ホンダエンブレムを付けたいすゞビッグホーン
スバルビッグホーンと双璧をなす変態モデル
「R32GT-Rやセブン、初代NSXはなぜ愛され続ける!?」スポーツカー黄金期の人気モデルをジャーナリスト渡辺敏史が再考する
いすゞからOEM供給を受け、1994年2月に発売されたホライゾン。前年のジャズ(ミューのOEM)に続くOEMシリーズ第2弾で、その背景にはいすゞとの間で結ばれた商品相互補完契約があった。
ビッグホーンとの違いはフロントグリルとエンブレムに見られるくらいで、ホライゾン専用としてボディカラーとアルミホイールが用意された。また、ホライゾンには3ドアショートボディが設定されず、5ドアロングボディのみだったのもビッグホーンとの違いだ。
発売時のグレードはハンドリングbyロータスと同SEの2つだけ。ヘッドライトワイパー&ウォッシャーが標準装備され、ボンネット上にインタークーラー冷却用インテークダクトを持つのがディーゼルターボモデルの識別点となる。
95年の一部改良で、廉価モデルにしてシリーズ唯一のワイドボディ仕様(全幅1835mm)となるXSが追加されるけど、結果的にハンドリングbyロータスの存在が日本のクルマ史上に輝かしい足跡を残すことになる。というのも、日本人初のレギュラーF1ドライバー中嶋悟が87~88年にステアリングを握った、キャメルカラーでおなじみの“ロータスホンダ”が図らずも復活を果たしてしまった(!?)からだ。
しかも、市販車で正々堂々とロータスホンダを名乗れるのは、先にも後にもホライゾンしかないという衝撃の事実。いすゞからのOEM供給がこんな事態を引き起こすとは、いったい誰が想像しただろうか。販売面では当然、苦戦しまくりだったけど、ロータスホンダを復活させたというだけで、もうホライゾンの存在価値は十分すぎるほど。ほかに何を望むというのか!
いかん、ちょっと興奮してしまった。話を戻そう。2グレードで展開したホライゾンには、それぞれに3.2LV6ガソリンの6VD1型(200ps/27.0kgm)と3.1L直4ディーゼルターボの4JG2型(135ps/30.0kgm)が用意された。いずれもいすゞ製エンジンであることは言うまでもない。
取材車両が搭載する4JG2型エンジン。電子制御燃料噴射システムを採用することで、動力性能の向上と黒煙の低減を実現。また、最適化した過流室式燃焼室や排ガスの再循環を行なうEGRシステムによって、NOxや黒煙の排出量を大幅に減少させている。さらに、DIF(デュアルフォーメーションインジェクション)の採用で、低負荷時の燃焼圧力を抑えて騒音も抑制している。
98年、ビッグホーンに準じてホライゾンもマイナーチェンジ。V6ガソリンエンジンは3.5Lに排気量を拡大した6VE1型(230ps/32.0kgm)に、一方の直4ディーゼルターボは排気量を3Lに縮小しながら直噴DOHC化が図られた4JX1型(160ps/34.0kgm)に切り替えられ、パフォーマンスだけでなく燃費も向上させた。ミッションは前期型と同じく、V6ガソリンは4速ATのみ、直4ディーゼルターボには4速ATの他、SEを除いて5速MTも用意されていた。
取材車両は、前期型ハンドリングbyロータスのディーゼルターボ4速ATモデル。上級モデルとなる同SEは、前後駆動トルク配分を0:100から50:50まで電子制御で行なうTOD(トルクオンディマンド)を搭載する関係から4速ATしか選べなかったけど、トランスファーレバーで2駆⇔4駆を切り替える副変速機付きパートタイム式4WDとなる素のハンドリングbyロータスなら5速MTも選択できる。話を蒸し返すようで申し訳ないが、ロータスホンダ的な視点からすると、素のハンドリングbyロータス直4ディーゼルターボ5速MTが最強モデルというわけだ。
アイポイントが高い運転席からの眺めは良好。ボディ四隅の感覚も非常につかみやすい。ホーンパッドにはハンドリングbyロータスの緑バッジが付く。スピードメーターと4500rpmからレッドゾーンが始まるタコメーターを中心として、右側に油圧計と燃料計、左側に電圧計と水温計が配置される。
センターコンソールは上からエアコン吹き出し口、デジタル式時計と各種スイッチ、オートエアコン操作パネル、1DINオーディオスペース、小物入れ。オーディオはホンダ純正カセットデッキ付きAM/FMチューナーが備わる。上級グレードSEでは、エアコン&オーディオパネルが木目調となる。
オーバーヘッドコンソールにはマップランプ、カードホルダー、フィールドセンサーが装着される。フィールドセンサーには方位、気圧、高度、外気温の各情報を表示することが可能。
2~4速にロックアップ機能を持たせてパワーロスを抑えた4速AT。ディーゼルモデルでは力強いパワーモードと、経済性に優れたノーマルモードを選ぶことが可能。トランスファーレバーにより、駆動方式を2WD(FR)、4WD Hi/Loから選ぶことができる。
まず一般路で試乗。ハンドリングbyロータスに過度の期待をしてたからか、それとも悪路でこそ持てる力を発揮するクロカン4WDだからか、舗装路での走り…というかハンドリングは、可もなく不可もないといったところ。ステアリング中立付近はユルユルだし、そこから左右に握りこぶし1コ分くらいの範囲はまるでクルマが反応しない。そもそも車重が2トンを超えてるんだから、いくらハンドリングbyロータスとはいえ、それをスポーツカーのように味付けするのは不可能だ。
直4ディーゼルターボは1500rpmも回ってれば十分なトルクがあって動力性能に不満ナシ。それどころか、ちょっとアクセルペダルを深めに踏み込んで2500rpmあたりでシフトアップするように走ると、確実に流れをリードできるくらいに力強く加速する。さっきロータスホンダ的には5速MTが最強とか書いたけど、どうやら調子に乗ってたようだ。なもんで前言撤回。4速ATでもいいじゃないか(笑)!
表皮にモケットを採用したシート。運転席は前後個別に座面の高さ調整が可能で、助手席と合わせてシートヒーターも装備する。レバーを上げて操作するアームレストは無段階に角度を変えられるのが秀逸。また、ヘッドレストを抜いて後ろに倒せば2列目シートとのフルフラット化もできる。
厚めのクッションで座り心地がいい2列目シートには、高さ調整式ヘッドレストとセンターアームレストが備わる。背もたれと座面は6:4分割式で、それぞれ10段階のリクライニングが可能だけど、スライド機構は付かない。また、2列目の乗員用に灰皿とフットレストも用意。3列目にアクセスするには2列目をダブルフォールディングする必要がある。
3列目シートは背もたれが短く、座面とフロアが近いため体育座りっぽくなる他、2列目の背もたれを最も起こした状態でも膝がつかえるほど前後方向のスペースが厳しい。緊急用もしくは子供用というのが現実。
3列目シートを出した状態だと奥行きがほとんどないけど、左右に跳ね上げ格納することで拡大できるラゲッジスペース。さらに2列目シートの背もたれを前倒し、あるいはダブルフォールディングさせることで長尺物の積載なども可能になる。また、ラゲッジルーム左側にはDC12ボルトの電源ソケットも装備。
ひとしきり走ったら、ホライゾンの真の実力を体感すべく河川敷へと向かう。基本はフラットダートだけど、ところどころ傾斜角のキツい土手とかぬかるみとかがあるんで、あえてそこに突っ込んでってみようというわけだ。
6本スポークタイプのアルミホイールは全グレードに標準装備。センターキャップにはホンダの“H”マークが確認できる。タイヤは標準サイズ245/70R16のデューラーH/Lを装着。
クルマを停めてトランスファーレバーを操作。それまでの2Hから、最も大きな駆動力を得られる4Lへとチェンジして走り出す。前後駆動トルク配分50:50の直結4駆状態だからおそろしく直進性が高く、ステアリングを大きく切ると前後輪の回転差を吸収できずにタイトターンブレーキング現象が顔を出すけど、路面μが低いダートなんでお構いナシに走り回る。
舗装路では頼りなかったハンドリングも、不整地では印象がよくなるから面白い。路面からの入力を適度に逃がしてくれるから、ステアリング操作に神経質になる必要がないのだ。「なるほど、こういう状況に合わせたユルさだったのね」とひとり納得する。
それと足回り。かなり荒れた路面なのに不快な突き上げはほぼ皆無。ロータスがオフロード走行におけるサスセッティングをどこまでやったのか、あるいはまったくやってないのかは知らないけど、この味付けはスバラシイ。
続いてメインイベントの土手クライム(笑)だ。傾斜角はわからんけど、フロントウインドウ越しの視界がボンネットと空だけになるほどのところでも、4輪がしっかりと路面をつかんで登っていくんだからハンパねぇ。
クロカンやモーグルでもやってるひとから見れば、そんなの朝飯前もいいとこなんだろうけど、オフロードとはまるで無縁で過去にたった一度、ランクル200で富士ヶ嶺オフロードを走ったことがあるだけのオレからすると、この登坂能力はすでに人智を超えている(笑)!
それから、「こりゃヤバイかも…」と思うほどの大きな凹凸があるところでも下回りをヒットすることがなかったから、アプローチ、ランプブレーク、デパーチャーの各アングルが本格的なオフロード走行を想定したものになってることや、たっぷりしたサスストロークによってそう簡単にはタイヤが浮かないことなどもよ~くわかった。
「すごいぞホライゾン!」と思ったけど、もとを正せばビッグホーン。でも、それをホンダバッジで乗れるところ、しかもロータスホンダを名乗れるところにホライゾンの本当の価値があるのだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:UBS69GWH
全長×全幅×全高:4660(4780)×1745×1840mm
ホイールベース:2760mm
トレッド(F/R):1455/1460mm
車両重量:2060kg
エンジン型式:4JG2
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ95.4×107.0mm
排気量:3059cc 圧縮比:20.0:1
最高出力:135ps/3600rpm
最大トルク:30.0kgm/2000rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ダブルウィッシュボーン/4リンクリジッド
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:FR245/70R16
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
取材協力:SKT 東京都あきる野市横沢欠ノ上43-1 ☎042-519-9826
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