアムズF1のコンサルタントを務め、F1のグランプリ中継を担当するなど放送業界にも精通している。しかし、彼の心を揺さぶっているのはラドフォードなのだ。
「F1は年に9回、3日間の仕事があります」と語るバトンは、英国に滞在する際には、グローブにあるウィリアムズの拠点を訪れることもある。
「他にもいろいろあります。でも、子供たちとあまり離れたくないので、これ以上F1のことはやりたくないですね。ラドフォードのオフィスは、わたしが住んでいるところから道を下ったところにあり、天気の良い日には45分、悪い時には2時間かかります」
「本当に夢中になれる仕事です。自分がこのプロジェクトの一部であると感じられ、このプロジェクトの行く末に大きな影響をもたらすことができるのです」
車両デザインにも大きな影響力
バトンは、友人であるテレビ司会者のアント・アンステッドを通じてラドフォードの共同設立者となった。2人は、カーデザイナーのマーク・スタッブス、ビジネスや法律面でのブレーンであるロジャー・ベイルとパートナーを組んでいる。
当然のことながら、ジェンソンはテストドライバーとして重要な役割を担っているが、彼が与える影響はそれだけではない。アンステッドは次のように述べている。
「彼は大きな影響力を持っています。ある晩、わたし達はWhatsApp(メッセンジャーアプリ)でグループチャットをしていました。わたし達がクルマの後部をデザインしたところ、彼が写真を送ってきて、『だめだ、もっと低くしてくれ』と言ってきました。翌日、実際に会って話し合った結果、彼の案を採用することにしたんです」
バトンは、「(デザイナーの)マークの良いところは、わたし達の意見を受け入れてくれることです」と語る。「彼が同意するかどうかは別の話ですが……」
62-2のサイドミラーやダックテールのリアウイングなどにはバトンの意見が反映されており、彼はこれが単なる見せかけではないと主張する。
「当初はどちらかというと『ブレッドバン』のようなデザインで、ウイングがないと後部が四角くなりすぎて、ロータス・ヨーロッパのようなスタイルになってしまいました。ダックテールは、ディフューザーと同様にダウンフォースを与えます。このようなクルマには必要なのです」
62-2は、ロータス・エキシージのデザインデータを使用して製作されている。バトンが言うように、1960年代のオリジナルのロータス・タイプ62に敬意を表した、クリーンでモダンなデザインだ。
「マークの最初の図面を見ると、オリジナルカーであるロータス・タイプ62が凝縮されていました。昔のクルマに似ているものを、今の時代に合わせて作るなんて、デザイナーは一体どうやっているんでしょうか」
「このクルマは時代を超越しています。20年前にも使えたでしょうし、見た目の面では20年後にも使えるでしょう。しかし、1960年代のような外観ではありません」
誰かのためにクルマを作ること
この2シーター・クーペは、ロータスの新型エミーラと同様に、トヨタ由来の3.5Lスーパーチャージャー付きV6エンジンを搭載し、6速MTまたは7速デュアルクラッチを選択できる。
仕様は、伝統的なブリティッシュ・レーシング・グリーンの「クラシック」(最高出力436ps)、1968年にチーム・ロータスが採用したタバコブランドの赤・白・金のカラーリングを施した「ゴールドリーフ」(最高出力507ps)、そして黒地に金のトリムを添えた「ジョン・プレイヤー・スペシャル」(最高出力608ps)の3種類。
生産台数はわずか62台で、アンステッドによれば、そのほとんどがすでに販売されているという。来春には納車が開始される予定だ。
バトンによるテストコースでの作業が残っているため、今のところパフォーマンス数値は公表されていない。彼は性能について、次のように述べている。
「最高速度のストレートライン・テストを行っていないので、(パフォーマンスが)どうなるのかはわかりません。でも、608psで1000kgの車重であれば、かなりハイレベルになるでしょうね」
今、モータースポーツに人生を捧げてきた男の想像力を真にかきたてているのは、市販車の開発だ。彼は米国で最も混雑するフリーウェイの1つを指して、「わたし達はいつも、405号線でうまく走ればどこでも走れると考えています」と話す。
「市販車の開発は、レースカーの開発よりもエモーショナルです。というのも、誰かのために何かを作っているという感覚があるからです。それだけでなく、自分も1台持つことになるんですよ」
「誰かのために開発しているのだから、運転しやすいものでなければなりません。レーシングカーのようにセッティングしたら、誰もが気に入るとは限らないし、へとへとに疲れてしまうかもしれません」
「レーシングカーは非常に尖っていて、乗用車ではありえないような特性を持っているので、本当の意味でのバランスが必要なのです。62人の幸運な人々のためにこのクルマ開発しているということを理解することが大切なのです」
次のモデルはすでに決まっている
ラドフォード社は1948年にハロルド・ラドフォードが英国で設立し、ビートルズのためにミニを製作するなどして名を上げたコーチビルダーだ。顧客の「贅沢」な要求に合わせてクルマをカスタマイズする。同じクルマは2台とない。
カリフォルニアで生まれ変わってから初めて作られた62-2は、非常に限定的なモデルであるが、ラドフォードは埃をかぶった過去の名前を復活させることには意味があるとしている。また、新たなパートナー企業との共同開発も予定されている。
「次のパートナーはすでに決まっていて、クルマはほぼ完成しています」とアンステッドは言う。
「スポーツカーではありませんが、非常にエキサイティングで、気に入ってもらえると思います。来年の第1四半期に公開される予定で、3台目と4台目もすでに決まっています」
しかし、気候変動の脅威により世界はめまぐるしく変化し、規制がますます厳しくなる業界にいることは、エクストリームEに参加しているバトン自身がよく知っている。EVのパワートレインはどうなるのだろうか?
「可能性はあります!」と、バトンは得意の満面の笑みで言う。
「今はわたし達にとって、初めて内燃機関を搭載したクルマを手に入れたことに興奮しています。このクルマのサウンドは非常に素晴らしいものです。しかし、将来的には誰もがEVやバイオ燃料、水素を利用するようになるでしょう」
「OEMメーカーも当然その方向に進みたいと思っています。将来的には、わたし達だけがEVメーカーになるわけではありませんよ」
ジェンソン・バトンは人生を謳歌している。長年にわたってF1ライフを楽しんできたバトンは、今では献身的な家庭人であり、カリフォルニアの新居を気に入っている。
引退後はさまざまなチャレンジを経験してきたが、ラドフォードでは、その大きなエネルギーを向けるべき場所を見つけたようだ。彼の興奮は伝染しやすい。問題は、完成したクルマがどのように走り、どのように評価されるかということだ。彼は誰よりもそれを知りたがっている。
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みんなのコメント
こういうこともやってたのね