クルマ選びは、予算がいくらであろうと楽しい。予算50万円でクルマを探している知り合いのカメラマン氏は、先輩からクラシックMINIの最終型(AT)を30万円で譲ってもらえることになった。「タイヤ新品4本で10万円、スマホの音源を聞くためのBluetoothスピーカーが2万円、残りの8万円で気になる凹みを直して……」と、夢がふくらむ。
もちろん、もっと潤沢な予算を用意してクルマ選びに頭を悩ませている幸せな人も世の中にはいる。個人的に、「いま、このカテゴリーのクルマ選びがホットだ!」と思うのは、「予算2500万円級のオープンカー選び」である。
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絶対に間違いはないであろうポルシェ 911ターボ カブリオレ(2533万円~)、NAのV10エンジンをブンまわしたいアウディ R8スパイダー(2623万円~)、カジュアルな感じで乗ると格好いいのではないかと思うフェラーリ ポルトフィーノ(2530万円~)、これでドリフトできるのかランボルギーニ ウラカンRWD スパイダー(2582万円~)、ブリティッシュ・サラブレッドのアストンマーティン DB11 ヴォランテ(2423万2276円~)などなど……車名を列挙するだけでワープロを打つ指が踊り出す。
そうなってくると、当然メルセデスAMG GT C ロードスター(2323万円~)も候補にあがる。メルセデスAMG GTとは、1950年代のガルウィングのスーパーカーである300SLの流れを汲むモデルだ。300SLがレーシングマシンを市販化したモデルだったのと同じように、メルセデスAMG GTはいま世界で最も熱いツーリングカーレースであるGT3のカテゴリーを戦う。
ちなみにベーシック仕様のメルセデスAMG GTロードスターは1854万円からと相対的にはリーズナブルに感じるが、最高出力で比べるとGT Cの557psに対してGTは467psと、同じ4.0リッターのV8ツインターボエンジンを積みながらもチューンが違う。ちなみにポルシェ911ターボは540psだ。
GT Cは、さらなるパワーも魅力ではあるけれど、ルックスにもグッとくる。GT Cには、“公道も走れるレーシングマシン”であるメルセデスAMG GT R譲りのオーバーフェンダーが与えられているからだ。スゴ味のある外観は、500万円の価格差も充分にお釣りがくるくらいのありがたみがある。
気分はルイス・ハミルトン!
AMGパフォーマンスシートの、それほどサイドサポートが張り出しているわけではないのに身体を包み込むようにホールドする不思議な掛け心地に感心しながら室内を見渡す。インテリアは、レーシィというよりゴージャスだ。
だがしかし、「ンバババババババ」という下っ腹に響くエンジンの始動音によって、ドライバーは自分がステアリングホイールを握っているのが、ただのゴージャスなクルマではないと知る。
加速は凄まじいけれど、速さよりもうれしいのは鋭いレスポンスと音のよさ。アクセルペダルを踏む右足の親指付け根あたりにそっと力を入れただけで、エンジンが素早く回転を上げ、乾いた音質のエグゾーストノートの音量が間髪入れずに高まる。
「右足とエンジンが直結しているかのような」というのは昔からよく使われる表現であるけれど、このクルマの場合は「右足に指令を送る脳とエンジンが直結しているかのような」と、表現したくなるぐらいの反応だ。
デュアルクラッチ式7段のAMGスピードシフトDCTは、シフトモードを「C」「S」「S+」「RACE」から選べる。ここで「S+」を選ぶと、多少シフトショックが大きくなるものの変速は電光石火の素早さになり、アクセルオフでは「バッバッバッバババ」と、大昔のキャブレターのバックファイヤのように盛大な音でドライバーを盛り上げる。
当然、メルセデスはSクラスのようなスムーズかつ静かなパワートレーンにするのも可能であるわけで、この爆音は演出だ。でも、ドライバーは自分がルイス・ハミルトンになったかのような気分を味わえる。
ルイス・ハミルトン! 史上最年少でF1ワールドチャンピオンを獲得した早熟の天才。シューマッハーの持つF1最多ポールポジション記録を抜いた人類最速の男であり、メルセデスAMGペトロナスF1チームの不動のエースだ。
1950年代の300SLと違って、現代のスーパーカーとF1の開発はそれほど接近していないかもしれない。このスーパーカーとハミルトンは、そんなに関係ないかもしれない。でも、このクルマを運転していると、確かにハミルトンの気分が味わえる。ことクルマに関しては、ホントのことなんかどうでもいいから、夢を見たい。
道がいい感じに曲がりくねってくると、さらにルイス・ハミルトンが乗り移ってくるように感じる。自分が曲がれると思う最高のスピードで、狙った通りのラインをトレースできるからだ。
けれども実際にはハミルトンのように運転が上手になったわけではなく、AMGリア・アクスルステアリングが後輪も操舵して、筆者の運転をサポートする。電子制御式のLSDが左右後輪の駆動力をコントロールしている、というのはドライバーにはまったく感じられないけれど、曲がりやすいと感じるのはこのハイテク装備のおかげでもあるのは間違いない。
乗り心地は硬い。硬いけれど、イヤではない。野球の硬式ボールをバットの真芯でとらえたときのように、キモチのいい硬さだ。路面からのショックはそれなりに受けるけれど、強固なボディがしっかりと受け止めて、揺れが残らない。すっきり辛口、スカッと硬い。
この乗り心地だったら都内をうろうろしてもいいし(もったいないけれど)、大阪ぐらいなら日帰りで往復してもいい。
というわけで2500万円級オープンカー選手権、メルセデスAMG GT C ロードスター最大の魅力は、ルイス・ハミルトンの気分が味わえる点だ。アクセルペダルとステアリングホイールを繊細に操作しつつ、アグレッシブに攻めるあの野性味溢れるドライビングスタイルを自分でも表現している……そんな気になれる。
いまどき2500万円も出してがっかりするようなクルマはなかなかない。もちろん、メルセデスAMG GT C ロードスターもクルマとしての出来は完璧だ。そのうえさらに、現役のワールドチャンピオンの気持ちが味わえる。これはライバルに対するなかなかのアドバンテージだろう。
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