人間にとって名前は大事だ。クルマも同じで、ネーミングによって印象は大きく変わる。「名は体を表わす」のことわざからわかるように、名前はそのものの実体を表わしているのだ。名前は、人の人生やクルマの盛衰に大きな影響を与えている。
名前によって、クルマの売れ行きが変わることは珍しいことではない。だから売れ行きが今ひとつだったり、イメージが弱いと感じたときは、俳優や役者と同じようにクルマも改名を断行する。
【志は高かった! しかし…】 かわいそうなクルマ辞典 「狙い」がかわいそう編
特に長い伝統を誇るクルマは、性格を変えたいときに改名することが多い。だが、リスクも大きいから、伝統の車名に違うネーミングを加えるのだ。
その代表がトヨタのコロナで、1990年代にコロナプレミオと改名し、現在はプレミオを名乗っている。車名を変えたことによって販売が伸び、成功したクルマは少なくない。だが、逆に次のネーミングが浸透しないで、販売台数が激減したクルマもある。
そこでネーミングを変えて成功したクルマと失敗したクルマ、その両方を3台ずつ合計6台選び、その理由を考察してみた。
文:片岡英明/写真:MITSUBISHI、ベストカー編集部
車名を変更して成功したクルマ3選
■トヨタスターレット→ヴィッツ→さらにヤリス!?
トヨタのボトムを担うスターレットは、パブリカの後継として登場し、最初はパブリカ・スターレットを名乗っている。その後、パブリカの名前を消した。
スターレットは軽快な走りと扱いやすさがウケ、エントリーカーとして好評を博した。が、ユーザーの上級志向に押し切られ、1990年代には影の薄い存在となっている。
そこで21世紀を前に後継車の開発に乗り出し、1999年1月に新世代スモールカーの「ヴィッツ」を送り出した。
スターレットは日本市場をメインとしたスモールカーだったが、ヴィッツは激戦区のヨーロッパでも多くの販売を見込んだ国際戦略車だ。だから開発には気合いが入っていたし、走りの質も大きくレベルアップしていた。
デザインに新しさがあったことも追い風となり、日本だけでなくヨーロッパでもクリーンヒットを飛ばしている。このヴィッツ、海外でのネーミングは「ヤリス」だ。
現行モデルでトヨタはWRCに復帰した。マシンの車名はヴィッツWRCではなくヤリスWRCである。日本でも名前が知られてきたから、次期モデルは「ヤリス」に改名か!?
■マツダファミリア→アクセラ→MAZDA3
マツダは2020年に、創業から100年の節目を迎える。三輪トラックの分野で順風満帆に業績を伸ばしていったマツダ(当時は東洋工業)は、戦後の1960年に軽乗用車のR360クーペを発売した。
これに続いて質の高い乗用車の開発に乗り出し、ファミリアを投入している。ファミリアは安定した売れ行きを見せ、1980年にはFF方式に転換した。電動サンルーフやラウンジシートを採用した4代目のBF型ファミリアは若者を中心に大ヒットし、街の景色を変えている。
海外ではマツダ323を名乗り、販売も堅調だった。
だが、1990年代には神通力を失い、ファミリアは迷走する。提携していたフォードとのしがらみもあり、つまらないクルマになってしまったのだ。マツダは、生き残るために革新的な乗用車を出す必要に迫られた。そこで設計コンセプトを大きく変えるとともに車名も一新している。
21世紀のコンパクトファミリーカーとして2003年秋に登場したのがファミリアの後継となる「アクセラ」だ。デザインだけでなくメカニズムも大きく変え、真の国際商品に成長した。
このアクセラ、海外ではMAZDA3を名乗っている。
そこで間もなく日本デビューを果たす(編集部註:4月12日正式発表)次期モデルはMAZDA3に車名が変更されデビューすることが決まっている。
ただ懸念がないわけではない。これまでマツダは、アルファベットや数字を使ったクルマの売れ行きは今一歩の販売にとどまっている。さて次期モデルは!?
■三菱エアトレック→アウトランダー
ジープを日本で生産していた三菱は、そのノウハウを駆使してクロスカントリー4WDのパジェロを開発し、送り出した。
そして1990年代にはパジェロ一族を増やしている。舗装路でも快適なクロスオーバーSUVの分野にも早い時期に参入した。ヒット作となったRVRに続いて市場に放ったのがエアトレックだ。
21世紀になった2001年6月、三菱はパジェロの下のポジションにエアトレックをラインアップし市場に送り出している。
だが、アクの強いフロントマスクは不評だった。また、SUVとしてもワゴンとしても中途半端な性格が災いし、販売は低迷してした。
このエアトレック、北米では「アウトランダー」を名乗っている。その後継は新世代プラットフォームを採用し、2005年秋にベールを脱いだ。車名は海外向けと同じアウトランダーである。
ルックスがいいだけでなくメカニズムも洗練されていたから日本でも海外でもヒット作となった。その2代目は、12年12月にプラグインハイブリッドのアウトランダーPHEVを加え、新しいユーザー層を取り込むことに成功している。
名を変えたことが功を奏した代表モデルである。
車名を変更して失敗したクルマ3選
■日産セドリック/グロリア→フーガ
20世紀、日産を代表するプレミアムセダンはセドリックとプリンス系のグロリアだった。どちらも長い歴史を誇り、クラウンとともに日本のモータリゼーションを牽引している。4ドアハードトップや高性能セダンのブームを築いたのも、このセドリックとグロリアだ。
が、日産の経営が行き詰まりを見せ、ルノーの援助を受けるようになると新社長(当時)のカルロス・ゴーン氏は、この兄弟車を切り捨てた。そして新しい車名を付けている。それが2004年10月に登場した「フーガ」だ。車名は日本語の『風雅』に由来する。
ドライバーズカーの頂点に位置するプレステージ性の高いプレミアムセダンで、エンジンはV型6気筒DOHCを搭載した。新世代プラットフォームを採用し、サスペンションにもこだわったから走りの質も高い。
日本より北米を意識して開発され、海外では「インフィニティM」を名乗っている。最初は売れたが、すぐに販売は落ち込んだ。
2009年11月には2代目フーガが登場する。途中で独創的なハイブリッドシリーズを投入したが、燃費ではクラウンにかなわなかった。日本より海外を向いて開発されたクルマで、ボディも半端なサイズではなかったから敬遠する人も多かった。
セドリックとグロリアの名前を継承したほうが、昔からの日産ファンを取り込めたはずだ。残念!!
■マツダボンゴフレンディ→ビアンテ
ボンゴフレンディは、長い歴史を誇り、日本にワンボックスのレジャーカーを根付かせたボンゴの流れを汲むセミキャブタイプのミニバンである。1995年6月に誕生し、アウトドアブームを追い風にヒットを飛ばした。
自慢は、小型車枠のボディサイズに抑えながら上級クラス並みの広いキャビンスペースを実現していることだ。また、オートフリートップと呼ぶハイルーフ仕様もオートキャンプ派を魅了した。フラットフロアに就寝できるだけでなく、ルーフを跳ね上げると大人2人がラクに寝られるスペースが出現する。
ロングセラーを誇り、絶版となった後も中古車市場で人気が高かった。
が、マツダはボンゴフレンディのコンセプトを受け継がず、新しいミニバンを2008年に送り出す。それが「ビアンテ」である。このクルマも個性が強く、キャビンも広かった。シートアレンジのバリエーションも豊富だったが、強い存在感を放つ顔立ちは好き嫌いがわかれている。
また、スポーティではあったが、環境性能も中途半端だったからヒット作にはならなかった。車名もボンゴほど浸透せず、ビアンテは静かにミニバン市場から姿を消している。
■三菱ギャラン→ギャランフォルティス
三菱の屋台骨を支えたファミリーカーが1969年に登場したギャランだ。当時はブルーバード(510型)の全盛期だったが、ウエッジシェイプデザインのギャランは互角に渡り合い、その名を多くの人に知られた。
1970年代には兄貴分のギャランシグマを投入し、三菱を代表するファミリーカーにのしあがる。そして1980年代にはハイテク、ハイメカを満載し、ギャランの名声を不動のものとした。
傑作中の傑作が1987年秋に登場した5代目のE30系ギャランだ。
アクティブFOURと名付けられたDOHC4バルブターボエンジン、4輪独立懸架と4WDシステム、4輪操舵の4WS、4輪ABSを武器に、フラッグシップのVR-4は痛快な走りを見せている。ランサーエボリューションシリーズの起点となり、日本カー・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。
が、2007年秋にモデルチェンジしたのを機に車名を「ギャランフォルティス」に変えている。ランサーエボリューションXのイメージを受け継ぐファミリーカーだったが、ベースは格下のランサーだ。
ボディは小さいし、コストダウンのためインテリアの質感も下げられた。エンジンも小さいから、黄金時代のギャランに乗っている人は不満を口にしている。
これは現行のミラージュも同様だ。もしランサーフォルティスだったら、多くの人は文句を言わなかったし、もっと売れたはずである。ちょっとユーザーを甘く見たのが失敗。
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