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F1ドライバーにCOVID-19陽性者がなぜ多い?──【連載】F1グランプリを読む

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F1ドライバーにCOVID-19陽性者がなぜ多い?──【連載】F1グランプリを読む

20人うち6人が新型コロナウイルスに感染した──。F1ドライバーの感染率が高いのは、なぜ? 赤井邦彦が解説する。

避けられない現実

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現在、F1グランプリを走ることが出来るドライバーは20人。来歴やシート獲得の経緯はどうあれ、世界トップのレーシングドライバーの20人ということに間違いはない。最近は若年化が進み、多くのドライバーが10代後半でF1マシンのステアリングを握るようになったが、35歳まで走るとなると15年以上のキャリアを積むことになる。その15年の間には様々な出来事が起こることになるが、チャンピオン・タイトルの獲得、最多勝利数更新といった華々しい記録と共に、不運にも事故に巻き込まれることがあるかもしれない。生きていれば何だって起こる。現在、世界を汚染する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への罹患もF1ドライバーだからといって避けられるものではなく、現実としてF1グランプリはその被害を被った。

その被害とは、6人ものドライバーが新型コロナに感染したことだ。まず、セルジオ・ペレスが感染し、8月の第4戦イギリスGP、第5戦70周年記念GPと2戦連続でレースを欠場した。2020年のF1シーズンはコロナウイルスのせいで開幕が4カ月遅れになり、7月5日に開幕戦が行われたばかり。その後のスケジュールは年末までに17戦の消化を義務付けられ、密な行動は避けられない状況だった。そんな中でのペレスの感染は、彼が所属するレーシングポイント・チームはもとより他チームの関係者にも恐怖を与えたことは言を待たない。

しかし、F1グランプリを主宰するリバティメディアの徹底したコロナ対策により、ペレス以降しばらく感染者は現れなかった。ところが10月に入ってペレスのチームメイト、ランス・ストロールが体調不良でニュルブルクリンクのレースを欠場、その後の検査で感染が発覚した。ストロールといえば、父親で同チームの共同オーナーであるローレンス・ストロールも感染している。同チームは年末までにさらに6人の感染が確認されている。

リチャージは簡単にできない

ペレス、ストロールよりさらにF1関係者にショックを与えたのが、ルイス・ハミルトンの感染だった。ハミルトンは第14戦トルコGPで7回目のチャンピオンに輝いたばかりだが、12月に入ってPCR検査で陽性が確認された。トルコGPに続くバーレーンGPではレース前、レース後の検査で陰性が確認されたものの、その後の再検査で陽性が判明し、第16戦サヒールGPを欠場した。

欠場は1戦だけだったが、ハミルトンは感染後の体力復活が大きな問題だったと語った。欠場したサヒールGPから1週間後に行われたアブダビGPには復帰したが、とても100%の力は発揮出来そうにないと述べた。アブダビのレース前にはこんなことを言っていた。

「100%完璧じゃない。まだ肺の中がおかしな感じだ。普通なら片腕が折れていても運転する。それがレーシングドライバーだ。しかし、今回はちょっと感じが違う。レースは体力的にとても難しいはず。でも、やるしかない」。

「精神的にもとても落ち込んだ。出来るだけ睡眠時間を多く取ったけど、リチャージは簡単じゃなかった」

復帰したアブダビGPでは4位に入賞しているが、いつものキレは見られなかった。ストロールもハミルトン同様にコロナ後の不調に悩まされたという。

「体調が戻るには相当の時間が必要だった。トレーニングが出来ず、体力が落ち、筋力も落ちた。大きなハンディだった」

しかし、F1ドライバーのコロナ感染は3人では終わらなかった。年が開けて1月になり、続けざまに若手3人の感染が報告された。1月4日、マクラーレンのランド・ノリスがPCR検査で陽性が確認され、14日にはフェラーリのシャルル・ルクレールが、31日にはアルファタウリのピエール・ガスリーが追いかけた。この3人は、今シーズン最も活躍が期待されるドライバーだけにレースへの影響を心配する声もあるが、3月28日の開幕戦バーレーンまでにはまだ時間があり、十分な回復が期待出来る。

シーズンが終了した時点ではペレス、ストロール、ハミルトンの3人は通常の体力に戻り、以前と変わらない日常生活を送っている。ただ、以前と比べて非常に用心深くなったという。

それにしても、彼らはシーズンオフの間、いかなる行動をとっているのか? ルクレールは自国モナコで感染したが、ノリスとガスリーの2人はドバイで感染が確認されている。アスリートの間では冬のオフシーズン、暖かい気候の国でトレーニングをするのが流行っている。ノリスもガスリーも前例に倣ってドバイに渡ったのだろう。中東、特にアラブ首長国連邦はコロナウイルス禍がヨーロッパに較べて緩慢という情報に頼った点もあるだろう。とはいえ、ヨーロッパからドバイに渡るには飛行機を使い、空港で過ごす時間も考慮しなくてはならない。そこにリスクが潜んでいたのかもしれない。幸いにも2人とも症状はなく、ホテルに自主隔離中。早く克服して普段の生活に戻らなければテストにも参加出来ない。

それにしても20人中6人の感染となると、その確率は約30%と非常に高い。彼らドライバーのほかにもメルセデスのトト・ウルフを初め、幾つかのチームのスタッフも感染が確認されている。モータースポーツは集団でこなす仕事であり、第3者との接触なくしては仕事にならない。加えて航空機を使った旅が多く、不特定多数との接触もあるだろう。しかし、3月に健全な状態で開幕戦を迎えるには、まだまだやらなければいけないことがありそうだ。若いドライバーはトレーニングと称して中東に避寒に出掛けている場合じゃないぞ!

PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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