ゼネラルモータース(GM)のシボレー部門は2019年7月18日に、「C8」と呼ばれる第8世代のシボレー「コルベット」を世界初公開しました。注目点は、ただひとつ。1954年のC1(初代)から脈々と続いてきたフロントエンジン・リアドライブ(FR)というパッケージを改め、エンジンを乗員の後ろ側に配置するリアミッドシップを採用したことです。
なぜ伝統を断ち切って、リアミッドシップのレイアウトを採用したのでしょうか。
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新たにリアミッドシップレイアウトが採用された新型「コルベット」 真っ赤なボディカラーにミッドシップエンジン。まるで、イタリアンスーパーカー「フェラーリ」のような出で立ちをもつこのクルマが、新型コルベットです。
ボディサイズは、全長4630mm×全幅1934mm×全高1234mm、ホイールベースが2722mm。
搭載するエンジンは、アメリカではスモールブロックとも呼ばれる、排気量6.2リッターV型8気筒OHVの「LT2型」で、最高出力は495馬力、最大トルクは637Nmを発揮します。トランスミッションは8速のデュアルクラッチ方式を採用しました。
こうしたGMの決断には、コルベットファンの間から賛否両論があります。
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「次期コルベットはミッドシップになるらしい」
そんな噂が2016年ごろから、アメリカを中心に広まり始めました。量産を念頭に置いたテスト車両が、欧米の市街地で走行を始めたからです。
テスト車両のスクープを専門とするスパイフォトやスパイビデオの業者は、スポーツカーテストの聖地であるドイツ・ニュルブルクリンクで、次期コルベット登場の瞬間を待ち構えていました。
そこに登場したのは、噂どおりのフォルム。フロントノーズが短く、2シーターのボディ中間の直後にエンジン冷却用のエアダクトを備えたテスト車両。これは、どう見てもミッドシップ車でした。
2019年春になると、ニューヨーク・マンハッタンをはじめ全米各地に、「2019年7月18日世界デビュー」とボディに表記した、C8コルベットのテスト車両が走行するという事前宣伝も実施。
「噂は本当なんだ」と、コルベットのファンたちは大きなため息をつきました。
コルベット = FR。この方程式が崩れたことに、長年のコルベットファンたちが戸惑っていることは確かです。
そうした世の中の反響があることを十分に承知のうえで、GMはなぜ、コルベットのミッドシップ化の道を選択したのでしょうか。
コルベットはマッスルカーではなかった!? 独自の進化をした理由 コルベットは、アメ車の王道です。つまり、エンジンはV8で、そしてボディパッケージはFRが採用されていました。
米国でお披露目された新型「コルベット」 しかしコルベットは、GMシボレー「カマロ」、フォード「マスタング」、そしてダッジ「チャレンジャー」のような、マッスルカーではありません。マッスルカーとは、1960年代に大ブレイクした、V8 + FRのアメリカンスポーツカーの総称です。
一方、コルベットの誕生時期は、各種マッスルカーより少し前です。しかも、コルベットの使命は『未来を予感させる最先端自動車』であり、マッスルカーのような大衆スポーツカーとは一線を介しています。
走行性能だけを見れば、マッスルカーでもマスタングの「シェルビー」など、オフィシャルチューニングによってコルベットを上回る馬力、トルク、そして加速性能や最高速度を有するモデルも存在します。
一方、コルベットはチューニングではなく、正規モデルラインアップとして、C7世代ではスーパーチャージャー + V8の「Z06」(650馬力)、さらにGM自社のレース活動からのフィードバック技術を量産車に注いだ「ZR1」(766馬力)といった、ハイパフォーマンスモデルを市場導入しています。
高性能エンジンを搭載することによるブランド戦略として、コルベットはマッスルカーとは別の方式をとってきたのです。
こういった文脈で見れば、コルベットは国産スーパースポーツカーの日産「GT-R」に近いイメージかもしれません。
だとするならば、今回おこなわれたコルベットのミッドシップ化は、日本人にとって「GT-Rをミッドシップにしてしまうのか」という感覚なのです。現状ならば、GT-RファンはGT-Rのミッドシップ化を「許さない」でしょう。
それをGMはコルベットでやってのけたのです。コルベットファンからブーイングが起こることは当然なはずです。
繰り返しますが、GMはなぜ、コルベットのミッドシップ化の道を選択したのでしょうか。
そこにあるのは、100年に一度といわれる自動車産業の大変革です。自動運転、EV、コネクテッドカー、そしてライドシェアリングなどの影響による「所有から共有」の流れなど、世の中におけるクルマの在り方が大きく変わってきています。
こうした大きな時代変化の中、コルベットは開発の初心である『未来を創造する最先端を具現化すること』に重点を置き、よりハイパフォーマンスを目指すことをGMは決断したのです。
ドイツ・ニュルブルクリンクなどの過酷な走行状況で、欧州の最先端スポーツカーと互角に戦うためには、「ミッドシップ化が必然」だったのです。
もちろん、GMエンジニアのなかでも「FRはコルベットのヘリテージ(伝統)だ」として、C8でもFR固辞という意見があったことは疑う余地がありません。
それでもなお、GM上層部は「コルベットのミッドシップ化は、世界に向けてGMがいま大きく変わろうとしていることの証明である」という強い意思が優先したといえます。
コルベットがコルベットであるには、性能の高さにしてはリーズナブルな価格設定という点も重要ということで、C8もC7までと同じ路線を敷いています。
今回の発表では、ベースモデルの価格は北米現地価格で6万ドル(約650万円)以下としています。
見た目や走行性能がフェラーリ級でも、価格はフェラーリの半分以下。これがコルベットの真骨頂なのです。
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